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第三十四話:悪魔の姦計(三)

このお話には残酷な表現と、性的な表現が含まれます。苦手な方は十分にご注意下さい。

 揺れる松明の炎が、夜の広場をオレンジ色に染め上げる。

 暖色に染まる世界。その中において唯一白い輝きを放つ者が今、屈辱に震え、華奢な身体を強張らせている。


「聞こえなかったのなラ、もう一度言おう。ノエル、服を脱ぎたまえ。裸になるンだ」


 広場の中央に立つノエルのすぐ前でサークスが余裕たっぷりに言って、地面に突き立てた銀の剣に肘を乗せる。その声は聞き慣れたサークスのようでありながら、どこか邪な色を感じさせる不快な物だ。そして、最近どこかで聞いたような声……。だがその事に言及する余裕は、今のノエルに無い。


「は、裸って……こんな所で、こんな大勢の前で!? そんなの……」

「おっと、ソコまでだノエル」


 声を上げかけた天使の少女を、悪魔と化した男が遮る。


「今後、もしキミが僕に対し異論を申し立てたり、不満を陳べたりした場合……一回ゴトに住民を一人殺ス」

「なっ……!!」


 剣を指先だけで摘み上げ、住民の方へと向けるサークス。


「そうだな、最初はソコに居る……ガキにしよう」


 指し示された目線の先。そこに居たのは母親に抱かれた小さな子供……先程、集会所でノエルが最後に診た親子だ。

 状況が飲み込めず不安と恐怖に震える母親と、何も知らず眠り続ける幼子。何の罪も無い、本来ならば何の関係も無い二人だ。


「……わかりました。でもサークスさん、約束して下さい。私が言う通りにしたら、他の方々には手を出さないと」

「ああ勿論。悪魔は契約でメシを食ってイるんだ。約束は破らなイ……絶対にね」


 くるりと剣を回し、鞘へと収めるサークス。そして「これで少しは信用してもらえるか?」と、手を広げアピールして見せた。


「さあノエル、わかったのナラ……脱ぎたまえ」


 促されて悔しげに唇を咬み、ノエルは自らの服に手を掛ける。

 腰紐を解き、袖から腕を抜きながら、こんな事になるのなら……と、今更どうしようも無い事に思いを馳せる。

 やがて純白のローブが地面に落ちた。その下から現れたのは、同じく純白の下着だけを身に纏った、純白の肌を持つ天使。その姿を遠巻きに見つめる住民たちの間からは溜息にも似た歓声が漏れ、恥辱に震える天使の頬を紅色に染める。


「ナニをしているんだい、下着もだヨ。裸になれって言っただろ?」


 サークスの命令に容赦は無い。ノエルはカタカタと鳴る歯を食いしばり、まずは胸元の布地を。次に腰周りを隠す布地を取り払う。


「手や翼で隠しちゃダメだ。今後、少しでもそんな素振りを見せたら……ワカってるね?」

「……はい」


 裸体を隠す事さえ禁じられ、大勢の前で一糸纏わぬ姿となり、ただ立ち尽くすノエル。恥かしさで肌はほのかに紅潮し、大きな目は潤んで今にも涙が零れ落ちそうだ。

 だがそんな本人の気持ちとは裏腹に、彼女の立ち姿は神々しさを感じる程に美しかった。神が創り出した芸術品、そんな言葉が見る者の心に浮かび上がる。


「良イ格好だねノエル。前に見た時よりモずっと、今の方が美しイ。そうやっテ恥かしそうに唇を噛むキミの姿を、ボクは見たかった」


 サークスの言葉に、握り締めたノエルの両手が震える。悪魔の言いなりとなっている自分に腹が立って仕方ない。もし許されるなら今すぐ飛び掛り、卑劣な悪魔の横っ面に拳を叩き込みたいだろう。


「ヨシ次は、四つん這いになってボクの靴を舐めろ」

「っ!!」


 だが、この状況でサークスに拳を見舞うなど、夢のまた夢だ。罪の無い人たちの安全を確保する為には、屈辱を受け入れるしか無い。

 言われた通りに四つん這いとなり、赤子のように這いずってサークスの足下へと移動する。そして長い髪をかき上げて頭を下げ、賢者の鎧の一部であるブーツ部分へと舌を伸ばす。

