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序話:ダメ人間と失格天使

戦闘シーンなど、残酷な描写が含まれている話がございます。その都度、前書きにて警告表示をさせて頂こうとは思いますが、苦手な方はご注意下さい。

 大きな木の下で、年端も行かぬ幼い少女が泣いている。

 愛らしい顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ、白いワンピースは土で汚れて泥だらけ。長く綺麗な金髪には折れた枝が絡まり、膝小僧は擦り剥けて血が滲んでいる。

 木から落ちたのだ。

 しかし彼女は傷が痛くて泣いているのでは無い。

 彼女の背中から生える一対の翼――真っ白な光を放つ美しい翼だ――その翼が、傷付いていた。発光する翼の所々が赤く染まり、一部が裂け、一部が折れていた。抜け落ちた羽は付近に散らばり、風に晒された端から細かな光の粒へと分解され、空へ昇って行く。

 天使の象徴たる、純白の翼。

 その翼が傷付いてしまった事に、少女は酷く心を痛めていた。翼を失えば天使ではいられない。飛べない天使など、天使では無い。

 傷付いた翼を羽ばたかせ、無理矢理飛ぼうと試みる少女。だが折れた翼は風を捕らえる事無く無意味に傷口を広げ、ただ光の粒を撒き散らすだけ。

 少女の表情が絶望に染まる。泣き声が大きくなる。


(しょうがねぇ奴だな……)


 少年は呟く。

 少女の泣き声は彼の耳に届いていた。早く助けてやらなくては。そんな気にさせる泣き声。早く彼女の元へ駆け寄って、手を差し伸べなければならない。

 少女がまた羽ばたき、光の粒が舞う。そして更に泣き声が大きくなった。モタモタしてはいられない、早く行かなくては。少年は少女の元へと走る。早く、一刻も早く。悲痛な泣き声が少年を急かす。胸が締め付けられる。

 少女に近付くにつれて舞い散る光の量が増えてくる。少女から放出され、ゆらゆらと漂う光の粒。その一つ一つが明るく優しい光を放ち、触れればほのかに暖かい。まるで母の腕の中にいるような安らぎ……母を知らぬ少年でさえ、そう感じた。

 だが捻くれ者の少年はその安らぎに反発するするように、あえてぶっきらぼうに言った。


(おい、もう泣くな)


 少年の声に、泣いていた少女が顔を上げる。可愛らしい少女だ。ささくれ立った少年の心に、生まれて初めて大きく熱い物が宿る。


(泣いたってしょうがねぇだろ? ほら、元気出せよ)


 汚い服で拭った手を、そっと差し伸べる。

 高鳴る鼓動。その理由に少年は気付かない。


(そんくらいのケガなんかツバ付けときゃ治るって)

(で、でもっ! 私、飛べなくなったら……)

(大丈夫だよ、ケガが治ったら飛べる。もし飛べなくても、飛べるようになるまで俺がずっと面倒見てやる。だから心配すんな)

(……うん)


 そっと握り返される手。差し出された少年の手に、少女の手が重ねられる。柔らかく、暖かい手のひら……全ての痛みと苦しみが癒されてゆく、そんな気さえする。


(ありがとう)


 言って、少女が笑った。まるで天使のような……いや、天使の微笑みだ。


(お、おう)


 その笑顔が眩しくて、思わず目を逸らしてしまう。くすくすと笑う少女。


(何だよ、笑うなって。いま泣いてたと思ったらこれかよ……全く、しょうがねぇな)


 光溢れるこの場所で、少年は誓う。この少女を守る事を。二度と傷付かぬように、二度と涙を流さぬように。この笑顔を守り抜くと。

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