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はじめての魔物退治

バトルシーンを書くと、やっぱり血は避けられないなと感じたので、R15のタグをつけました。

後付けですみません。でもキッツイ痛い描写まではやらないようにします。

「先立つものがなければ大きな冒険はできない。ダンジョン攻略は一日で終わるようなものではないからね。そこで少しの間は、小さなクエストをこなして小銭を稼ごうと思う」


 私がパーティーに正式加入した時、ホランはギルドから小さなクエストを受注していた。

 小さなクエストとはつまり日帰りで済むお使いのようなクエストだ。

 エルンシュタット周辺に生息する魔物の牙を集めてくれ、山の頂に住む観測所の人間に手紙を渡してくれ、畑を荒らす魔物を退治してくれ……など、冒険者にとっては他愛のないものだが、一般人が手を出すことはお勧めしない案件が多かった。


「魔物と戦ったこと、ないよね? この辺のクエストで実戦を積むといいよ」


 ホランは白く綺麗な歯を私に見せながら言う。綺麗な歯も素敵、などと乙女心を開花させながらも私は冷静に「ありがとうございます」と返事をした。



 ▽


『依頼主:ヤレン

 依頼内容:私の畑を荒らす不届き者たちを退治して欲しい。畑を荒らす魔物はオオカミ型だと思うが、私自身は情けないことにその姿をはっきりと目で捉えてはいない。ただ日が落ちたあとに数匹揃って現れる。冒険者の皆さま、このままでは農作物の収穫がなくなり、私は衰弱死してしまいます。報酬は微々たるものですが、どうかこの老人の依頼を受けていただけないものでしょうか?

 場所:エルンシュタットから北に三ハンス

 報酬:十五万ガルド(必要経費は別途支払い)』


 私たちはこのクエストを引き受けることにした。

 ホランが言うには、報酬が農家にしては高く、その金額から物事の深刻さがうかがえるらしい。そういう深刻な案件は放っておけない、というパーティーの理念もあり、この依頼を引き受けることにした。

 もっとも、依頼主に同情しつつも、一銭も負けずに報酬をいただくつもりなのは、言うまでもない。


 エルンシュタットから北に三ハンスという距離は、のちに私たちが『異世界』と呼ぶことになる地球のメートル法で言えば、十二キロメートルほどで、距離自体は大したことはなかった。ただ出現時刻が『日が落ちてから』であり、ヤレンの住む農地が山林の中にあることから、冒険者にとってあまり良い場所とは言えなかった。

 夜目が効かない中、素早く動く狼を林の中で攻撃をする。それが剣であるならば、木に刺さってぬけなくなる恐れもあるし、炎魔法などは山火事の心配があった。雷魔法や水魔法といった様々な魔法も、どこで作物の影響を及ぼすか分からない。深刻さ以上に、現地に足を踏み込むことで、報酬の高さを実感することもまた、クエストの特徴と言えた。


 私たちは昼を過ぎた頃ぐらいにヤレンと出会い、詳しく話を聞いた。

 オオカミ型の魔物は日が上っている間、どこに潜んでいるのか分からないので、こちらから襲撃することは難しく、やはり農地の近くにある林の中で待機する必要があった。


「あいつらは少しずつ農作物を荒らす。全部食べると、ここでの生活がままならないと分かっているからだ。だが、その分、毎日やってくる。今夜もやってくるはずだ」


 私たちはヤレンの言葉を信じつつ、ヤレンの家の中で、夕日が赤く輝き出すまで辛抱強く待った。

 そして夜の帳がかすかに降りはじめてから、林の中へと移動を開始した。


「精霊の加護のもと、我らに隠密の神秘を……」


 私は静かにバニッシュの魔法を唱えた。

 この魔法を唱えれば、姿は消え、臭いも消える。激しく動けば効果がなくなる上に、声は他人から聞き取れて、足跡が残る点ので完全な隠密とは言えないが、注意すれば相手に見つかることはない。

 また私たちは隠密魔法中でも位置だけは特定できるよう、特殊な石をお互い一つずつ持っていた。その石は光りを放つが、パーティーの人間にしか認識できない特殊な術式を帯びた光を放つ。


「よし、じゃあオオカミが出てくるまで待機。出てきたら僕が合図をする。その合図とともに、サラとアビーは氷魔法で攻撃。そのあとルイは相手の嗅覚を奪ってくれ。僕とテン、ナル、アギトの四人は、混乱しているオオカミたちに奇襲をかける。もし誰かが傷ついたら、サラとミヨで回復をお願い。……あ、サラは攻撃優先でいいけど、僕が合図したらバニッシュを解いてね」


 姿の見えないホランがテキパキと指示を飛ばす。

 見えない分、この時はまだほとんど会話をしていなかった攻撃魔法を得意とする少女・アビーや、補助魔法を得意とする少女・ルイや、槍使いの青年・アギトや、回復魔法を得意とする少女・ミヨと連携するイメージが思い浮かべられなかった。顔はもちろん、はっきりと覚えていたが……。


