第1話『運命が爆発する音がした』
この宇宙には、英雄と呼ばれる者がいる。
秩序を守る者、星を救う者、人々を導く者……。
だがごく稀に、“めちゃくちゃやったのに英雄になっちゃった”者もいる。
これは、その最たる例である。
――どうして、こいつが伝説になったのか?
それはもう、運が悪かったとしか言いようがない。
宇宙歴9999年。
辺境惑星ティオ=ペルーラ第38衛星、通称“ゴミ惑星”。
この星は、宇宙中の使い古された魔導機関や、廃棄されたエーテル砲、
そして失敗作のAIなどが捨てられる、いわば宇宙の産業廃棄物置き場だった。
そんな場所で、今日も一人の男が、まったく意味のないテンションで叫んでいた。
「ロック、見ろォッ!! ついに見つけたぞ、運命のアレをォッ!!!」
「キャプテン。まず深呼吸して落ち着いて。それ、ただの便座です」
男の名は、アストラ=ランダルフ。
元・銀河帝国士官候補。今・宇宙漂流民。副業・宇宙ガラクタ漁り。
彼が両手で掲げていたのは、ボロボロの金属便座だった。
「見ろよこのフォルム! この鈍い輝き! この“絶対押すな”って言ってる赤いレバー!!」
「便座にレバーがあるのがそもそもおかしい。いや、というかその赤レバーって――」
ガコン。
アストラはためらいなくレバーを引いた。
その瞬間、地面が揺れ、空間がざわついた。
ブォォォォオオンンン……!!
「――反応出ました! 魔導エーテル核が暴走状態! 空間座標が……歪む!」
ロック=ドラグーン、通称ロック。
全長8メートルのドラゴン型ナビゲーションAIである。
システム上は冷静な軍用機械だが、感情エミュレートがやたら高性能で、
今は全力で慌てていた。
「おいキャプテン!! お前まさか、古代魔導跳躍装置を尻で起動したのか!?」
「運命が、呼んでたんだよ……!」
「このバカアアアアア!!」
爆発的な光が視界を覆い、アストラとロックは空間ごと転移した。
* * *
目が覚めたとき、彼らは小惑星帯の中心部にいた。
宇宙が静かに、けれど確かに歪んでいた。
「……あれ? ここって……ペルーラ第3衛星じゃなかったよな?」
「当然だ。おそらく跳躍で約3,000光年飛ばされた。
お前のケツのせいで」
「この便座、すごくない?」
「すごいけど腹立つわ」
そのとき――モニターに反応があった。
巨大な戦艦と、小さなライフポッド。
ライフポッドの中には、意識を失いかけた少女がいた。
「……たす……けて……。あいつらが、わたしを……」
アストラは反射的に操縦桿を握った。
「ロック、救助態勢! あれは絶対、ただごとじゃない!」
「ちょっと待て! あの戦艦の紋章……**“深宵の星団騎士団”**だ。
あそこは銀河指名手配No.2の武装組織だぞ!? No.1はお前な!」
「……やっぱ俺の方が上かぁ。よし! 突撃!」
「お前、脳に爆弾でも詰まってんのか!?」
そう叫ぶロックを乗せて、《レッドバンシー号》は突入した。
銀河にまたひとつ、新たな厄災が投下される音がした。
運命が、確かに爆発する音だった。
英雄は、いつもカッコよく登場するとは限らない。
便座から始まったこの物語は、宇宙を巻き込む伝説になる――たぶん。
次回、第2話:
『姫、拾いました。あと、戦争始まったっぽい』
拾った少女の正体は“星の姫”!? アストラ、最初の銀河戦争に巻き込まれる!