第8話『忘却の星にて、裏切りの剣が交わる時』
七英雄の再集結を進めるアストラたちに、
かつての仲間・アイザックが突きつけた不穏な宣告――
「七英雄のひとりが、こちらに寝返った」
その真偽を確かめるため、アストラたちは“記憶を失わせる”呪詛惑星へと向かう。
目的地は《ネムラ星》――
正式名は第1137呪詛指定区域、別名「忘却の星」。
大気に含まれる魔導素子の影響で、惑星に降り立った者は
記憶を断片的に失う。
その危険地帯に、かつての七英雄の一人――シオン=レイカーがいるという。
「シオンは、俺たちの中でも一番感覚派だった。
剣の冴え、勘の鋭さ、誰より強くて誰より優しかった男だ」
グリーヴァが回想するように言った。
「でも、あいつが“寝返った”……?」
「信じたくねぇけど、確かめるしかねえ」
《レッドバンシー号》はネムラ星軌道に突入。
乗員は全員、魔導記憶防壁を装備し、地表への降下を開始する。
* * *
ネムラ星・地表。
紫がかった霞が視界を曇らせ、時間の感覚すら失われていく。
アストラたちは分隊し、探索を始めた。
しかし、突如――
「……誰だ?」
声が降った。
剣を構え、マントを翻し、静かに姿を現す男。
銀髪に冷たい瞳、そして背中に背負った、蒼の魔剣。
それは、まぎれもなく――シオン=レイカー。
「シオン……俺だ、アストラだ。覚えてるか?」
「……その名に聞き覚えはあるが、思い出せない」
「記憶が……」
だがその瞬間――
シオンの剣が、迷いなくアストラに振り下ろされた。
「おいおいおいおい!! 思い出す気ねえだろお前!!」
火花と衝撃がぶつかる。
迎え撃つアストラの剣――グレイヴ・シリウスが空を切る。
グリーヴァとロックも援護に回るが、シオンの動きは読みづらく、鋭い。
「これは記憶が抜けた動きじゃねえぞ……!」
やがて、ルミナ王女が彼に声をかけた。
「……シオンさま。あなたは……本当は、わたくしの護衛騎士であったはずです」
「……ッ」
「わたくしが覚えている、あなたの剣は――人を守るものでした」
シオンの手が、一瞬だけ止まった。
その瞬間、アストラの拳がシオンの額にクリーンヒット。
「おらっ!! 思い出せッ!! 銀河一のクソ船長の顔をよォ!!」
ドガァァァ!!!
「……ッッ!!!」
――記憶が、脳内で激しく炸裂する。
「……アストラ……グリーヴァ……ロック……」
「おおおお!? 戻った!? 俺の拳で!? そんな回復法あり!?」
「脳震盪療法ってやつだな……」
「ひとつも医療的じゃねぇからな!?」
記憶を取り戻したシオンは、膝をついてつぶやいた。
「俺は……確かに、アイザックに操られていた。
この星に送り込まれ、“記憶が曖昧なまま、英雄たちを斬れ”と命令された」
「チッ……あの野郎、そんなことまで……」
「すまない、仲間を斬りかけた」
「気にすんな。……俺、仲間に斬られるの3回目だし」
「うち2回は私」
こうして、五人目の英雄・シオンが復帰を果たした。
だがその帰還を、またしても闇の眼が見つめていた。
《星冠連邦・禁断兵器開発艦》より、
アイザックの声が再び銀河に響く。
『残念だ。だが次は、もっと“痛い再会”になるぞ。
――“君の初恋”に、会わせてやる』
アストラの表情が、凍りつく。
「……まさか。次は……あの人か」
仲間の帰還と、記憶の再起動。
だが喜びも束の間、次に控えるは――アストラの“心の最深部”。
かつて想いを交わした者が、今は敵として立ちはだかる。
次回・第9話:
『初恋は、たいていレーザー砲とともにやってくる』
銀河の果て、愛と戦火の再会が始まる――!