妹に婚約者を奪われたので聖女になりましたが
やっと書けた。聖女の仕事をサボっていませんよの王太子と聖女の話。
「お久しぶりお姉さま」
神殿の厨房。そこでホーリーライトさまとアーリンソンさまとクッキーの型抜きをしていたら数か月ぶりに会う妹のユリアが入ってきた。
「お姉さまがどこにいるかと尋ねたら厨房だと言われて、なら呼んで欲しいと告げたのに自分で場所を教えるから行くようにと……神殿って不親切なのね」
それは仕方ないだろう。神殿は常に人手不足……と思われていないのは【名目聖女】という名前の寄付金を多く出して、婚活に有利になるためだけに在籍している貴族令嬢がそこかしこにいるからだ。
彼女たちの仕事は【筆頭聖女】の補助とか世話がメインだが、それすら手を抜いている現状だ。
そんな【名目聖女】ではない【聖女】は本来のお役目や修行中で忙しい。神官も同様だ。
「そう。わざわざ来てくれたのね。――ところで何の用? べリエールさまと結婚の準備で忙しいでしょう」
さっさと帰ってほしい。ここにはホーリーライトさまとアーリンソンさまがいるのだ。この方たちに何かあっては大変なので一柱と一人を守れるような立ち位置で妹と対峙する。
「ああ。そのことよ。べリエールさまを熨斗付けて返すわ。もともとお姉さまの婚約者だったのだからいいでしょう」
ユリアのとんでもない発言に顔が強張る。だって、それは、
「べリエールさまはわたくしよりもあなたの方がいいと婚約を破棄したのよ。父も了承して、本来ならわたくしと結婚して家を継ぐはずだったのに跡継ぎの名をユリアに書き換えて婚約をし直したでしょう」
そして、父は地味で婚約破棄をされたわたくしを【名目聖女】として神殿に送った。
まあ、一か月後に【名目聖女】の寄付金を返却して、普通の聖女になったが。
「だから返すと言っているでしょう。代わりに王太子さまと結婚します」
「……ユリア」
「聞きましたわ。お姉さまが王太子のアーリンソンさまとの間に内々で婚約の話が持ち上がっているって、お姉さまは家を継がないといけないでしょう。ならばわたくしが王太子さまと結婚しないと」
ユリアの言葉にアーリンソンさまが冷たい視線を妹に向けているが、妹は全く気付いていない。
ホーリーライトさまは呆れているのかさっさと追い出そうと考えているのが背中越しでも伝わってくる。
「聖女なんて言いつつも子供と一緒にお菓子を作ってるお姉さまに王太子さまは相応しくないのよ。じゃあね」
「ユリア。――それは。お父さまとべリエールさまもご存じ?」
「当然よ。――だって、お父さまが教えてくれたのだから」
勝ち誇ったように去っていくユリアの後ろ姿。
「――貴族の令嬢に申し込むのだから家族に連絡するべきというのは間違えていたな……」
「だから、いったでしょう。あたしのひごかだから、さっさとオリーブをおやからはなしなさいって」
ホーリーライトさまが頭を抱えているアーリンソンさまを責める。
実態を知っている立場からすれば気にならないが、5歳前後の少女が18歳の青年を責めているのはかなり妙な光景だ。
「それにしても、気付かなかったですね」
ユリアは王太子と結婚すると喚いていたが、その王太子であるアーリンソンさまがクッキーの型抜きをしているのにどうして気付かなったのだろうか。
「とうぜんでしょう。せけんいっぱんではおうじはクッキーをつくらないとおもわれているのよ。ここにいるのにね」
「ははっ。それを言ったら我が国の夫婦神が幼女の格好で神殿で遊んでいるとも思っていないだろう」
それは確かに頷く。
一柱と一人に出会った時は、婚約を破棄されて傷心時期だったから今の状態がかなり信じられない。
妹に婚約者を奪われて、婚約を破棄されて、父は妹の味方になった。足場が崩れる感覚を味わっていた中で【名目聖女】という立場で神殿に送られた。
仕事は主に【筆頭聖女】の世話や補助。後、神殿の中枢に行けば何故か見つかる壁にある落書きや悪戯の跡を片付ける日々。