「なかなかこないな」


 息を殺すことが退屈なのか、ナルがぼそりとささやいた。

 意外と近くで声が聞こえたので、私はビクリと体を震わせ、つい音を立ててしまった。


「何やってるんだよ、サラ」

「ご、ごめんなさい」


 彼はまた、私をあの相貌でにらみつけているのだろうか、などと妄想する。

 そしてそういう妄想自体が少し恥ずかしいことだと、少ししてから感じて、顔を赤くした。


「来たよ」


 私が火照った顔を冷やしている時だった。声を出したのはホランだった。

 オオカミ特有の吐息の音がまず聞こえ、地面を踏みつける音が聞こえた。音から推測するに、その数は三匹だった。

 月夜の光に偶然オオカミが照らし出される。鋭く逆立った白銀の毛並みが全身を覆い、半開きの口からは鋭い牙が見える。見るからに獰猛そうなオオカミだった。


 オオカミはのそり、のそりと静かに畑に入っていく。依頼主であるヤレンに気付かれることなく農作物を奪うためだろう。警戒心も強く、辺りを何度もキョロキョロと見回し、何度も歩みを止める。

 ホラン、テン、ナル、アギトの四人は林から出てオオカミの跡を追った。彼らの持つ石の光しか見えないが、各々の武器を構えていることは間違いない。

 と、ホランから合図があった。光る石を静かに振っている。攻撃魔法を放つ合図だ。

 私とアビーはともに杖を構えて、静かに詠唱をする。

 アビーは私のようにチート持ちではない上に、私と少ししか歳が離れていなかったので、魔法が現出するまで時間がかかっていた。一方で私は少し魔力を弱めつつも、ナルに勝ったことで調子に乗っていたのか、やや強い魔力を杖にためつつあった。


 アビーが片手剣サイズの氷柱を作る間に、私は人間サイズの氷柱をこしらえた。

 さっそく、私たちはそんな氷柱をオオカミたちに気付かれる前に放った。


 キャイン、という甲高い鳴き声がいくつも聞こえる。

 オオカミたちに氷柱が刺さったのだ。

 アビーの氷柱は足に刺さり、私の氷柱は別にいた一匹のオオカミの腹をつらぬいた。

 一匹、討伐だ。


「前衛、攻撃!」


 というホランの声とともに、空中にホランたちの武器が出現する。その切っ先がそれぞれのオオカミに突き刺さった。

 アビーの氷柱が刺さったオオカミは、咄嗟に動けず、真っ先にホランの片手剣とアギトの槍の餌食となり、動きを止めた。

 最後の一匹となったオオカミは鉄でできたナルの爪を避けたが、テンの振るうナイフはオオカミの首筋をいとも簡単に刺した。

 いや、あまりにも楽に刺しすぎている気すらした。まるでオオカミの素早い動きの機微をコンマ一秒単位で正確に読み取った上で動脈の位置を確かめて刺す――その余裕を私はテンのナイフさばきから感じた。


 恋したせいでこの時までは忘れていて、言われた時にはピンときていなかったが、ここにきて私は考えた。

 テンの『やっぱり、君は僕と同じ?』という意味について。

 そしてこの時の私はある可能性を思い描いた。


 テンは、私と同じチート持ちなのではないだろうか。


 確証はなかった。ナイフさばき一つだけで判断するのは早計だった。

 ただ、あの言葉を放ったテンの生き生きとした表情も、判断材料に適していた。


 この時の私の予感は、今だから分かるが当たっている。

 テンは私と同じチート持ちだ。

 ゆえに、私たちは長い付き合いになる。

 ただ、この時はまだ聞けるタイミングではなかった。


「意外とあっけなかったね。でもお疲れ様」


 ホランは体をほぐし、剣についたオオカミの血を丁寧にぬぐっていた。

 空気は弛緩しつつあった。

 私とアビーはオオカミたちの死骸がある畑へと足を運んだ。

 私は、自分の手で初めて殺した魔物を見て、冒険者としての実感にかなり浸っていた。


 そのため、チート持ちであるというのに、私は油断していた。そして、テンも油断していたのだろう。


 ドン、という音とともに、林の中に隠れていたルイが畑の中に飛んできた。いや、正確には蹴り飛ばされた。頭から地面へとつっこみ、勢いよく転がり、そのままピクリとも動かなくなった。

 慌ててかけよった私は回復魔法を無詠唱で唱える。「うう……」と口から血を吐き虫の息になっているルイの傷は酷いものだったが、チート持ちの私の回復魔法となれば、一瞬にして傷は塞がった。


「あれ……私、どうしたの……?」


 ルイは瞬時に気を取り戻した。

 私はそのことにホッとしつつも、辺りを瞬時に見回した。

 すると、林の中にそれ(・・)はいた。

 先ほど倒したオオカミよりも何倍も大きく、人間なんか踏みつぶされるだけでも重傷を負うほどの巨大なオオカミだ。


「親玉がいましたか……」


 ホランが、ふうと重く息を吐いた。

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