ゴーストスナイパー
新シリーズ、ゴーストスナイパーと呼ばれる黒木美津子のサバゲ記。
サバゲに於ける心理戦にたけて、一人で戦うを信条とするも様々な人と出会い、少しずつ変わっていく彼女の人間模様を描く。
<ゴーストスナイパー>
茂みは、そこに在るべき風景の一部だった。
枝葉は不自然に揺れず、影の濃さも均一で、朝から続く微風にただ従っているように見える。
だが、その一点だけが――わずかに“呼吸”していた。
パスッ。
乾いた発射音は、森に吸い込まれるように消えた。
0.25グラムのBB弾が、空気を切り裂き、三十五メートル先へと伸びていく。
重力による落下は最小限。ホップの回転が安定した直進性を保ち、弾道はほとんど乱れない。
次の瞬間、赤チームのプレイヤーの動きが止まった。
「ヒット――!」
声は驚きに裏返り、遅れて周囲に伝播する。
彼のゴーグル越しの視線は、弾が飛んできた方向を探したが、そこにはただの茂みしかなかった。
誰も、そこに“人”がいるとは思わない。
再び、パスッ。
別の敵が、肩口を撃たれ手を挙げる。
反応が遅れた三人目は、振り向いた瞬間に頭部を撃ち抜かれた。
撃った側は、動かない。
息を止め、心拍を抑え、風と同化している。
――三人。
確認した瞬間、彼女の中で戦闘は終わっていた。
これ以上撃つ必要はない。自分の役割は果たした。
ホーンが鳴る。
甲高い音が森を貫き、試合終了を告げた。
どこかで黄色チームがフラッグを奪取したのだろう。
その時、初めて“茂み”が動いた。
葉が持ち上がり、影が剥がれ、そこから一人の人物がゆっくりと立ち上がる。
ギリースーツに身を包み、輪郭の曖昧なその姿は、まるで森から生まれ出た影のようだった。
知っている者は、彼女をそう呼ぶ。
――ゴーストスナイパー。
彼女はゆっくり
マガジンを外し、チャンバーを確認し、弾抜きを済ませる。
その一連の動作は、呼吸と同じくらい自然で、無駄がなかった。
セーフティエリアのテーブルに戻ると、ようやくギリースーツを脱ぐ。
キャップを外した瞬間、束ねていたセミロングの茶髪が、ふわりと風に揺れた。
「……ふう」
短く息を吐く。
戦場の緊張が、肩から静かに抜けていく。
タバコを取り出し、ジッポに火を点ける。
カチリ、という音が、森のざわめきに混じった。
プレートキャリアのバックルを外すと、こもっていた熱気が一気に解放される。
インナー越しに伝わる汗の感触。
それすらも、彼女にとっては「生きている証」だった。
装備を外した彼女の姿に、周囲の視線が集まる。
無駄のない体つき。
年齢を感じさせない立ち姿。
戦うために鍛えられた身体ではなく、積み重ねた時間が自然に形作った“線”。
黒木美津子、四十七歳。
シングルマザー。
臨床心理士。
人の心を救う仕事をしながら、彼女は人知れず銃を構える。
矛盾していると、誰かは言うかもしれない。
だが美津子にとって、それは同じ線上にあった。
――人は、静かでなければ正確に撃てない。
――心が乱れていれば、引き金はぶれる。
それは、患者の心に向き合う時も同じだった。
ポットからコーヒーを注ぎ、一口飲む。
苦味が舌に広がり、喉を通って腹の底に落ちる。
タバコの煙が、その上をゆっくりと漂った。
この時間だけは、母でもなく、心理士でもない。
誰かの期待にも、責任にも縛られない。
ただの“黒木美津子”に戻る。
遠くで誰かが笑い、別の誰かがヒットコールを真似て騒いでいる。
その喧騒を背に、美津子は森を振り返った。
ついさっきまで、自分が溶け込んでいた場所。
そこにはもう、何の痕跡も残っていない。
――消える。
――そして、また現れる。
それが、ゴーストスナイパーの流儀だった。
美津子は静かに煙を吐き、次のゲーム開始を待った。
この森が、再び彼女を必要とする、その瞬間まで。
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次のゲームスタートだ。
美津子は静かに立ち上がり、外していた装備を一つずつ身体に戻していく。プレートキャリアのバックルが鈍い音を立て、肩にL96の重みが馴染む。スタンバイ位置へ移動する間、周囲のゲーマーたちの視線を感じた。
