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予兆

初稿第1話分ラストです。

 少し変わった運命に向かう気付きの直後には、予兆が現れた。この早すぎる変化が偶然だったのか、必然だったのか、今となってはよく分からない。

 しかしそれは、遅かれ早かれ、私のもとに必ずやってきた。


 予兆もまた、十歳の頃にやってきた。それも、学校での出来事の数日後だった。




 予兆が訪れたとある日の夕方。

 その時、私は家で母の農業の手伝いをしていた。


城下町から離れ、森林に囲まれたレンガ造りの安い家に私たちは住んでいた。母は、女手一つで私を育て、農業を耕し、農作物を国に収めていた。

 父は私が生まれた時からいなかった。「父がいなくても子どもは生まれるのよ。本で読まなかった?」と母は、私が父の話をするたびにそう言ってはぐらかして、私をイライラとさせたが、今となってはそんな母の気持ちが分かる。


 ただ、父がそういう理由で不在であっても、私はそれ以上何かを問おうとは思わなかった。貧しいのにも関わらず、私には朝の農作業より通学を優先させてくれて、それでいて農作業の愚痴の一つすら言わなかった。

 それに、のちに知ったことだが、母は私がチート持ちとして育っていくことを知っていて学校に通わせていた。そのチート持ちとしての才能を、さらに伸ばそうと思ったらしい。結局私は中退をしてしまうことにはなるが、学校に通わなければ、私は最初の気付きに出会うタイミングが随分と遅れていたと思う。

 そういったことを思うと、私は世界で一番尊敬できる人間は母なのだと、いつでも胸をはって言える。


 そんな尊敬する母のそばで、レンガ造りの家を背に、予兆の直前はせっせと収穫したジャガイモをカゴの中に放りこんでいた。

 ジャガイモを運ぶため、カゴを背負おうとした時だった。

 キイイイイイイイイインと、耳鳴りみたいな高音が頭の中に響き渡ると同時に、私は突如、頭痛と吐き気に見舞われた。すごく嫌な気分になった私は「うぐう」とうなり声をあげ、地面に突っ伏した。

 そばにいた母が「サラ、大丈夫!?」と顔色を変えて駆け寄って私を抱きかかえた。

 いつぶりの抱擁なんだろう、なんて呑気なことが一瞬だけ頭をよぎった。が、そんな悠長なことを考えている間は、予兆になかった。

 私は母に抱きかかえられ、苦しみながら、見たこともない光景が次々と頭の中で見ていた。それはまるでその場所にワープ(・・・)したかのような現実感を伴っていた。そんな奇妙なものを私は見ていた。

 これが予兆だった。




「大丈夫?」


 私は母の声を聞いて目を覚ました。朦朧としていたので、しばらくの間、私が半日以上寝ていたことに気付くことができなかった。気を失う前には沈みかけていた日が、今では家の周りを照らしている。そこで、ようやく時間の経過を実感した。

 私は体調が戻ったことに、安堵した。


「うん、大丈夫。ホント平気だから……」

「でも学校は休みなさい。ジャガイモの収穫も私一人でやるから」


 病み上がりには無理をするな、とはよく母に言われたことだった。もちろんチート持ちの私が病み上がりの体力のなさを実感したことなど、今もないわけなのだが、その時は母の言葉に甘えようと思った。

 

 だが、私はそんな思いとは裏腹に、すくっと立ち上がった。母は「え、なに? どうしたの?」と戸惑いを見せていたが、その時の私は無視をしてしまった。

 なぜなら、一つの義務を負えなければいけないと体で感じていたからだ。

 予兆はまだ終わっていなかった。


 突然起き上がった私は、学校で使っている麻袋を手にして、その中から羊皮紙とペンを取り出した。貴重な物だから学業以外では使うな、と先生たちから言われていたことを忘れて、とにかく書きやすい平坦な場所を探した。そして、おうとつの少ない木テーブルに羊皮紙を置いた。

 

 そして私は頭の中に浮かびあがっていたイメージを次々と描いた。このイメージは頭痛の最中、母に抱かれながら見たものだ。この時、私はそのイメージが頭の中で鮮明なうちに描かなければいけないという義務感にかられていた。


 そして二時間後に、母に見守られながらも、絵は完成した。

 それは今まで描いたこともない精巧で写実的な絵だった。

 私はその下に、頭に浮かんだ言葉も一緒に、意味は分からなかったが書いた。



()()()()()() ()()

()()()()()() ()()



 この二つの絵が何を指しているのは、私には分からなかった。

 パリはどことなくエルンシュタット城下町に似てそうだったが、東京はよく分からない。ただ雑然としている気もするし、塔は大きすぎる気がするし、人も多く描きすぎている気がした。


 何なんだろうこれは。

 私は自分で描いた絵をジッと見て、そんな気持ちになった。


「ねえ……サラ。これは何なの?」

「分からない。でもこの街に行った気がしたの。夢の中で」

「そもそもこれ、街なの?」

「人がいっぱいいる街だったよ。これ以外にもたくさん街があって、一つ一つがエルンシュタット城下町よりはるかに広かった。見たこともない景色だったよ」


 この時、私はすでに焦燥にかられた謎の義務感からは解放されていた。母はまだ首をかしげていたが、私はスッキリとして、今すぐ農作業でも何でもできる気分にすらなっていた。

 

 しかしその羊皮紙の絵に関しては、あまりにも奇妙な絵に見えて、自分で描いたとはとても信じられなくなってきたので、家の戸棚の隙間に入れた。




 さっきも触れたように、これが始まりだと、当時の私は気付いていない。

 予兆の絵が示す意味を知るのは、学校を去るころだ。


 そんな学校の中退より前、私は冒険者として活躍することになる。

 十二歳のことだった。

 そこでも色々あった。

頑張ります。

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