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エピソード10:新入り少女の暴走(2)

「ツバキ姉さまは、ニノさんといつも一緒に寝ていると聞きました」


「ぶほっ!」


 ここは“海竜の宿り木”亭の、ツバキ姉さまの部屋。

 ミスティがぶつけた言葉に、ツバキ姉さまは、すすっていたお茶を噴きました。


「げほっ、げほっ……だ、誰がそんなことを言っていた」


「シンディ姉さまが教えてくれました。一番大人なのは誰かという話をしたら、それはもう楽しそうににこにこしながら」


「ぐっ……シンディめ、余計なことを……」


 ツバキ姉さまはそう言って、頬を赤くしています。

 この人も、普段の言動は武人のようですが、ときどきすごく愛らしくなるときがあります。

 凛々しい美少女という雰囲気も、このときだけは崩れて、すごく女の子らしくなります。


「……まあ事情があってな。シンディも、嘘は言っていない。だが最近では、三日のうち一日は一人で寝られるようになってきたのだから、いつもではないな」


「……ツバキ姉さま、寂しがり屋なのですか。でもその歳でそれは、さすがにどうかとミスティは思います」


 ミスティがそう、察して言うと、ツバキ姉さまは慌てて言い訳をしてきます。


「──いや、待て。ひどく勘違いをされている気がするぞ。別に寂しくて一人で寝れないから、ニノに一緒に寝てもらっているわけではない」


「えっ、違うのですか? それじゃあ、どうして」


「──今よりも、強くなるためだ」


 ツバキ姉さまは、良い顔をして、そのようなことを言います。

 ぶっちゃけミスティには、ちょっと何を言っているのか分からないです。

 男の人と一緒に寝ることで、ツバキ姉さまは一体どんな強さを得ようとしているのでしょうか。


 話についていけそうにないと思ったので、ミスティは話を変えることにします。


「あとツバキ姉さまは、毎朝ニノさんとデートをしていると聞きました」


 良い顔をしていたツバキ姉さまが、ばたんとテーブルに突っ伏しました。

 そして、ぐぐぐと両腕を使って、テーブルから上半身を起こします。


「……それも、シンディが言っていたのか」


「はい。シンディ姉さまは物知りです」


「物知りなのは認めるが、それは誤解だ。シンディのことだから、わざと言っているのだろうが……。朝の修練を、ニノと一緒に行なっているだけで、決して逢引あいびきなどを行なっているわけではない」


 そう、頬を赤らめながら言うツバキ姉さまの様子からは、いつもの精悍せいかんさが見受けられません。

 ……あやしいです。


「──本当に、ですか?」


 ミスティがそう問い詰めると、ツバキ姉さまはドキッとした顔をしました。


「……本当にも何も、事実だ。逢引などを目的に、わざわざあんなに朝早く起きたりはしない」


 ツバキ姉さまはそう言います。

 嘘を言っている様子はなさそうですが、どうにもあやしいです。


 でも、それはひょっとしたら、ツバキ姉さま自身にも分かっていない、甘酸っぱい青春的な何かなのかもしれません。

 そういうのにはちょっと、憧れますが、大人として見られたいミスティとしては、目指す方向ではない気がしました。


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