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就活  作者: AIAMAAI
6/15

坂の上

 車が一台通れるくらいの細い道を挟んで向かい合う豪邸は、互いの富豪さを競い合うかのように巨大な自然石を積み重ねてその上に垣根を立てて、庭の植樹の大木でその周りを囲んで屋敷の全貌を覆い隠していた。歩いている心弥には眼には見えないのではあるが、それでもその門塀の豪華さだけで屋敷の大きさを知ることができた。

 大木の枝が囲みの門塀から外に伸びてはみ出し、それが重なり合ってまるでトンネルのように細い道を覆って陽光を遮っていた。そこは薄暗くて涼やかで、所々で木々の枝の隙間から差し込む木漏れ日が、舗道を明るく照らしていた。心弥は、林の中で森林浴しているような錯覚さえ感じた。

ワンワンワン!

 突然、犬のけたたましい吠える声が聞こえてきた。心弥はドキッとして足を止め、そこら辺りを見廻した。だが、どこにも犬の姿はなかった。

「脅かすなよ」

と、心弥は胸を撫で下ろした。犬が嫌いなわけではなかったが、それでも犬の吠える声にはたじろぐものである。額に流れる汗を、心弥は手の甲で拭い、再び歩き始めた。

 すると、突如、どこからともなく子供達のはしゃぐ声が轟き渡ってきた。心弥は、またも足を止めてそこら中を見廻した。犬と同様に、声はすれどもその姿は見えなかった。心弥は耳を澄ませて子供達の声を聞いた。その声は囲いの中から聞こえてきた。広い庭で犬と遊んでいるのであろう。

「そんな時間なのか?」

と、心弥はポケットからスマホを取り出して画面を見た。

「もう、夏休みか……」

 自堕落と言われそうな生活をしている今は、以前のように時間や日にちばかりを気にかけていなかった事に、心弥は漸く気付いてニガ笑いをした。

 閑静な高級住宅街のその細い道は、通る人もいなければ、走行する車もなかった。そこはまさしく林の中だった。

 気持ち良く森林浴を楽しんでいると、突如、現実に引き戻された気分に陥った。背後からエンジン音がしたのだ。心弥は振り返った。一台のハイヤーが坂を上ってきた。心弥はそれを避けるように道の脇に身を寄せた。ハイヤーがその傍を通り過ぎていった。ぼんやりと見送っていた心弥は、何を思ったのか、走り去っていくハイヤーの後を追い駆けた。

 ハイヤーは立派な構えの門の前で停車した。ドライバーが、運転席から降車してきて、呼鈴のボタンを押した。心弥は立ち止まって、その様子を窺った。運転手はハイヤーに戻って、トランクと後部席のドアを開け、ハイヤーの傍に突っ立って客を待った。

 数分ほどして門が開き、ブランド物の大きな旅行鞄を両手に抱えた中高年の夫婦が出てきた。

「手荒に扱わないでよ。ブランド物なんだから、傷なんかつけないように丁寧にね」

 運転手に旅行鞄を手渡しながら、女が冷たく射すように言った。

「あ、はい」

 運転手は顔を強ばらせて、扱いに気を配りながら丁重にトランクに旅行鞄を載せた。

「おい、早くしろよ。飛行機の時間に遅れんじゃねえか」

 ハイヤーの後部席に着いている男が、窓から顔を出して冷たく蔑むように運転手に怒鳴った。

「あ、はい」

 運転手は慌てたように音を立ててトランクを閉めた。途端に、

「ちょっとッ、気をつけなさいよ。傷でもついたら、安月給で弁償できるのッ」

と、女が頭ごなしに怒鳴った。

「あッ、申し訳ありません。すみません」

と、運転手は恐縮して頭を下げた。

「いいから、早くしろよ!」

と、男が怒鳴り捲った。

 その様子をぼんやりと眺めていた心弥は、ハイヤーが急発進したあと歩み寄って行って、門の前で立ち止まった。それと同時に通用門の扉が開いて、家政婦らしき中年女が出てきた。

 家政婦らしき中年女は、門の前に突っ立っている心弥の存在などないかのように気にもかけずに立ち去っていった。

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