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霧のサバゲから新たな挑戦へ

仕事の気持ちを切り替え出来ずに霧のゲームへ参加する美津子。

そこにはあの葛城の姿が。

美津子の心模様を描いた第四話です。

________________________________________

第四話〈霧の一日〉

診察室の窓は北向きで、光はやわらかい。

午後三時のその部屋は、いつも同じ温度で、同じ静けさを保っている。

だが、そこに座る人間の心は決して一定ではない。

「昨日は、少し楽だったんです」

患者はそう言って、視線を机に落とした。

指先がわずかに震えている。

黒木美津子は、その震えを見逃さない。

鬱は底の見えない井戸のようだ。

だが時折、井戸の縁まで一気に浮上してくることがある。

「来月は旅行に行こうと思ってて。いや、海外もいいかなって。今なら何でもできそうな気がして」

目が輝く。

言葉が加速する。

その奥に潜む危うさが、彼女には見える。

躁と鬱。

波は唐突に、そして容赦なく襲う。

寄り添いすぎれば、呑まれる。

距離を取りすぎれば、孤立させる。

「先生は、疲れないんですか」

診察の終わり際、患者がふと尋ねた。

ほんの軽い口調だった。

だがその一言は、美津子の胸に静かに刺さった。

疲れる。

もちろん疲れる。

だが、それを言葉にすることは許されない。

「大丈夫ですよ」

微笑みを貼りつける。

患者が出ていった後、静まり返った診察室で、美津子は目を閉じた。

心の奥に、白い霧のようなものが広がっている。

晴れない。

週末が必要だった。

________________________________________

翌朝、森林フィールドは霧に包まれていた。

昨晩の雨が地面を湿らせ、冷えた空気が山を白く覆っている。

視界は二十メートルもない。

セーフティで装備を整えながら、美津子は小さく息を吐いた。

「よりによって、ね」

本来なら狙撃日和だったはずだ。

だがこの霧では、L96はただの重りになる。

彼女はゆっくりとライフルをケースに戻した。

代わりにFAMASを取り出す。

ダットサイトの赤点を確認し、マガジンを装填する。

今日は接近戦。

逃げ場のない距離。

解放のはずの一日が、また神経を削る予感に変わる。

ホーンが鳴る。

白い森へ踏み込む。

湿った落ち葉が足音を吸い込む。

霧は音までも鈍らせる。

数歩進んだだけで、世界は曖昧になる。

影が揺れた。

FAMASを構える。

だが消える。

心拍が上がる。

十五メートル先に突然、人影が浮かび上がった。

反射的にトリガーを引いた。

「ヒット!」

声が霧に吸われる。

だが安堵は続かない。

左から弾が掠める。

姿は見えない。

撃ち返す。

沈黙。

霧の中、誰かが走る気配。

幽霊のように現れ、消える敵。

躁鬱の波と同じだ。

見えたと思った安定は、次の瞬間には崩れる。

読めない。

午前中は、霧との戦いだった。

神経が磨耗する。

________________________________________

午後。

霧はゆっくりと薄れていった。

木々の輪郭が戻る。

斜面が姿を現す。

美津子はL96を手に取った。

ボルトを引く。

乾いた金属音が、森の静寂に溶ける。

その時だった。

「右側斜面に注意!スナイパーがいるかも!」

森を裂く声。

この声は聞き覚えがある、葛城裕太だ。

若さと勢いだけで前に出る男。

スコープ越しに探す。

斜面中腹、半身を出して味方に指示を飛ばしている。

不用意だな。

十字を胸元に合わせ、呼吸を止める。

引き金を絞る。

パシュ。

「ヒットー!」

葛城が手を上げる。

だが数分後、復活して戻ってくる。

また叫ぶ。

また不用意。

二度目。

三度目。

機会があるたびに、美津子は彼を排除した。

合理的だ。

声は位置を晒す。

戦術を乱す。

だが本当は違う。

彼の声は、診察室で聞いた躁の響きに似ている。

止まらない。

自覚がない。

周囲との温度差に気づかない。

(私は、何を撃っている?)

