プロローグ
「逃げろ、一秒でも早く、この場から逃げるんだ。そして俺、いや、全人類を救ってくれ。奴は————」
刹那、彼の声は轟音にかき消された。咄嗟に振り向いた彼に、また、一閃。
その光の槍は瞬く間に私の視界を埋め尽くし、彼の魂を穿つ。私は駆け巡るものに慄き、彼の影を視線で追った。が、それは既に「転換」を終えていた。
槍が空中に霧散し、段々と視界が開けてきた。私は目の前に広がる荒廃した大地を寂しげな眼差しで見つめた。少し視点をずらすと、青い粒のようなものが、彼がいた場所に散在していた。
思わず、私は全身に付き纏う激烈な痛みを忘れてその彼だったモノをすくいあげた。
そこには、綺麗で、何一つ「まざりもの」のない結晶の欠片が無数に散らばっていた。思わず見惚れる私は、強烈な頭痛と共に正気を取り戻した。
私は懐に入れておいた小汚い巾着袋を取り出し、結晶の欠片を丁寧に一つずつそれに入れていった。
ふと、あの頃の美しい日々を思い出した。
他愛もない話で盛り上がり、腹を抱えて笑い合い、幸せを感じていたあの日々を。
思わず私の頬に過去との決別が伝う。それを拭い去ることもなく私は黙々と結晶を回収する。
その途方もない作業が終わる頃、大地は落ち着きを取り戻し、私にも一瞬の安息が与えられた。
疲れからか、大の字に倒れこんだ。黒い海を見つめると、そこには数えきれない程の叫びが点在していた。
荒廃した空間にただ一人。途方もない虚無感に苛まれた私は重い体を起こし、叫びから逃れるようにその場から立ち去った。
いや、本当の目的はそんなことではない。きっと、もっと別なところにあるはずだ。
自分でもその目的がはっきりしていないが、ただ一つ言えることは、
イヴを探す為だということだ。