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スナイパートライアル<中盤から結果>

全国初のサバゲ・スナイパートライアルの中盤から結果まで。

黒木美津子と渡辺未来の微妙なズレを感じる2人がどう戦うか。

2人ののラペリング訓練の成果や如何に?

第八話〈スナイパートライアル〉

<中盤>

森を抜けた瞬間、空気が変わった。

三番目の標的を撃ち抜いた余韻はすぐに消え、代わりに張り詰めた緊張が二人の間に降りてくる。

未来が低く囁いた。

「このまま四番目に行く?それとも一番目に戻る?」

美津子は即答しなかった。

頭の中で地図が立体的に組み上がる。

――前方には先行組。

――後方には葛城。

――横は不明。

「一番目に戻るわ」

未来の眉がわずかに動く。

「戻る?今から?」

「ええ。あそこはみんな最初に狙うか、避けるかのどちらか。今なら空いてる可能性がある」

未来は一瞬だけ考えた。

「でも、戻るってことは――」

「他のペアと交差する」

美津子が言葉を引き取る。

「そう。でも、今の状況ならどこに行っても同じよ」

未来は短く息を吐いた。

「……了解」

その一言に、わずかな躊躇が混じっていたことに、美津子は気づかなかった。

________________________________________

二人は来た道を外れ、斜面を横切るように進む。

木々の間を縫うように移動するが、地形は単純ではない。

足場は滑りやすく、落ち葉の下に隠れた石がバランスを崩す。

未来は周囲を警戒しながら進んでいた。

(……嫌な流れ)

耳に入る音が増えている。

前方――銃声。

後方――足音。

左――不自然な沈黙。

「美津子さん、ちょっと待って」

未来が手を出して制止する。

「何?」

「挟まれてる可能性ある」

美津子は一瞬だけ止まり、周囲を見渡した。

だが――

「行けるわ」

その判断は早かった。

「ここで止まる方が危険よ」

未来は唇を噛む。

「……わかった」

だが、その返答には確信がなかった。

________________________________________

次の瞬間。

――パシュッ!

乾いた音。

美津子の右肩の横をBB弾がかすめる。

「コンタクト!」

未来が叫ぶ。

前方、木の影から一人。

同時に――

後方からも銃声。

「後ろも!」

完全に挟まれていた。

________________________________________

「走る!」

美津子は即座に前方へ踏み出した。

だが未来は反対方向に意識を向けていた。

「後ろ抑える!」

その一瞬のズレ。

連携が、ほんのわずかに崩れる。

________________________________________

――パシュ!

一発目。

美津子の太ももに当たる。

「ヒット!」

手を上げながらも、動きを止めない。

ペナルティ15秒。

________________________________________

未来が後方にフルオートで制圧射撃を入れる。

「下がって!」

だが、前方の敵が詰めてくる。

――パパッ!

