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エピソード10:新入り少女の暴走(1)

 さてさて、そんなパーティ入隊試験がありまして、晴れてシンディ姉さまと一緒に冒険できるようになったミスティだったのですが。

 今、ミスティには気に入らないことがひとつ、あるのです。


 それは、リタ姉さまに言わせれば『色欲魔』であるはずのニノさんが、パーティの女性のうち、ミスティにだけはまったく興味を示さない事なのです。


 これはニノさんが、ミスティのことだけ子どもだと思っているからのようですが、ミスティにはそれが不満です。

 ミスティはもう十分に大人なのですから、同様に大人扱いされて当然だと思うのです。




 ところで、普段ニノさんが一番ちょっかいを出したがるのは、リタ姉さまです。

 例えば、先日ダンジョン探索をしているときなどは、こんなやり取りがありました。


「リタさんリタさん、俺、リタさんにおんぶして欲しいです」


「はあ? なんだそりゃ。何であたしがそんなことしなきゃならねぇんだよ」


「リタさんの背中に抱き付いたら、きっと気持ちいいです」


「……あのなあ」


 ニノさんは、多分すごく変な人です。

 イカれていると言っても過言ではない気がします。

 でもときどき常識人っぽいところもあるので、よく分からない人です。


「だいたい、あたしよりもニノの方が力あるんだし、どっちかって言うならニノがあたしを背負う方が普通だろ。一から十まで意味わかんねぇよ」


 リタ姉さまは、一見口が悪そうですけど、意外と常識人です。

 当たり前すぎるツッコミを、真面目にやったりします。

 でも、ときどき自分から墓穴を掘ります。


「じゃあ、それでもいいです。俺がリタさんをおんぶします。どうぞ」


 そう言ってニノさんは、リタ姉さまの前に出て膝をつき、リタ姉さまをおんぶしようと構えます。


「はっ……? い、いや、別にそう言う意味で言ったんじゃねぇし。あたしは普通に歩くっつーの」


「えー、リタさんがおんぶしてほしいって言ったんじゃないですかぁ」


「言ってねぇよ! お前の耳はどーなってんだ!」


「じゃあ、抱っこのほうがいいですか?」


「そういう意味でも言ってねぇーっ!」


 ニノさんの理不尽な誘導尋問に律儀に付き合ってじたばたするリタ姉さまは、いい人すぎるというか、ちょっとアホの子なんじゃないかと思ったりもします。

 これならミスティのほうが、精神的に大人なんじゃないかと思うのですが……。




 でも、ニノさんがリタ姉さまを大人扱いして、ミスティを子ども扱いしているのは明白なので、その辺何故なのか、リタ姉さまに聞いてみたことがあります。

 それは、“海竜の宿り木”亭の、リタ姉さまのお部屋でのことでした。


「……はあ? えっと何だ、つまりミスティは、ニノからセクハラされたいってことか?」


 リタ姉さまは、ミスティの話を聞いて、呆れた顔で言います。

 でもそれは本意ではありません。


「そ、そんなことは言っていません! ただミスティは、リタ姉さまたちと同様に、大人扱いされていないことが不満なのです!」


「ああ、そりゃそうなんだろうけどさ。結局、ニノから大人扱いされたいってことは、自分からニノのセクハラの対象になりたいって言ってるのと同じだろ」


「う、ぐっ……」


 それはどうにも正論に聞こえて、何も言い返す言葉が見つけられませんでした。

 リタ姉さまのくせに生意気です。

 そして、ミスティはそれでも、懸命に言い返す道を探しました。


「だ、だったらそれでもいいです! とにかく、ミスティは自分のことを大人として、みんなと平等に扱ってほしいのです!」


「い、いいのか、それで……? いやまあ、その辺、あたしがどうこう言うことじゃないのかもしれねぇけど……」


 リタ姉さまが若干引き気味でした。

 でも、ここまで来たら後には退けません。


「リタ姉さまは、ニノさんから一番狙われています! つまり、一番大人だと思われています! どうしたらそうなれるんですか!?」


「いやいやいやいや、論理の展開おかしいだろ」


「リタ姉さまに論理について云々(うんぬん)言われたくありません!」


「……ほーう、ミスティがあたしのことをどう思ってんのか、よーく分かった。ここまでバカにされると、いっそ清々しいわ」


 リタ姉さまの額に青筋が見えますが、気にしたら負けかと思います。

 今は目的のための最善を踏むべきです。


「ニノからセクハラされたいんだったら、色仕掛けでも仕掛けてみりゃいいんじゃねぇの? ──ま、お子様が色仕掛けしても、何とも思われないかもしれねぇけどな」


 リタ姉さまは、意趣返いしゅがえしなのか、挑発するようにそう言ってきます。

 これには大人なミスティとしても、黙っているわけにはいきません。


「むっかー! だったら、今に見ていてください! もうニノさんが、リタ姉さまのことなんかまったく見なくなるぐらい、ミスティの大人の魅力でとりこにしてやります!」


「おうおう、がんばれー。つか、万一そうなってくれりゃ、こっちとしても身の安全が確保できて万々歳だ」


 そのリタ姉さまの言い分は、大人なミスティとしても、ちょっとイラッとしました。

 だから、こう言ってやります。


「ふふん、そんな強がり言っていいんですかー? シンディ姉さまから聞きましたよ、ニノさんから弄られているときのリタ姉さまは、内心キャッキャウフフしているんだって」


「んなっ……シンディのやつ、なんつーことを教えてやがる……!」


「へー、否定は、されないんですね」


「──するわっ! そんなわけねぇだろうが!」


 そうやって真っ赤になって否定するリタ姉さまは、なるほど確かに、可愛らしいなーと思ってしまいました。

 でも大人なミスティには、こういうのはちょっと真似できる気がしません。

 ミスティはミスティで、ニノさんを籠絡ろうらくする方法を、考える必要がありそうだなと思いました。


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