敵か。

ノイズか。

それとも、自分の苛立ちか。

必要以上に排除している。

その自覚が、胸を重くする。

ホイッスルが鳴る。

霧は完全に晴れていた。

だが、心の霧は残ったままだ。

________________________________________

今日のラストゲーム。

美津子は敢えて接近戦に挑んだ。

ホイッスルが鳴り、スタートダッシュしバリケードを次々と超えてゆく。

前方のバリケード越しに敵の頭が見えた。

「前方に敵!」

またしても葛城の声だ。


クイックショットで盛んに撃ってくる葛城。

頭と銃だけが見えては引っ込む、最近流行りの撃ち方だ。

間違いではない、競技では有効な射撃方法の一つである。

だが、美津子には声で居場所を明かされるのと同じくらいウザく思えた。


葛城が頭を引っ込めた瞬間にバリケード付近に3点バーストの連続射撃を撃ちこみながら

大きく外へ回り込んだ。

葛城がバリケから出られずモタモタしてる。

弾が切れてはタクティカルリロードで撃ちこみを切らさない。

カッティングパイとムービングシュートの合わせ技でバリケに張り付いている葛城を倒した。

フィールドによっては視認していない敵への撃ちこみは配慮すべし、というルールがあるところもある。

サバイバルゲームも昔は戦争ごっこでリアルを体感できるのが醍醐味だったのが、誰でもが安全に遊べるが故に安全を優先するゲームへと変わっていた。


だが、美津子は午前中の霧で撃ち倒せなかった鬱憤を晴らすかのようにFAMASを撃った。

フラッグのそばまで来たのでハンドガン、シグP226にトランジッションし一気に走った。

だが、フラッグの手前で敵の弾に撃たれ敢え無くヒットされた。


フラッグは取れなくても、気持ちはスッキリした。

スナイパーとは違うスリルと興奮、これがサバイバルゲームの楽しさだと感じた。

「体力は若い時のようにはいかないな」美津子は笑った。

47歳、いつまでこの遊びを続けられるのか、いや人生そのものがサバイバルゲームだと

感じた一日だった。

________________________________________

帰り道、喫茶店に立ち寄る。

木の扉を押すと、コーヒーの香りが包む。

カウンター席に腰を下ろし、ブルーマウンテンを頼む。

湯気が立ちのぼる。

フィールドの掲示板に貼ってあった一枚のポスターを思い出した。

「スナイパートライアル参加者募集」

三キロのコース。

移動しながら的を狙撃。

途中、対戦形式のミッションあり。

二人一組。

二人。

孤独なスナイパーには無縁。

そう思った瞬間、浮かんだ顔。

渡辺未来。

音響手榴弾と共に突入する女。

Ragdollの優勝メンバー。

音で崩し、風で撃つ。

悪くない。

美津子はスマホを取り出し、美津子にスナイパートライアルへのペア参加を訪ねた。

数日後、未来から返信が届く。

チームリーダー進藤麻耶は資格試験に挑戦中。

一番合戦葵はボウリングの公式大会へ出場。

今、Ragdollはそれぞれの道を歩んでいる。

だから。

「今回のトライアル、黒木さんと出るわ」

さらに続く。

「発案者は、私の師匠。龍崎猛だって。」

その名を見た瞬間、背筋が伸びる。

Ragdollを作り上げ、全日本エアガンサバイバルゲーム大会で功績を残した男。

戦術の設計者。

強さの源流。

試される。

撃つ技術ではない。

在り方だ。

美津子は返信する。

「一度、直接お話を聞きたい」

すぐに返事が来る。

「師匠がいつでもどうぞって」

夜。

L96を取り出し分解し掃除する。

また組み立ててボルトを引く。

金属音が部屋に響く。


三キロを移動しながら、的を狙撃する。

他のペアを見つけたらミッション阻止で撃って良い。

どうしてもペアが必要になる。スポッター兼カバーの連携。

孤独でいるほうが楽だ。

だが、霧の森で感じた迷いは消えない。

排除し続けた葛城。

揺れる患者の心。

そして自分の揺れ。

龍崎猛は何を見るのだろう。

技術か。

精神か。

覚悟か。

窓の外では夜風が揺れてる。

ここでは霧は無い。

だが試練は、これから始まる。


サバイバルゲームに求めるものは人それぞれ。

定例会では様々な人たちが集まるので遊び方も多様である。

そんな中でも大会という名のゲーム会が時々行われる。だが、現実は大会は定着しない。

でも参加したい人はいると思う。

そんな大会の一つ、スナイパートライアルに美津子は意欲を出した。

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