エピソード10:新入り少女の暴走(終)
「それで、最終的にボクのところに戻って来たと」
「はい。やっぱりこのパーティで一番大人なのは、シンディ姉さまです」
そうしてミスティが最後に辿り着いたのは、やはりシンディ姉さまの部屋でした。
シンディ姉さまこそ、大人の中の大人。
ミスティが見習うべきは、やはり一番にはシンディ姉さまなのです。
「──っていうかミスティ、ニノからセクハラされたいって、正気? ミスティがそういうスタンスなんだと、ボクもうどうなっても知らないよ」
ただシンディ姉さまは、ミスティに対してちょっと過保護というか、心配性なところがあります。
子供の頃のミスティをよく知っているので、シンディ姉さまの中で、ミスティがいつまでも子どもに見えるのは、仕方のないことなのかもしれません。
少しずつ、もうミスティが大人なのだということを、見せていくしかないのでしょう。
「別に、セクハラをされたいわけではないです。そんな言い方をしたら、ミスティがまるで痴女みたいじゃないですか。それは結果としてそういう形になるというだけで、ミスティは、リタ姉さまやツバキ姉、シンディ姉さまと同様、大人として扱ってもらえないのが不服なだけです」
「いや、言ってることは分かるけどさぁ……ムキになってるだけじゃない?」
「ミスティはムキになってなどいません。合理的かつ理性的に、物事を判断した結果です」
「うーん……困ったなぁ」
シンディ姉さまは腕を組んで考え込んでしまいます。
そして少し考えてから、「じゃあ、一つだけ」と言って、『大人』について話してくれました。
「これはあくまでボクの考えであって、正解だなんて思ってほしくない。それは念頭に置いておいてほしいんだけど」
「はい」
「ボクが大人だと思うのは、自分の行動の結果を、自分で引き受ける人だ」
……シンディ姉さまは、ときどき、すごく難しいことを言います。
このときのこの言葉も、ミスティには、何を言いたいのかよく分かりませんでした。
「ミスティが何をしたって、何をしなくたっていいよ。でもね、別の選択肢を選んでいればこんなことにはならなかった──そう思うようなことが起こったときに、それでもその結果を引き受けられるし、引き受けるつもりで自分の行動を選べる人が、ボクは大人だと思う」
……言っている内容はよく分からなかったけれど、そのシンディ姉さまの言葉は、ミスティの判断を非難しているように、このときのミスティには思われました。
だからミスティは、もっと頑なになってしまったのかもしれません。
「ニ~ノさんっ♪」
次のダンジョン探索以降、ミスティはニノさんに、あらん限りの誘惑を仕掛けることにしました。
そのときは、ニノさんの腕にぎゅっと抱き付いて、体を押し当てました。
目的のためには、時には悪女になることも必要なのです。
……ただ、ほとんど胸がなくて押し当てられないとか、そういうことは、気にしないことにします。
せつなくなんてないです。
ぐすん。
「シンディさん、この子、いいんですかこれで」
ニノさんが困り顔でシンディ姉さまに助けを求めていますが、
「ごめん、ボクも説得しようとしたけど、無理だったみたい。やりたいようにやらせてあげて。本人、大人になりたいみたいだから、もういっそ襲っちゃってもいいよ。痛い目見なきゃ分かんないみたいだし」
と、シンディ姉さまも諦めた様子。
少々、シンディ姉さまがミスティに対して冷たくなった気もしますが、姉さまは昔から、ある一線でバッサリ切る人ですから、過保護をやめさせればこうなるのは必定でもあります。
「襲うって……だから俺のこと、何だと思ってるんですか」
「だから、色欲魔だろ?」
ニノさんたちがそんな会話をしているうちにも、ミスティはニノさんによじ登り、背中から抱き付いて、ニノさんの耳にふっと息を吹きかけます。
「わああっ! ……もう、そんなことをしていると、本当に襲っちゃいますよ、ミスティ」
狼狽するニノさん、ちょっと可愛らしいです。
「いいですよ、ミスティは大人なのですから、いつでもどうぞ♪」
そう言ってミスティは、ニノさんの耳をはむっとくわえます。
ふふふ……どうやら、ミスティがニノさんを籠絡する日も、そう遠くはなさそうですね。




