宿った力
トレーニングジムからの帰り、男はふと、人があまり訪れない寂れた神社に立ち寄った。一週間後に控える腕相撲大会の願掛けをしようと思ったのだ。財布から取り出した小銭を賽銭箱に投げ入れ、手を合わし願い事を口にする。
「どうか、今度の腕相撲大会で優勝出来ますように…。お願いします」
すると男の身に不思議な現象が起きた。男の二の腕の筋肉がメリメリと音を立てて膨れ上がり、それまでの倍以上の大きさになったのだ。変貌した腕を見た男は自身の優勝を確信した。
だが、男の身に起きた現象はそれだけではなかった。喜び勇んで帰ろうと十数歩歩いたところで、足に極度の疲労を感じた男は、その場に座り込んだ。ズボンの上から太ももを摩ると明らかに足の筋肉が減っている。まるで、足に腕の筋力が宿ったような…。
膨張し、筋力の増した二の腕を再び見て、ようやく事態が飲み込めた男には、とても家まで歩いて帰る自信がなかった。