もっとも、それは好奇心というより確認に近いものだ。
ギリスーツを纏ったその姿からは、男か女かすら判別できない。ただ、長身のシルエットとボルトアクションのL96。その組み合わせだけで、周囲は瞬時に理解する。
――孤高のスナイパー。
だから誰も声をかけない。
それが、美津子には心地よかった。
臨床心理士としての日常は、常に人と向き合い、言葉と感情を読み取る仕事だ。チームワークも、配慮も、責任も重い。
だからこそ、このフィールドにいる間だけは、誰にも干渉されず、誰にも期待されない“孤独”が許される。
ホイッスルが鳴った。
美津子は迷いなく右手の斜面へと取り付く。フィールド境界線に沿って進めば、警戒すべき方向は自ずと絞られる。敵は正面か左――それだけでいい。
やがて腹這いになり、動きを極限まで落とす。
ここからは時間を使う。茂みから茂みへ、数十センチずつ、呼吸と同調させるように身体を滑らせた。
バイポッドを立てる。
稜線までの距離、二十六メートル。
近い。しかし、この茂みは濃い。潜むには申し分ない。
スコープを覗いた瞬間、視界の端に赤が揺れた。
来た。
稜線に見え隠れする赤マーカー。敵チームだ。下方では黄色チームと激しく撃ち合っているらしい。
二人。
一人は忙しなく動き、もう一人はほぼ動かず援護射撃に徹している。
――狙うなら、後者。
美津子はライフルを微調整し、静止している敵の頭部に十字線を重ねた。
ボルトをゆっくり引く。金属音は、茂みに吸い込まれる。
息を吐く。
パシュ。
BB弾は空気を切り裂き、吸い込まれるように標的へ向かった。
「ヒットー!」
澄んだ声が返る。
完璧だった。
前線で動いていたもう一人の敵が、慌てて身を引く。稜線は沈黙した。
その後、両軍は決定打を欠いたまま膠着し、ホーンが鳴ってゲーム終了を告げた。
美津子がこの稜線を抑えていたことで、赤チームは前に出られなかったのだろう。
セーフティに戻ると、同じ黄色チームのゲーマーが軽く親指を立てて声をかけてきた。
「ナイス!」
美津子は小さく頷くだけで応える。
ポットからコーヒーを注ぎ、湯気の向こうで一息ついた。
胸の奥に、静かな満足感が広がる。
――気持ちのいい午前中だ。
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昼前・第三ゲーム
お昼前の第三ゲーム。
美津子は静かにギリースーツを脱いだ。乾いた草の匂いと、土の冷たさが肌から離れていく。ガンケースを開き、今度はL96ではなく、無骨なフォルムのFAMASを取り出した。
フランス軍の象徴とも言えるブルパップライフル。トリガーの後方にマガジンを収める独特の構造は、全体を短く保ちながらも有効射程を確保するための設計だ。日本のエアガンでは法規制により初速はどの銃もほぼ同じ。それでも、美津子はこの銃が好きだった。合理性よりも、どこか不器用で実直な思想を感じさせるからだ。
近距離用のスコープが載せられたFAMASは、彼女なりの“スナイパー仕様”だった。前線に出るつもりはない。だが、撃てる距離が来たなら、迷わず引き金を引く――そのための選択だ。
キャップを被り直し、ゴーグルとメッシュマスクを装着する。視界が少し狭くなり、呼吸が布越しになる。その感覚が、美津子を仕事の世界から切り離していく。
プレートキャリアのポーチに、予備マガジンを均等に差し込む。左右の重量バランスを確かめるように、肩を一度すくめた。
スタート位置に着くと、周囲の視線を感じた。
――女性だ。
誰かが気づいたのだろう。ギリースーツを脱いだことで、体の線や仕草がはっきりと見える。だが、驚きはあっても声をかけてくる者はいない。FAMASを構えた姿が、余計な言葉を拒んでいる。
美津子は気にしなかった。
この時間は、他人に説明する必要がない。
合図を待つ間、腰のヒップホルスターに手を伸ばし、シグP226を軽く確認する。
デコッキングレバーを下げ、ハンマーをハーフコックした状態にする。実銃の設計思想を色濃く残したこの操作が、彼女は好きだった。安全を確保するための「一手」を、自分の意思で選ぶ感覚。