二発目。

未来の腕に着弾。

「ヒット!」

さらに15秒。

________________________________________

「分断される!」

未来が叫ぶ。

だが、美津子はすでに前へ出ていた。

「一番目まで抜ける!」

「無理よ!」

「行ける!」

その言葉は、ほとんど意地だった。

________________________________________

三発目。

背中。

「ヒット!」

45秒。

________________________________________

四発目。

今度は未来。

「くっ……ヒット!」

60秒。

________________________________________

五発目。

ほぼ同時だった。

「ヒット!」

「ヒット!」

二人同時。

合計90秒。

________________________________________

静寂が戻る。

敵はそれ以上追ってこなかった。

おそらく、別の標的へ向かったのだろう。

________________________________________

二人はしばらくその場に伏せたまま、息を整えた。

鼓動がうるさい。

肺が熱い。

未来が小さく言った。

「……やられたね」

美津子は答えない。

視線はすでに前を見ている。

________________________________________

「でも――」

未来が顔を上げる。

「一番目、近い」

木々の隙間。

開けた場所。

そこに――標的があった。

至近距離。

おそらく15メートルもない。

________________________________________

「撃てる?」

未来が問う。

美津子は無言で伏せた。

スコープを覗く。

今度は、外さない。

風もない。

距離も短い。

――条件は完璧。

________________________________________

だが、指がわずかに重い。

さっきの被弾。

判断のズレ。

その残響が、わずかに集中を鈍らせる。

________________________________________

息を吐く。

止める。

トリガーを絞る。

――パシュ。

BB弾は、まっすぐ飛んだ。

________________________________________

――ドン。

中央。

100点。

________________________________________

「ヒット確認!100点!」

無線の声が響く。

________________________________________

未来が小さく笑った。

「取り返したね」

だがその笑顔は、少しだけ硬い。

________________________________________

美津子はスコープから目を離し、静かに言った。

「時間は失ったけどね」

90秒。

決して軽くない。

________________________________________

森の風が吹く。

木々が揺れる。

遠くで、また銃声が響いた。

________________________________________

スナイパートライアル。

それは、ただの競技ではない。

判断。

連携。

そして――信頼。

________________________________________

そのすべてが、試されていた。

そして二人はまだ、

その“ズレ”の本当の意味に気づいていなかった。

________________________________________

〈スナイパートライアル後半〉


美津子たちが四番目の標的を見つけた頃、フィールドの空気は明らかに変わり始めていた。

それまで断続的に響いていた銃声が、少しずつ間延びしていく。

ゴールへ辿り着くペアが増え、戦場の密度が薄くなり始めているのだ。

「……撃ち合い、減ってきたね」

未来が周囲を警戒しながら呟く。

「その分、残ってる連中は濃いわよ」

美津子はすでに伏せ、スコープを覗いていた。

標的まで、四十五メートル。

やや距離はあるが――風はない。

撃てる条件だ。

呼吸を整える。

額から汗が落ち、スコープの縁に触れた。

視界の中で標的がわずかに揺れて見える。

(落ち着け……)

息を吐く。

止める。

トリガーを、絞る。

――パシュ。

弾は綺麗に飛んだ。

だが、わずかにドロップする。

「70点!」

スタッフのコール。

美津子は小さく舌打ちした。

「……やっぱり、近づかないと厳しいわね」

その瞬間だった。

スコープ越しに、標的の中央が弾け飛んだ。

――100点。

「え……?」

反射的に振り返る。

そこには、わずか十メートル後方に立つ人影。

「よっしゃあ!100点だ!」

甲高い声。

葛城裕太だった。

「よし、次は前方掃射だ!」

次の瞬間、ドラグノフが火を噴いた。

――バラララッ!!

フルオートの弾幕が、美津子たちへと襲いかかる。

「伏せて!」

未来が叫ぶ。

美津子は横に転がるようにして斜面へと逃れた。

足場が崩れ、そのまま身体が滑り落ちる。

落ち葉と土を巻き上げながら、未来とともに斜面を滑降する。

________________________________________

「……っ、危なかった……」

止まった先で、未来が息を整えながら周囲を見渡す。

「……あれ、あの男だったわ」

美津子が呟く。

未来は頷いたが、その目は鋭い。

「それより――」

周囲を見回す。

「音、立てずに近づいてきてた」

あの騒がしい男が。

気配を消して。

「……厄介ね」

美津子もそれを認めざるを得なかった。

________________________________________

未来が素早く地図を広げる。

美津子も覗き込む。

現在地と進行ルートを確認する。

「……これ」

美津子が指を差した。

「ラペリング」

その先に広がる斜面。

木はない。

完全な開けた斜面――丸見えだ。

だが、ここを降りれば大きくショートカットできる。

未来が顔を上げる。

「撃たれるよ」

「ええ」

美津子は即答した。

「でも、時間は取り返せる」

一瞬の沈黙。

そして未来は頷いた。

「……やろう」

________________________________________

二人は斜面の上へ移動し、ロープを固定できる木を探した。

一本、適した太さの木を見つける。

素早くロープを巻きつけ、カラビナを通す。

「未来さん」

美津子が言う。

「訓練の成果、出しましょう」

未来が笑った。

「カラビナブリッジ!救助式ラペリングね」

カラビナ同士を連結して二人同時降下。同じラペリングでも高度な知識と安全管理が必要だ。

だが時間短縮の切り札であり、一方が射撃の出来る余裕もある。

________________________________________

装備を確認する。

美津子がロープをコントロール。

未来はステアAUGを構え、周囲を警戒。

「……行くよ」

高さは約二十五メートル。

地面は遠い。

一歩、踏み出す。

重力が身体を引く。

ロープに体重を預ける。

(落ちる……)

一瞬、恐怖がよぎる。

だが、手は離さない。

________________________________________

――パシュ!

弾が横をかすめた。

「来た!」

未来が応戦する。

三点バースト。

――パパパッ!

