エピソード11:命の尊さを嘲笑うもの(終)
「う……んっ……」
シンディが目を覚ますと、そこは、よく見知った場所だった。
真っ先に目に飛び込んできたのは、“海竜の宿り木”亭の、シンディがいつも使っている部屋の天井である。
どうやらベッドに寝ているらしいと気付いて身を起こそうとするが、うまく体に力が入らない。
全身がだるく、まるで自分の体ではないみたいだった。
そうこうしていたら、シンディの視界に、妹分の少女の顔がぴょんと飛び込んできた。
「シンディ姉さま!」
その少女──ミスティは、シンディに向かって抱きついて来た。
そしてその胸の上で、わんわんと涙を流して泣き始めた。
「もう……重いよミスティ」
シンディは力の入らない右手をどうにか持ち上げ、自分の胸の上で泣くミスティの頭を、優しく撫でつけてやる。
そうしていると、視界に別の三人の仲間の顔が映り込んできた。
「目を覚ましたのだな。……よかった」
「ったく、心配したんだからな」
ツバキとリタが、安堵の表情でシンディを見下ろす。
そして──
「成功して良かったです……。『復活』の魔法で生き返った直後は、まともに体が動かないでしょうから、無理はしないでくださいね、シンディさん」
そう言って、ニノがシンディに微笑む。
彼が治療師の最高位クラスの魔法、『復活』を使って、一度死んだシンディを蘇らせたのだ。
「しっかし、死んだ人間まで生き返しちまうってんだから、ホントお前って、反則みたいなヤツだよな」
「だからリタさん、前々から言ってますけど、蘇生失敗の可能性もあるんですから、過信は無しですよ。今回は成功したからよかったですけど……」
「へいへい。だから前から言ってるだろ。生き返れるからって、わざわざ死にたがるヤツなんかいねぇよ」
そんな日常の会話を聞きながら、シンディはくすっと笑って言う。
「ねぇニノ、ボクが動けないからって、寝込み襲ったりしないでよ?」
「ぶー、しませんよそんなこと」
「ふふふ、そうだよね。ニノだもんね」
「……それも何だか含みがあって、バカにされている気がします」
そう言ってニノは、口をとがらせる。
そんな風に拗ねるニノが可愛らしいから、シンディは今後もまた、彼をおちょくるのである。




