表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

その1


「昨日、バトマジでさー」

「今日暇だったらバトマジやろうぜ」


 こんな会話がそこかしこで聞こえる今日この頃。私――三田佳織(みたかおり)の周りでは通称バトマジ、正式名称『バトルマジックレジェンド』というゲームが大流行している。


 このバトマジは、人気の連載漫画が原作のゲームだ。


 いじめられっ子だった主人公が偶然バトルマジックカードという魔獣召喚のカードを拾ったところから話は始まる。そして彼は魔獣使いになり、徐々に仲間を集めながら無双していくというよくあるお話だ。


 その漫画にちなんだゲームが今巷では大流行で、ゲーム機を持っている子、特に男の子はクラスの殆どがこれをやっている。そして、このゲームではいかに多くの魔獣召喚(バトマジ)カードを集めるかがキーになるのだが、実はこのカード、コンビニのお菓子の付録で買えるという特徴がある。


 このコンビニのお菓子はバトマジとタイアップしたバトマジチョコスナックと言うものだ。100円のチョコスナックを買うと中にマジックアイテムもしくは魔獣が一つ記載されたQRコード付きのバトマジカードが入っている。


 中にはいっているカードの半分くらいはマジックポイントの回復薬だけれども、ときには何度もガチャしないと獲得できないようなレアな魔獣カードが入っていることもある。


 このバトマジカードをめぐって、私の通う馬頭(うまかしら)小学校5年2組で事件が発生した。


    ◇ ◇ ◇


 それはある日のお昼休みの事だった。教室の自席で友達の 園田朋美(そのだともみ)こと朋ちゃんとお喋りをしていた私は悲鳴のような大きな声に気付き、教室の一角に目をやった。


「俺のバトマジカードがない!」


 まわりの生徒もその声に反応して教室の一角がざわざわと煩くなった。声の主であるクラスメイトの草壁智也(くさかべともや)は、今日持ってきたバトマジカードがなくなったと大騒ぎしていた。


 騒ぎに気が付いたクラスの男子生徒がどんどん集まってきて、クラスメイト全員でのバトマジカード探しが始まる。

 草壁君の机のまわりの床はもちろん、机の中もチェックした。最後は草壁君の鞄の中のものを全部出してから一つずつ鞄に仕舞っていくという作業を行ったけれど、バトマジカードは出てこなかった。


「だれだよ! 俺のバトマジカード盗ったのは?」


 草壁君は真っ赤な顔をして周囲を見渡した。


 そのとき、ほとんどのクラスメイトが教室にいたけれど、もちろん名乗り出る人はいない。


「あれ、まだQRコード読み込んでないんだ。返せよ!」


 草壁君はなおも大きな声で叫ぶけど、私も含めて周りのクラスメイトは顔を見合わせるだけ。

 そうこうするうちにチャイムが鳴って担任の佐藤先生が入ってくる。クラスメイト達は佐藤先生の姿を見て大急ぎで自分の席に座る。それで草壁君もようやく黙った。


 翌日の朝、朋ちゃんと登校した私は教室の雰囲気がいつもと違うことに気付いた。

 なんというか、みんなの雰囲気がいつもよりも()()()()()()のだ。


「なんかあったの?」


 私と朋ちゃんは近くにいたクラスメイトの近藤さんに理由を聞く。近藤さんは内緒話をするように顔を近づけてきた。


「昨日、草壁君のバトマジカードがなくなったでしょ? あれ、遠野君の仕業らしいよ」


 私は驚きで我が耳を疑った。

 遠野君とは、クラスメイトの遠野功(とおのこう)のことだ。3人兄弟の長男で、下に低学年と幼稚園児の弟が2人いる。大人しくてとてもそんなことするようには見えないし、遠野君は普段から学級委員の仕事を手伝ったりして、優しい男の子なのだ。


「本当に?」


 思わず私が聞きかえすと、近藤さんは肩を竦めて見せた。


「昨日、遠野君が草壁君のなくしたバトマジカードを持っているのを水野君と戸田君が見たらしいの。駅前のコンビニで遠野君がそのバトマジカードを見ていたんだって」

「遠野君はなんて言っているの?」

「自分で買ったバトマジチョコスナックにたまたま入っていたって言っているみたいなんだけど、証拠がないらしいわ。そこのコンビニじゃなくて別のコンビニで買ったっていうんだけど、レシートは捨てたって言っていて。それに、昨日の学年交流給食の後に遠野君は一人だけ先に戻ったでしょ? そのときに盗ったんじゃないかって2人は言っていて……」


 私と朋ちゃんは顔を見合わせる。


 昨日は確かに、半年に一度の学年交流給食の日だった。1年生から6年生までが一緒に給食を食べて、交流するイベントだ。

 言われてみれば、昨日の学年交流給食のときに遠野君はひとりだけ急いで先に戻っていた。でもそんなことって……。


 朋ちゃんも今の話がにわかには信じがたいようだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