第2話 暴発少年ズーク1. 回想
……そうそう。
最初から上手く魔法が使える子なんて、どこにもいないんだってば。
ぐるぐるして、暴発して、泣いて笑って、それでやっと、“一歩目”になる。
ズークも――そうだった。
いや、彼の場合は……ちょっとばかり、規格外だったけどね。
◇◇◇
ズリング村の朝は、静かで、にぎやかだ。
ひんやり澄んだ空気が、肺の奥までスッと入ってくる。
風に揺れる葉の音、鳥のさえずり、どこか遠くで聞こえる牛の鳴き声。
大地から立ち上る魔素の気配さえ、どこか穏やかだった。
ズークは、手ぶらでぶらぶら歩いていた。
散歩というより、軽い巡回。気分転換。ついでに朝メシの消化運動。
(やっぱ……ここの朝は格別だな。空気が、魔素ごと丸洗いしてくる感じ)
足元で草を踏むたび、ぽつぽつと魔素が立ちのぼるのがわかる。
この村は、大地の鼓動域――ガイア・ブレスの中心。
生きてる土地、という表現が、これほどしっくりくる場所もない。
広場のほうからは、子どもたちの元気な声が響いてきた。
「いっけぇぇぇー! 超回転ぅぅ!!」
「やば、止まんないって! うわ、光ってるし!」
何やら、派手に盛り上がっている。
ズークは木陰からそっと覗き、
「あー、やっぱりか」と小さくため息。
広場の中心で暴れていたのは――魔導コマ。
透明な軸に魔力を流し込み、回転と光の変化を楽しむおもちゃ。
……とはいえ、調整をミスると過回転からの“軽爆”を起こす、なかなかスリリングな代物だ。
(あれ、回転数……超えてんな。つか、魔力負荷、逆流しかけてるぞ)
視界の端で、コマの下部がギュイイイッと振動する。
次の瞬間――
パシュッ!!
白い閃光、続いて――
ドンッ!
小さな爆風が広場を駆け抜けた。
砂埃が巻き上がり、子どもたちが「ぎゃああああっ!!」と叫びながら四方八方へ転がっていく。
砂ぼこりと一緒に跳ねるのは、魔導コマの破片と、なぜか靴。
「うえっ、まぶっ……! コマどこいった!?」
「し、知らん! 俺の鼻になんか入った!!」
ズークは反射的に魔力を制御し、足元に簡易バリアを張った。
詠唱なし、動作もなし。ただ意識だけで、魔力を“弾く膜”として空間に定着させる。
(ま、これくらいは無意識でもできる……)
その上で、ふっと笑みが漏れた。
「……危な。……いや、懐かしっ」
つい、口元が緩む。
砂ぼこりのなかで、ふらふらと立ち上がってくる子どもたち。
その姿を見ながら、
ふと――昔の、ずっと前の自分が、頭に浮かんできた。
《今の爆風、魔力流が左にズレてたっぽいね〜。
あれ、意識方向と身体の軸がズレたままチャージしちゃったんだわ》
脳内に、シオリの分析が割り込む。
(……そりゃ暴発するわ。魔力流が自発的に逃げ道探した結果か)
魔力は、生き物みたいに流れる。
だから、意識とズレたまま力を溜めれば――必ずどこかで暴れる。
それを理解せず、ただ無理やり溜め込めばどうなるか。
――爆発する。容赦なく。
(……まあ、俺も昔は……やってたな。もっと、派手に)
ズークがそうつぶやいた瞬間。
頭の奥に、ふわりと風が吹いたような感覚が走った。
鼻の奥に残る焦げた匂い。
足元で跳ねて転がるタマネギ。
顔をぐちゃぐちゃにしながら、それでも笑ってくれた――リリアの姿。
それらが、カタリ、と記憶の棚からこぼれ落ちてきた。
◇◇◇
さあ、開いちゃいましたね〜。
ズーク少年の、“魔力暴発黒歴史アルバム”。
……ふふ。思い出すのは自由だけど――
次のページ、めくるなら覚悟してね?