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クエストクリア!(と簡単なあらすじ)

あまりにも久しぶりなので、あらすじ。


 サラ(私)はチート持ちである。

 十歳の頃、予兆として『島国の大都市東京』を幻視してしまうが、母とともに何不自由なく暮らしていた。十二歳になると、今度は年齢を十五歳と偽りつつも冒険者ギルドに所属することになる。そしてサラは、ギルドの長であるホラン、ファイターのナル、同じチート持ちでありアサシンのテンに恋心を抱く。

 そんなサラは十五歳になると、とある出来事により学校を去らなければいけなくなる。

 そして今は十二歳。攻撃魔法を得意とするアビー、補助魔法を得意とするルイ、槍使いのアギト、回復魔法と補助魔法を得意とするミヨらとともに、ギルド総動員でオオカミ退治のクエストを受けいる。しかし――。

 巨大なオオカミはグルルと、低く喉を鳴らした。

 部下か子どもか分からないが、同族を殺された恨みが顔からも見てとれた。


「ミヨも危ないんじゃないか!? 早く指示を出せ、ホラン!」


 ナルが鉄の爪をカシャカシャと鳴らした。威嚇しているつもりらしいが、人間よりはるかに大きいオオカミの前では威嚇になっているかどうか怪しい。ただ、注意を引き付けなければミヨが危なかった。

 回復魔法役としてうしろに下がっていたミヨだけがまだ林の中にいる。ジッと息をひそめ、バニッシュの効果で消えている。だが、バニッシュの効果があったのはルイも同じだ。

 オオカミの異様な聴力で呼吸音を聞き取り、場所を把握したのかもしれない。バニッシュは口から出る音までは消すことができないから、その可能性が大いにあった。


「おい、こっち見ろよ!」


 ナルは爪をカシャカシャ鳴らしながら言う。


「ナル、やめろ。僕の指示を待て」


 ホランがナルを静止しようと言葉をかける。しかしナルは首を横に振る。


「待てない」

「統率が乱れることが一番危険だ。ナルもそれは分かっているだろ?」

「うるせえ、ミヨがあぶねえんだよ! 俺がひきつけなきゃなんねえだろ!」


 ナルは説得もむなしく、巨大オオカミへと向かっていった。

 ナルの素早い切り裂き攻撃に、オオカミは脚から血を流す。だが、効いているそぶりはない。


「ナルが注意を引き付けている間に、ミヨは僕のうしろへ! 僕たち前衛はナルへ加勢、後衛は後退しつつ援護を。アビーは魔法で攻撃、ルイは補助魔法、サラはミヨがやってくるまでみんなの回復を! 急いで!」


 いつもは冷静なホランが早口に指示を出し、剣を構えて素早く突進した。アギトもそのあとを追う。しかしテンはあとを追いつつも、焦った様子があまりなく、冷静な面持ちでいた。


 テンはこの時、前衛としてナイフを扱っていた。両手で持つことのできる軽い暗殺者(アサシン)ナイフだ。ただ、彼もチート持ちなので私と同じように、魔法を使うことができた。前衛職をやっているのは、テンがパーティーに入った時は後衛職が多かったから、という単純な理由を私はのちに聞かされる。本当は私と同じような魔力があり、多くの魔法を唱えることができた。

 だからこそ、冷静でいられたのだろう。私も、巨大なオオカミの登場に驚きはしたが、倒せないこともないと感じたので、終始冷静でいられた。


 ただ、そんなチート持ちな私たちとは違って、ナルは「おおおおっ!」と雄叫びをあげながら戦っていた。脚をちぎろうとしているのか、同じ部分を何度も切り裂いていた。もちろんオオカミも黙って見るだけではなく、何度もナルの腹に蹴りを入れ、爪で顔を引き裂いていた。私はそのたびに回復魔法を唱えた。

 この時のナルは異様なほど冷静ではなかった。もちろん、ボスクラスの魔物と戦っているのだから、冷静でいられる方が変だ。ただ、ナルは普段見るナルからは想像できないほど、理性的ではなかった。


 オオカミと戦っている最中も、それどころかしばらくの間、その理由がまったく分からなかったが、時間が経つことで、ナルがミヨのことを好きだと知ることになった。

 それは巨大オオカミが突如現れたこと以上に衝撃的で、一つの恋の感情がしおれていく実感を覚えた。複数の人間に恋をしていくにも関わらず、失恋のショックは贅沢なほど立派に感じていた。


 そんなナルだから、回復をしてもすぐにボロボロになる。私のチート回復力があったとしても、ナルの気力の方まではカバーしきれない。私はこのままナルがおかしくなってしまうのではないかと危惧した。


 ただ、それを何とかしたのは、またしてもテンだった。


 テンは一端オオカミから離れ、距離を置き、手元にあったナイフをヒュッと一つ投げた。

 そのナイフは奇跡的と言っていい具合に、オオカミの目の中へと入った。片目が潰されたオオカミはバランスを崩し、その場に座り込み、ぐおおおおおと、よだれと血を垂らしながら雄叫びを上げた。