ホイッスルが鳴った。
前線に向かって、数人のゲーマーが一斉に走り出す。乾いた土を蹴る音、枝を折る音、すぐに弾が飛び交い始める気配。
美津子は急がなかった。
数十メートル距離を取り、視界の開けた場所で足を止める。前線より一段低い位置。安全で、だが見渡せる場所。
スコープを覗く。
――四十メートル。
距離としては撃てる。だが、風がわずかにある。木々の上で葉が揺れ、弾道に影響を与えている。
トリガーに指をかけ、試しに一発。
弾は敵の肩口をかすめ、木に当たって消えた。
「……やっぱり」
少しでも風があれば、軽量なBB弾は素直に飛ばない。
もう少し近づけば当たるだろう。だが、中央エリアはCQB向きの構造になっている。バリケード、倒木、入り組んだ小道。近接戦闘が得意な者たちが、既に激しく撃ち合っていた。
美津子は、そこへ行かない。
行けないのではない。行かないと決めている。
自分が勝てる距離、自分が生き残れる距離。その線を越えないことは、将棋で言えば無理筋を打たないことと同じだ。
彼女は待った。
スコープ越しに、敵が一瞬だけ姿を見せる。
撃てそうで、撃てない。
撃てると思った瞬間には、もういない。
時間だけが過ぎていく。
やがて、ホーンが鳴った。
どちらのチームもフラッグを取れず、時間切れ。
美津子は銃を下ろし、ゆっくりと息を吐いた。
このゲームで、彼女は誰も倒していない。
だが、不思議と悔しさはなかった。
サバイバルゲームは、常に派手な撃ち合いがあるわけではない。
端から見れば「何もしていない時間」が多い。だが、その沈黙の中で、位置を読み、流れを感じ、次の局面を考える。
将棋と同じだ、と美津子は思う。
駒がぶつかり合う前の静かな盤面こそ、最も神経を使う。
セーフティに戻ると、FAMASのマガジンを抜き、弾抜きをする。
デコッキングを解除し、銃をテーブルに置いた。
タバコに火をつける。
一口、煙を吸い込むと、肺の奥がゆっくりと落ち着いていく。
「……こういう日も、悪くない」
ポットからコーヒーを注ぎ、湯気の向こうに森を眺めた。
静かな戦い。何も起きなかったゲーム。
それでも、この午前中は確かに、彼女のものだった
<スナイパーコンテスト>
昼休み。
定番のカレーライスを平らげたあと、フィールドの一角がざわめき始めた。
「ミニスナイパーコンテストやりまーす!」
スタッフの声に、何人ものゲーマーが顔を上げる。自由参加、景品あり――それだけで十分だ。
簡易レンジの前には、等間隔に吊るされた六つの小さな円。よく見れば、すべて五円玉だった。
距離は五メートルから始まり、十、十五、二十、二十五、そして最大三十メートル。
十発撃って、六つすべてに当てられれば成功。ドッグタグが贈られる。
「当たりそうで当たらないんだよな、これ」
誰かが笑う。事実、二十メートルを越えたあたりから、弾は容赦なく外れていく。
的が小さすぎる。五円玉だ。風の影響も、呼吸の乱れも、そのまま結果に出る。
美津子は少し離れたところで様子を見ていた。
L96なら――正直、当てる自信はあった。だが、今日は違う。
彼女は静かにFAMASを手に取った。
スナイパーライフルではない。ブルパップ特有の癖もある。
だからこそ、試したかった。
「この銃で、どこまでやれるのか」
名前が呼ばれ、前に出る。
周囲の視線が集まるが、そこに特別な期待はない。
ただの参加者の一人。――今は、それでいい。
五メートル。
十メートル。
十五メートル。
乾いた音が規則正しく響き、五円玉が小さく揺れる。
ここまではノーミス。ざわめきが、少しだけ変わった。
美津子は深く息を吸い、構えを変えた。
いつものサバゲの撃ち方ではない。
精密射撃の姿勢。肩、頬、引き金にかけた指先まで、意識を一点に集める。
スコープ越しに見る五円玉は、わずかに風で揺れていた。
左へ、右へ。ほんの数ミリだが、三十メートルでは致命的だ。
――右に、少し。
息を吐き切った瞬間、腕の震えが止まる。
自然に、引き金が落ちた。
カーン!