そんな日々に他の【名目聖女】はどうしてそんなことをしないといけないのかとサボっている中、厨房に置かれている材料を使い放題で好きに料理していいと言われて喜んだ。
『お姉さま。ちょうだい』
妹はそう告げて、毎回毎回わたくしのお皿から好きな料理を奪っていく。妹の健康を考えての食事量だったのでかなり少なめだったというのもあるが、わたくしの料理を取っていくので妹の食事量はどんなに減らしても減っていないがわたくしは減っていき、空腹だった。
私と妹の二人分を食べても妹が可愛らしいと思えるほどの体型を維持できたのは妹付きの侍女が頑張ったからだろう。
それを見かねた侍女がわたくしをこっそり厨房に連れていき、手作りのお菓子をくれた。
美味しかった。
妹は厨房に寄り付かないのを知っていたからこっそり食べているのも気付かれなかったし、身体にいい野菜を使ったお菓子とかもたくさん作ってくれて、自分でも作るようになっていた。
なので厨房が自由に使えるのは魅力的だった。他の【名目聖女】が寄り付かない間にお菓子を作っていたら、その匂いを嗅ぎつけたホーリーライトさまとアーリンソンさまが見えて、ホットケーキを分けたのがきっかけ。
ホーリーライトさまが夫婦神の妻の名前であることはすぐに察したが、動きやすい格好をしているが神官ではない青年であったアーリンソンさまが王太子だとは気付かなかった。
そこから交流が始まって、気が付いたら恋に発展していた。
「身分違いだと思ったんですよね……」
つい漏らすと。
「なにいっているの。聖女や神官のいちばんのしごとは夫婦神のあいてよ。あたしたちにきにいられたじてんでみぶんなんてかんけいないわ。アーリンソンもおうぞくじゃなかったら神官にしたのに」
「丁重にお断りします。――選ばれるのは光栄ですが、私は自分の責務を放り投げられません」
「そんなアーリンソンだからいいのよ。オリーブもそうおもうでしょう?」
「ええ。――責務は重たいものでしょうけど、それを放棄せずに必死に頑張るアーリンソンさまだからお側で支えたいのです」
はっきりきっぱり告げるとアーリンソンさまが恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「そうね。おにあいだわ」
にこにこと嬉しそうに微笑むホーリーライトさま。
「なので、あんなおろかなことをいうオリーブのいもうととそのかぞくに神罰をあたえておくわね」
「ホーリーライトさまっ⁉」
何を言い出すのですかと慌てると、
「ホーリーライトさま。お気持ちは嬉しいですが、王族の命令を無視したという人間の法律でまず裁きますので……」
「そうですよね」
アーリンソンさまの言葉に安堵していると、
「神罰はその後に執行してください!!」
「アーリンソンさまっ!!」
とんでもないことを告げるので止めるのではなかったのかと混乱しているとホーリーライトさまが楽しそうに笑い声をあげる。
「そんなあなたがただからあたしのおきにいりなの。まあ、あたしのたちばがあるから神罰はけっこうするわね」
神の宣言に、本当にいいのかと不安だが、
「そんなオリーブだから私もホーリーライトさまも好きなんですよ」
と誤魔化された。
後日。王族の命令を反故にするのかと父と妹は処罰され、その後神隠しにあった。
「神が実体を持っているのは聖女と神官。王族のみ知らされる事実だ。それを多くの人が知ったら神にすり寄るために過度な贈り物をするからな」
「それがいやだからあたしたちはこどものすがたになっているのよ。おとなだとほうせきとかどれすとか…………ああ。みめうるわしいにんげんも献上しようとしたからね」
「………大変だったんですね」
お菓子で餌付けをした気分になったわたくしは力なく、そんな言葉しか言えなかった。
神官の特典は緊急事態になったら空間を繋げる能力。聖女は結界か治癒かを選べる設定があったりする。




