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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

無題

作者:

ある青年の人生の一場面。オチも意味もありません。


【登場人物】僕→主人公  少女→??  彼女→主人公の彼女



気がつくと見渡す限りに咲き誇る白い花に囲まれていた。



僕は花の名前なんて知らない。母が幼い頃、僕をよく連れ出し

植物園で様々な花を見せてくれたが、僕の興味は花ではなく

もっと別のところにあった

そんな幼心に興味がなかった花だったが、名前は判らずとも、その美しさは判る。

踏んでしまうのが勿体ないような気もしたが、

何せ一面に咲いているのだから自然と靴底は花の命を奪っていた。

白い花を踏みにじりながら僕は考えた。


”そもそもどうしてこんなところにいるんだっけ?”


自然に浮かび上がる疑問符に応えたのは、

…、問いかけたのは、鈴のように愛らしい声だった。


”貴方は何色ですか?”


線の細い黒髪の少女が、透明な声色で僕に問いかけていた。

白いワンピースから覗く腕は、足は、

裾に施されたレースよりも白く、細く、手折れそうだった。

少女は時折流れる優しい風に、腰まで伸びた黒い髪を棚引かせ、

一度裸足で踏みしめた花を軽く蹴りあげると

ふわりと重力を無視するようにスカートの裾を揺らす。

名残惜しそうに、少女の白い靴から

ひらり、ひらりと花弁が離れ散っていく…、

そしてそのまま遠くを見つめるように此方を見た。

瞳には生気がない。

まるで生きることを放棄したような眼差しに、たじろいだ。

何色か、だなんて聞かれても判らない。強いて言うのなら黄色人種なのだが、

彼女がそんな答えを求めていないことくらい判った。

その声に色はなく、ただ透明な世界が広がっている。


僕は応えることが出来ないまま、一歩後ずさった。

その歩に合わせるように、少女が一歩前に出る。

そしてもう一度同じ問いかけを口にした


”貴方は何色ですか?”


その声色は透明さを馳せていたが、ほんの一瞬だけ陰りが見えた。

彼女が何を悲しみ、彼女が何を思っているのか僕にはわからない。

出来ることならばその問いかけにせめて答えてあげたいと思う一方で

答えてはいけない、と直感的に思った。


”僕は、…ぼくは……”


その瞬間、少女の姿は白い砂塵になって風に浚われていく。

そしてこの身に強い衝撃を感じた。






安っぽい蛍光灯の光。

甲高い人の叫び声。

心地よい秋風。

そして僕の腕の中には、ナイフを握り震える恋人。

その瞳に宿る狂気を見て、僕は全てを悟った。


嗚呼、


自らの身体に無機質を食いこませることも厭わぬままに恋人を抱き

血のついた指先で慈しむように彼女の頬を撫でた。



そう、僕は







赤色だった







言葉は喉から込み上げる鉄に掻き消される。

血を吐き、恋人に折り重なるように青年はその身を少女に託し

縋るように宙に手を伸ばした。




先に在るのは白いガーベラの花。




その手は届くことのないまま……、青年の歯車は動くことをやめた。





僕はガーベラの花言葉が好きです。

御拝読ありがとうございました。

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