澄んだ金属音が響き、五円玉が大きく揺れた。
一拍遅れて、歓声が上がる。
次は二十五メートル。
同じ動作、同じ集中。だが弾はわずかに下へ外れた。
もう一発。これも外れる。
「やっぱ難しいな……」
誰かが呟く。
七発目。
修正を入れ、撃つ。
カーン!
再び命中。
「おお……」
小さなどよめきが広がる。
そして、三十メートル。
まだ誰も当てていない距離。残り三発。
一発目は左へ逸れた。
風が、ほんの一瞬、悪戯をする。
二発目。
偏差を修正するが、今度はコインの上をかすめた。
「……無理か」
そんな空気が流れる。
最後の一発。
美津子は急がなかった。
風を読む。
揺れが止まる、その瞬間を待つ。
五円玉が、ぴたりと静止した。
――今。
引き金を絞る。
カーン!
一際大きな音が響き、五円玉が激しく揺れた。
一瞬の静寂。
次の瞬間、割れんばかりの歓声が上がった。
スタッフが笑いながらドッグタグを差し出す。
その場で日付と「Sniper No.1」の刻印が打たれた。
周囲の誰もが拍手を送るが、彼女の正体に気づいた者はほんの一部だけだ。
茂みに溶け、音もなく獲物を落とす――
“ゴーストスナイパー”。
美津子はドッグタグを受け取り、軽く会釈しただけでその場を離れた。
誇示する必要はない。
この一瞬、この手応えだけで、十分だった。
誰一人として、彼女以外に全ての五円玉を撃ち抜いた者はいなかった。
午後のゲームで、美津子は再びL96を手に取った。
FAMASをケースに収め、重く、長いスナイパーライフルを抱えた瞬間、身体の芯が静かに切り替わるのを感じる。
――戻る。
孤高の戦士へ。
森に一歩踏み込むと、風の流れが肌を撫でた。
葉擦れの音、湿った土の匂い、遠くで鳴る銃声。
それらが一つの情報として頭の中で整理されていく。
美津子は心理士だ。
人の癖、焦り、恐怖、迷い――それらを読むことを仕事にしてきた。
その経験は、森の中でも生きていた。
敵はどこへ動くか。
次に顔を出すのはいつか。
今、どこに「迷い」があるか。
風を味方につけ、引き金を引く。
パシュッ、と乾いた音。
ヒットコールが少し遅れて響く。
また一人。
そして、もう一人。
面白いように当たる。
狙撃というより、流れに乗っている感覚だった。
仕事でも、家庭でもない。
役割からも、責任からも解放された、純粋な「自分」だけの時間。
――自由だ。
その感覚が、胸の奥に静かに広がっていた。
やがてホーンが鳴り、ゲームは終了した。
美津子は淡々と弾抜きを行い、L96をガンケースに収める。
「お疲れ様ー」
セーフティでは、ゲーマーたちが笑いながら帰り支度をしている。
今日もまた、戦場は日常へと溶けていった。
美津子も愛車の軽自動車に乗り込み、エンジンをかける。
身体は心地よい疲労に包まれていた。
夕暮れの道を走り、家に着く頃には、彼女の表情は自然と柔らいでいた。
玄関を開けると、そこには“母”としての時間が待っている。
「お帰り」
今年成人した息子が、穏やかな声で迎えた。
「洗濯物、畳んでおいたよ」
「ありがとう。助かるわ」
短い会話。
けれど、そのやり取りが胸に沁みる。
旦那とは三年前に離婚した。
理由は、よくある言葉で片付けられる――性格の不一致。
けれど、その先に残ったものを、彼女は今も一人で抱えている。
それでも。
今日のように森に身を置き、銃を構え、自分に戻れる場所がある。
それだけで、また明日を生きていける気がした。
〈葛城裕太 登場〉
翌月の休日。
月に一度の、自分を解放できる日がやってきた。