 そんなすごい技をやってのけたテンは、私のもとまでやってきた。

 そして耳元で小さく囁いた。


「チート技はさり気なく、誰にも気付かれないようにした方がいい。後々面倒なことになるよ」


 テンはニコッと笑ってみせた。

 私はそんなテンについ「わ、分かってるわよ!」と声を荒げて言った。

 耳元で囁かれたことがこそばゆいほど気持ち良かったし、私のそばにやってきたことも、そして初めてまともに声をかけてくれたことも、興奮しておかしくなるぐらい嬉しかったからだ。

 私はナルに恋をしつつも、テンにも恋をしている。

 しかしこの時からだろうか、私の恋は急にテンに傾きかけはじめる。


 しかしそんな恋心とは別に、私はテンの忠告に対しては真剣に考えた。

 チート技はさり気なく……。

 後々面倒になるから、という言葉にコリン先生の説教を私は思い出す。遠回しに空気を読めと言われたあの時だ。

 やはり、チート持ちというのは、隠す必要がある。

 例えば小さなオオカミを射止めた氷柱ぐらいが、おそらく限界なのだろう。あれ以上大きな氷柱を作ることは推奨されない。チートであることがバレてしまう。


 私はパーティーの空気を読みつつ、巨大オオカミを仕留めるための魔法を考える。そして賢さチートのおかげか、すぐにその魔法を思い浮かぶことができた。


 私はオオカミの臓腑の中に、魔法を発生させた。


 魔法は基本、体の外にしか届かない。体の外を覆う毛穴などが小さすぎるせいだ。だが、私はオオカミの体で最も大きな穴――つまり口――を利用して、体内で魔法を発動させた。

 地球の生物学で、口から肛門までの繋がりを『体の外』として見る考えがある。私はそれを利用したのだと思う。


「おお、なんだなんだ?」


 ナルは驚き、オオカミから退いた。

 オオカミは苦しそうに首を上下させ、震える脚で地面を叩き、魔法で膨れる腹を地面に押さえつけた。そして、腹の膨らみが小さくなると、オオカミは静かに倒れ、目を閉じた。


「どうやら、倒せたようだね」


 ホランが顔についた汗やドロを服でぬぐう。そばには今まで隠れていたミヨがいて、ホランの傷を魔法で癒していた。

 私はその場にしゃがんで休みをとった。魔法を放った魔力的な疲れより、ギルドの誰かが犠牲になることを想像して、気疲れしてしまっていた。傷の回復だけならまだしも、チート持ちとはいえ、失った命を取り戻せるかどうか、この時の私はよく分かっていなかった。

 そんな横に、スッとさり気なくテンが座ってきた。


「よく思いついたね。体内に魔法を放つなんていう発想、僕には思い浮かばなかったよ」

「え、いや、そんな大層なことはしてないけど……」


 そしてテンは私に顔を近づける。私は顔を赤らめそっぽを向こうとするが、テンはその辺の反応を気にしていなかったのか、私の耳元に口を近づけて言った。


「大丈夫。僕もチート持ちだから。本当は魔法もサラさんぐらい使えるんだ」

「へ、へえー……そうなんだ。でも私の方が強いんじゃない?」

「同じかもしれないよ。同じ年だし」

「そんなこと――っていうか、え? 私、十五歳で、テンは十二歳でしょ?」

「うん、僕は十二歳だけど、サラさんも十二歳だよね」


 どこでバレたのだろう、と私が思っていると、


「僕のチートスキル、頭の声がほんの少しだけ聞こえるんだ。だから年齢ぐらいは分かっていたよ」


 と私の思考を読んでテンは答えた。


「じゃ、じゃあ他のことも色々と聞いたの!?」

「いや、ほとんど聞こえてないよ。頭の声を聞くための条件は結構シビアなんだ。だからそれ以上のことは知らないよ」

「ホントに?」

「ホントだよ。命に誓っても」

「ふーん、分かった。じゃあ信じる。でも悪趣味なそのチートスキル、私の前では絶対発動させないでね。言いたいことは私、直接言うから!」


 私は恥ずかしいやら腹立たしいやら愛しいやら、様々な感情を抱えながらすっくと立ちあがった。

 しかし頭の中で渦巻いていた疑問は、シンプルに一つだけだった。


 ――私がテンのことが好きって、テンにバレていたらどうしよう!


 この時の私は憐れなことに、その気持ちがテンにバレていると気付いていなかった。



 ▽


 このような調子で私たちは次々とクエストをクリアし、日帰り不能な大型クエストに向けて軍資金を集めていった。

 学業に関して、私は早退と遅刻を何度も繰り返していたが、一応エルンシュタットの一生徒としても生活を続けた。


 そんな小さくお使いのようなクエストの連続から三ヶ月後、ついに大型クエストをホランが持ってきた。

 その場所は随分と遠く、今までの私からしてみれば縁もゆかりもない土地に見えた。


 だが実際には、私にとってそこは縁深い土地だった。

 そして、そんな縁深い土地の中で、私はどうしようもないことをしでかしてしまう。

ちょっとペース上げたい。

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