Pre.裸足にローファー
裸足にローファー、だった。
少女の面影を薄く残した、若い女。
長く細い、美しい足を、挑発的に組み替えて、目の前の男を低く見据える。
「用って、何。」
随分と突き放した態度だ。
「お前、転校してくれないか。」
男の態度も、淡白なものだったが。
「それはまた、唐突に。」
女は軽く、頬杖をつく。
「理由は?」
彼も組んだ指に顎を乗せた。
「いや、私の学校な、荒れてるんだ。」
声は弱々しい。
「何とかしてくれ。」
「いつものこと、でしょう?」彼女は軽くあしらう。
「いや、状況が変わった。」
空気が、男の言葉に動かされる。
「死者が出た。」
女の口が、は、と、息のもれるままになる。
一旦ぎゅっと目を閉じて、開いた時には、また、元の表情だった。
「また、困ったら、すぐ娘に頼って。」
彼らはどうやら、親子のようだった。
彼女はあきれたように言う。
先ほどの動揺は、露ほどもない。
だが、その事実は、確実に女の心を動かしたらしかった。
「非力な私に、何を、しろと?」
彼女は、肩をすくめて、手のひらを広げてみせる。
言うとおり、その腕は驚くほど細い。
「お前のことはいい。その¨血¨が重要なんだ。」
「ああ、化生たち。」
納得したように、女は頷いた。
男は話しを続ける。
「小競り合いを、なるだけ、穏便に、収めることだ。」
「分かった。」彼女は妖しく笑った。
そして軽やかに立ち上がる。
ふと、思いついたように、振り向いた。
「今日、何の日、でしょう。」
一転して、無邪気な、子供のような顔。
男はしばし悩んで、そして。
「母さんの誕生日。」
彼女から、笑顔が消える。
ゆっくりと首が振られた。
はずれ、だ。
「あたしが初めて、にんじんのスープを飲んだ日。」
彼女は腰に手を当てて、軽くため息をついた。
「まったく、覚えてないなんて。」
彼女の言葉に、今度は、男が子供のように、口を尖らせる。
「お前が、細かいんだ。」
ああ、と、また大きなため息。
「そっちじゃ、ない。」彼はぽかんと、伝わっていないのか。
舌を突き出して、女はいよいよ、部屋を去る。