朝の空気は澄み渡り、山あいのフィールドには柔らかな霧が漂っている。ここは初参加のアウトドアフィールド。山と沢をそのまま活かした、人工物の少ない自然派レイアウトだ。簡素な木製バリケードが点在するものの、主役はあくまで地形そのもの──起伏、木立、岩影、湿った落ち葉の匂い。
美津子は静かにL96ライフルをケースから取り出した。黒光りするボルトを引き、その感触を確かめる。シグP226も同様にチェックし、ヒップホルスターに収める。
「……今日も、孤独でいきたいわね」
それが彼女の流儀だった。
サバゲーは団体競技でありながら、スナイパーは孤高であることに意味がある。
ホーンが鳴った。
美津子は右側の稜線へ向かった。まずは地形の把握。斜面の角度、沢の流れ、風向き。匍匐前進で茂みに入り込み、ギリスーツを地面に溶け込ませる。
自然と一体化する瞬間──それがたまらなく好きだった。
その時、後方から足音がした。
一人。軽い足取り。迷いがない。
美津子は小さく舌打ちをする。
(人は、いないほうがいい)
視界を共有する者がいると、動きが制限される。呼吸のリズムさえ狂う。だから彼女は、通り過ぎるのを待つことにした。
だが足音は止まらない。むしろ、近づいてくる。
そして──隣に腰を下ろした。
「敵いますか?」
軽い声だった。無警戒な音量。
美津子は即座に唇に指を当てる。
「シッ」
スコープの先、30メートル先に赤チームの影。絶好の位置だ。
その瞬間だった。
ババババッ!
隣の男が連射を始めた。
(……うぜー)
心の中で毒づく。せっかくの潜伏が台無しだ。敵は即座に散開し、こちらを警戒する。
結局そのゲームで美津子は一発も撃たずに終わった。
撃てなかったのではない。撃つ価値がなくなったのだ。
セーフティに戻り、ギリスーツを脱ぐ。湿気が一気に抜ける。
ジッポを開き、タバコに火をつける。
ポットからコーヒーを注ぎ、ひと口。
「……はぁ」
その男が近づいてきた。
「さっきはどうも!お姉さんはお一人ですか?」
人懐っこい笑顔。年齢は三十前後だろうか。日焼けした顔、無邪気な目。
「僕、葛城裕太です。僕も一人なんです。一緒に戦いませんか?」
美津子は煙を吐きながら答えた。
「私は一人がいいんです」
即答だった。
普通ならここで引き下がる。だが葛城は違った。
「いやいや!さっきのポジション良かったですよ!あそこからなら沢側も見えますよね?僕、前出ますんで後ろお願いしますよ!」
「ご自由にどうぞ」
線を引いたつもりだった。
だが葛城は勝手に隣に座り、銃の話を始めた。
「L96ですか!いいですよね!でも最近は軽量カスタムが──」
止まらない。
止める気もないらしい。
そのとき、美津子の中で何かが切り替わった。
(自己顕示欲強め。承認欲求型。孤独耐性低い。距離感が近い)
臨床心理士としての視点が、無意識に彼を分析していく。
(悪意はない。ただ空気が読めない)
彼は敵ではない。だが味方でもない。
境界線の上にいる存在。
美津子はふと気づく。
自分は孤独を好むが、彼は孤独を恐れている。
対照的な二人。
葛城は無邪気に笑った。
「次のゲーム、一緒に行きましょうよ!」
美津子はタバコを灰皿に押しつけた。
「……好きにすれば」
完全な拒絶でも、受容でもない曖昧な返答。
この選択が、後に自分を騒動へ巻き込むことになるとは、この時はまだ知らなかった。
山の風が木々を揺らす。
ホーンが再び鳴る。
葛城裕太──。
彼の存在は、静かな森に投げ込まれた小石のように、美津子の平穏を少しずつ波立たせ始めていた。
定例ゲーム会で出会う葛城裕太、彼の出現でサバゲのスタイルに変化がおきる予感です。
果たして葛城裕太とはどんな人物なのか。
黒木美津子のサバゲはどう変化するのか。
作品としては長くなりそうな予感です。