 ノエルの舌が、サークスのブーツに触れた瞬間……村民たちの間から「あぁ」と声が上がる。それは天使が悪魔に屈したという事実を見せ付けられた、落胆の溜息だった。

 その声を聞きながらノエルは思う。今はこうするしか無いのだと。みんな、わかって! と。


「ナニをシてるんだ? 表面だけじゃなくて、靴の裏も舐めなきゃダメだろ」

「くっ……は、はい」


 サークスの言葉に頷き、そっとブーツを持ち上げて足裏にも舌を這わせる。ざらりとした砂の感触と土の味が口一杯に広がり、喉の奥からは何度も嘔吐感が込み上げて来た。だがその度にぐっと堪え、吐き気を飲み下し、またブーツを舐める。右足が終われば次は左足だ。表面だけでなく、今度は言われる前に裏面にまで舌を伸ばす。


「そうだ。良く出来たネ、ノエル」

「ふひっ。ノエルちゃん、次は俺のもキレイにしてもらえるかい?」


 ようやくサークスのブーツを舐め終えたノエルの前へ、太い足を差し出したのはバラだ。獣人である彼には足に蹄があり、ブーツを必要としない。つまりノエルは直接バラの足を舐める事になるのだが……ソレはサークスに比べ、あまりに汚かった。泥や小石が割れた蹄の間に入り込み、顔を近づけただけで泥臭い悪臭が漂ってくる。


「どうしたノエルちゃん、嫌なの? それなら……」

「い、いいえ! 出来ますっ! よ……喜んで!」


 慌てて声を上げ、ノエルは覚悟を決める。息を止め、目を閉じて、思い切って舌を突き出した。


「ぶほほっ、サイコーだねコレ! 気持ちイイし、裸のノエルちゃんを上から眺めるってのもスバラシイ!」


 鼻息荒く、ご満悦の表情であれこれと賑やかに声を上げるバラ。更には命令に逆らえないノエルに対し、蹄の間まで舐めろだとか、もっと舌を出せだとか、ああだこうだと指示を出しては楽しんでいるようだ。

 その様子に、村人たちの失望は深まる。この如何ともし難い状況下の中、唯一の希望たる天使が悪魔の手に落ちたのだ。あまりにも他人任せ過ぎるという嫌いも有るだろうが……理性はともあれ、感情は止められない。


「おい、バラ。そろそろ良いだろウ?」

「そんな、大将! まだ、もうちょっと! あと百と八つ、試してないプレイがあるんだよぉ!」

「そう焦ルな。楽しミは後に取っておくモノだ」


 サークスの説得によって、ようやくバラの足下から解放されるノエル。開きっぱなしだった口が疲れ、舌の根元がダルい。普段であれば少々の事では疲れさえ感じないのが天使なのだが……。


「ふむ。そろそろ、ヤってミるか」


 顎に指先を当てて首を捻り、サークスがノエルの髪へと手を伸ばす。


「な、何を……」


 不安げなノエルの声に応える事無く、彼女の金髪を二、三本掬い上げるサークス。細くしなやかなその髪をくるくると指に絡め取ると、渾身の力を込め、勢い良く引っ張った。


「痛っ!」


 ぷつん、と小さな音と共に根元から抜けるノエルの髪。サークスの指に絡め取られた美しい金髪は、ほどなく光の粒子と化して虚空へと流れ、消えて行く。


「ふ……ふふふっ! フハはははっ!!」


 自らの手を見つめ、突如、高らかに笑い出すサークス。周囲が唖然とする中、彼の高笑いは続く。


「ヤった、ボクはヤったぞ! とうとうヤって見せた! 天使に傷を負わせてやったんだ!!」


 その行為は端から見れば、細い髪を数本抜き取っただけに見えただろう。だが悪魔にとってみれば、天使という鉄壁の城砦を崩す、大きな綻びを探り当てたに等しい。


「よし、バラっ!」

「あいよ大将、待ってました!」


 足を舐められた余韻を楽しんでいたバラが、サークスの声にスキップで駆け寄ってくる。


「お前の馬鹿力で、この天使の羽を全て毟り取ってシマエ」


 その台詞に、ノエルの顔から色が失せる。

 髪を抜く事が出来たという事はつまり、羽だって……。


「や、やめっ……!!」

「悪いなぁノエルちゃん。大将の命令だからよぉ……俺だってツライんだぜ? ふひひっ」


 ノエルの純白の翼、その片翼がバラに掴まれた。咄嗟に振り払おうと翼に力を込めたノエルだったが、バラの力は思いの他強い……いや、彼女の力が弱まっているのだ。到底、敵う力では無いと感じられる。