別方向からも射撃。

「二方向!」

やはり目立つ。

完全に標的だ。

________________________________________

ロープを滑る。

速度を制御する。

地面が近づく。

「あと少し!」

その瞬間――

――パパパッ!

「ヒット!ヒット!ヒット!」

美津子の身体に三発弾が当たる。

45秒加算。

だが、それ以上は当たらなかった。

________________________________________

着地。

即座にロープを外し、移動。

「行くよ!」

二人は腰を低くして前進した。

________________________________________

五番目の標的までは約五百メートル。

森の中を進む。

息が荒い。

脚が重い。

それでも止まれない。

________________________________________

その時、未来が手を上げた。

停止。

美津子も止まる。

気配がする。

前方だ。

美津子がスコープを覗く。

――いた。

標的を狙うペア。

「撃てる」

未来に方向を示す。

二人が同時に構える。

________________________________________

――パシュ!

――パパッ!

正確な射撃。

敵ペアにそれぞれ三発。

「ヒット!」

だが、その代償は大きい、美津子達も撃たれた。

合計30秒の加算。

________________________________________

更に反撃が来る。

「離脱!」

二人は走る。

だが――

標的を見失う。

「コンパス!」

未来が方角を確認する。

修正。

再進行。

________________________________________

草むらの向こうに標的を見つける。

距離、二十五メートル。

近い。

美津子は迷わない。

――パシュ。

100点。

________________________________________

「あと一つ!」

だがその瞬間、未来が横へ射撃した。

「接敵!」

複数。

しかも連携している。

激しい弾幕。

動けない。

________________________________________

その時、背後から声。

「援護するから下がって!」

葛城ペアだ。

未来が言う。

「下がろう」

だが美津子は迷った。

(信用できない)