「い、いやっ……! ダメっ!!」


 バラは翼の付け根を踏みつけて固定すると、無造作に翼の先端部分を掴む。風切り羽と呼ばれる最も大きな、そして飛行する上で非常に大事な羽が生えている一帯だ。

 何をされるのか、されてしまうのか。避けたいが避けられない未来を前に、ノエルは目を閉じて身体を強張らせる。そして……。


「そぉれいっ!」

「うあッ!!」


 ブチブチと嫌な音がして、天使の羽がバラの手によって引き抜かれた。光子が散り、激痛が翼全体に広がる。


「続けて行くぜーっ!」

「イヤぁっ!……もう止め……きゃう!!」


 力任せに毟り取られ、空に舞う白い羽。それらは髪の毛と同様、すぐに光子へと分解されて輝きながら消えて行く。それが何度も何度も繰り返され、次第にノエルの片翼から羽が無くなり、代わりに地肌が見え始める。


「ふひっ、コレ楽しいねぇ! まるで鳥の毛を毟ってるみたい! ぶひひっ!」

「そうか、そんなに楽しいかバラ。ではボクも、参加させてもらおうカナ?」


 サークスがバラが掴むのとは逆の翼を捕えると、ノエルは「ひっ」と短く悲鳴を上げた。その時に見えた彼女の表情は、今にも泣き出してしまいそうな、弱々しく力無い少女の物だ。


「それじゃあ、イクよ?」

「だ……ダメぇっ……!」


 ニヤリと笑い、剣を抜くサークス。銀の刃へ急速に魔力が宿って火花が迸り、その切れ味が何十倍にも増して行く。

 奥義・裂空。先程ノエルが事も無く、楽々と跳ね返した技だ。しかし今回は……。


「ふははっ! バラよ、確かにコレは面白い!! なんと痛快な遊ビだ!」

「そうでしょう大将! いやっほうーーー!」

「イヤあぁぁぁぁっ!!」


 翼に押し当てられた銀の刃が動く度、バリバリと音を立てて羽が刈り取られて行く。根元から翼の先まで、羽も羽毛も全て根こそぎ、まるで羊の毛でも刈るような光景だ。


「ああぁぁぁっ、やめて……お願い……お願いだからっ……!」


 どんどん減って行く羽。夜の闇に、光の粒が舞う。

 小さな頃に傷付いた天使の翼。それをヤマトが、家族が、長い時間と深い愛情で癒してくれた。天使にとって……ノエルにとって、とても大切な翼だ。その翼が今、二人の暴漢によって踏み躙られ、蹂躙されている。

 どうにかして守りたい。失いたく無い! だが力無き少女には、どうする事も出来ない。


「一本残さず、綺麗に抜くンだぞ。最終的にはノエルを、本当の意味で丸裸にしてヤルのだからな」

「わかってますよ、大将!」


 悪魔たちが、そんな会話を交わしてから十数分後。彼らの足下には、地面に伏せて震える、裸の少女が横たわっていた。その背中には茹でた手羽先のような『翼だった物』が一対、所々に血を滲ませながら、くっついている。


「惨めな姿だね、ノエル。アノ時とは、大違いの情けなサだ……」

「なぁ、大将。そろそろ……」


 ヨダレを垂らすバラが、揉み手するのも面倒な様子で、鼻息荒くサークスに擦り寄る。


「ソウだな、もう大丈夫だろう」


 言って、サークスはノエルの地肌剥き出しとなった翼を無造作に掴み、勢い良く膝に打ち付けた。若い枝が折れるような音がして『翼だった物』が、関節では無い所からグニャリと折れ曲がる。


「念の為、コッチもだ」

「ぎゃうっ!!」


 骨を折られ、中程からくたりと垂れ下がる肌色の『翼だった物』。更にサークスはノエルの足首にも剣を走らせ、両脚の腱を切断した。


「コレで、飛ぶ事も歩く事も出来ナイ」

「ひゃっほう! もう逃げられないね、ノエルちゃん!」


 サークスたちの声に、ノエルは応えない。応える事が出来ない。絶望に沈む彼女に出来る事は、せめてこの悪魔たちに、泣き顔を見せないようにする事だけだ。


「じゃあ大将、お待ちかねの……」

「アア、綺麗な顔がグシャグシャになる前に、楽しませてもらうとしよう」


 銀の剣を鞘に戻したサークスが、邪悪に歪む表情で言った。


「ノエルの脚を開かせろ」

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