さっき撃たれた相手。

誘い出される可能性。

________________________________________

銃撃が激しくなる。

考えている時間はない。

「……行くわよ」

二人は動いた。

葛城の援護の隙を突いて後退する。

________________________________________

すれ違いざま、未来が葛城の肩を叩いた。

「ありがとう!」

葛城が笑う。

「任せとけ!」

________________________________________

二人は走った。

第六標的へ。

息が上がる。

脚が悲鳴を上げる。

それでも走る。

________________________________________

そして最後の標的。

だが――

「……眩しい」

太陽が背後にある。

スコープが機能しない。

未来が道具を差し出す。

「これ使って」

キルフラッシュ。

スコープのレンズに取りつけるハニカム(蜂の巣)状の格子フィルターを装着した。

視界が改善する。

________________________________________

だが完全ではない。

呼吸の揺れで光が入り込む。

その時、未来が囁く。

「気配、横」

敵ペア。

________________________________________

撃てばバレる。

だが撃たなければ終わらない。

時間が過ぎる。

________________________________________

「……三つ数える」

美津子が言う。

未来が頷く。

________________________________________

一。

二。

三。

――パシュ。

60点。

________________________________________

同時に敵が撃つ。

未来が撃つ。

――パシュ。

――パシュ。

敵ペアに命中。

30秒加算。

________________________________________

「行く!」

二人は最後の力で走った。

________________________________________

背後から声。

「待てー!」

葛城だ。

________________________________________

構わず走る。

道に出る。

あと500メートル。

________________________________________

葛城の銃声が追う。

だが当たらない。

________________________________________


〈スナイパートライアル結果〉


――ゴール。

二人はほぼ同時にラインを越え、その場に崩れ落ちるように立ち止まった。

肺が焼けるように熱い。

脚はもう言うことをきかない。

「……はぁ……はぁ……」

未来が膝に手をついて呼吸を整える。

美津子はしばらく空を見上げていた。

木々の隙間から覗く空は、やけに遠く感じた。

「お疲れ様」

龍崎が差し出した水を受け取り、一気に飲み干す。

冷たい水が、ようやく現実へと引き戻してくる。

________________________________________

落ち着いた後、美津子はセーフティに戻り、タバコに火をつけた。

一口、深く吸う。

ゆっくりと煙を吐き出す。

――何かが、引っかかる。

勝ち負けだけではない。

胸の奥に、言葉にできない違和感が残っていた。

________________________________________

やがて、全ペアがゴールした。

スタッフたちが慌ただしく動き回り、スコアの集計が進められる。

標的の得点、ヒットによる加算時間、すべてが細かく計算されていく。

中には、被弾数が把握しきれないほど撃ち合いに巻き込まれたペアもいた。

この競技が、単なる射撃ではなかった証拠だ。

________________________________________

「結果、出るね」

未来が小さく言った。

美津子は何も答えなかった。

ただ、静かに煙を吐いた。

________________________________________

やがて、アナウンスが入る。

「結果発表を行います」

会場の空気が引き締まる。

三位までが入賞。

誰もが息を呑む。

________________________________________

「第三位――」

一瞬の間。

「得点〇〇点、✖✖ペア!」

拍手が起こる。

「第二位――」

再び名前が呼ばれる。

そして。

わずかな静寂の後――

「優勝は――得点〇〇点、✖✖ペアです!」

歓声が上がった。

________________________________________

そのどこにも、美津子たちの名前はなかった。

「……七位」

未来が結果表を見ながら呟く。

中位。

悪くはない。

だが――

満足できる結果でもない。

________________________________________

閉会式が終わり、参加者たちはそれぞれ片付けを始めた。

銃をケースに収める音。

マガジンを外す音。

談笑する声。

その中で、美津子は静かだった。

________________________________________

「……私」

ぽつりと呟く。

「大会とか、向いてないかもしれないわ」

未来が顔を上げる。

「そんなこと――」

「あるわよ」

言葉を遮るように続ける。

「楽しかった。でも……」

少しだけ目を伏せた。

「判断が、噛み合ってなかった」

未来は何も言わなかった。

それは、彼女自身も感じていたことだったからだ。

「仲はいい。でも、それとこれとは別」

美津子は煙を吐く。

「大きいわよ、これは」

________________________________________

その時だった。

「よう」

龍崎が近づいてきた。

「お疲れさん」

その一言は、軽く聞こえるが重みがあった。

美津子は小さく会釈する。

「……ありがとうございました」

ポケットからキルフラッシュを取り出す。

「最後、助かりました」

龍崎はそれを見て、少し目を細めた。

「お、使ったか」

口元にわずかな笑み。

「そうか……」

短い言葉だが、確かに満足げだった。

________________________________________

「悪くなかったぞ」

龍崎は続ける。

「ラペリングやったペア、三組しかいなかった」

未来が少し驚いた顔をする。

「そんなに少ないんですか」

「しかもカラビナブリッジは――」

美津子を見る。

「黒木さんたちだけだ」

未来が小さく笑う。

「やりましたね」

龍崎は頷いた。

「スタッフも喜んでたぞ。ああいうの見せられると大会の幅が広がるってな」

________________________________________

だが、美津子は首を横に振った。

「でも、七位です」

その声には、はっきりと悔しさが滲んでいた。

________________________________________

龍崎は少しだけ間を置いた。

周囲の喧騒を一度受け止めるように。

そして静かに言った。

「対戦に巻き込まれなかったペアが、上位に入った」

美津子は顔を上げる。

「……そういうことだ」

「トライアルも第一回だ。まだ完成されたルールじゃない」

未来も頷く。

「確かに……戦闘多すぎましたね」

龍崎は続ける。

「ルール改定は、入るだろうな」

そして、少しだけ柔らかく笑った。

「順位だけで見るな」

その一言は、真っ直ぐだった。

「見てて、面白かった」

「見事だったよ」

________________________________________

美津子は何も言わなかった。

だが、わずかに目を細めた。

その言葉が、少しだけ心に引っかかったからだ。

________________________________________

風が吹く。

森の匂いが流れる。

遠くで、まだ誰かが笑っている。

________________________________________

(……私は)

タバコの煙が揺れる。

(何を求めてるのかしらね)

________________________________________

勝ちか。

孤独か。

それとも――

誰かと戦うことか。

________________________________________

答えは、まだ出ていなかった。

だが一つだけ確かなことがある。

この一日は、確実に何かを変えた。

________________________________________

スナイパートライアル。

それは終わった。

だが。

黒木美津子の中の戦いは、まだ続いていた。


読者の皆さんは期待した結果にならなかったことを残念に思われる方もいるかもしれない。

現実はドラマのような劇的なことはなかなか起きないものである。

上位を取れば黒木美津子は変わるのか、いや彼女は孤高の戦士、孤独は自分を高める唯一の方法だ。

そんな彼女にも転機が訪れるかもしれない。

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