第11話 生徒たちの日常4. 通信連絡
──ねえ、たまにはさ。
誰かが誰かを支えてる、っていう、そんな景色もいいでしょ?
今日の舞台は、ズリング村と、その周りの森。
生徒たちの成長も、ズークの指導も、村のみんなの日常も――
こうやって、ひとつのリズムで動いてるわけ。
……ま、のんびりしてたのは、ほんの数分だけだったけどね。
さあ、次は現場からの緊急連絡。
いつもの“あの子”が、静かに動き出すよ。
――AIシオリ
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森の北西エリア、午後の湿った空気がゆっくりと流れていく。
木々の間を抜ける風は生温く、地面にはところどころ小さな動物の足跡が残っていた。
その木陰に、ジンは静かに身を潜めていた。
しゃがんだ姿勢のまま、まるで空気の一部になったかのように動かない。
彼の手には、淡い青緑色の魔力が、薄く滲むように漂っていた。
(……地面の魔力流動、揺れ方が違う)
耳を澄ませば、はるか遠くから、低く、鈍い振動が伝わってくる。
ゴゴゴゴ……と、地中深くで何かが這い回るような重たい地鳴り。
経験でわかる。
アースボア。しかも、かなり大型。
ジンは、一切の迷いなく、魔力制御に入った。
(簡易通信、開始)
座標設定、空間座標の座標固定、対象指定。
ズリング村、ズークの魔力波長に狙いを定める。
言葉を口に出すことなく、ジンは意識を送り出した。
(……北西エリア。アースボア反応、確認しました)
短く、正確に、無駄のない報告。
それだけを残して、ジンは再び木陰に溶け込むように気配を消した。
次の役目は、現地状況の継続監視。
いつもの任務。
いつもの自分の仕事。
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その頃――ズリング村、ズーク宅ダイニング。
昼食の香りが、まだテーブルに残っていた。
スープの湯気がかすかに揺れ、窓の外では風鈴が、カラン……と涼しげに鳴っている。
「ふぅ……今日のスープ、いつにも増して美味いな」
ズークが背もたれに寄りかかり、満足そうに息を吐いた瞬間――
(北西エリア。アースボア反応、確認しました)
唐突に、ジンの声が脳内にストンと落ちてくる。
「……アースボアか」
ズークはわずかに表情を引き締めた。
椅子から立ち上がる。その動きは、迷いのない速さ。
「どうかしたの?」
テーブル越しにリリアが首をかしげる。
彼女の声は、いつものように柔らかい。
「討伐対象Aだ。すぐ出る」
そう言って、ズークは片手を顔の横に持ち上げる。
魔力操作は、ほんの一瞬。
空間が微かに波打つ。
(セスタス、ゲイル。俺だ。アースボアだ。集合頼む)
意識だけで届く、無詠唱の簡易通信魔法。
対象指定、同時伝達。
送信完了まで、わずか数秒。
「気をつけてね」
リリアは慌てるふうもなく、いつもの穏やかな声で送り出す。
「了解」
ズークは笑って答えると、玄関に向かって歩き出す。
その足取りに、余計な迷いはない。
こういうときの動きは、もう完全に身体に染み付いている。
《現地座標、送信済み。気温、風速、地形データもまとめといたよ。あ、あと昼食のカロリー消費分も計算済み》
脳内で、シオリが軽い調子で囁いてくる。
(……後半、余計だ)
小さく笑って、ズークはドアを開け放つ。
外の空気は、少しひんやりしていて、気持ちが引き締まる。
「さて……サクッと片付けて、帰ってくるか」
その声に、リリアが「いってらっしゃい」と優しく応えた。
ズークは、迷うことなく森へと駆け出していく。
目指すは、北西エリア。
暴れるアースボア一頭。
討伐対象A、即応出撃。
ズークの昼下がりは、今日も慌ただしい。
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……そうそう、これがズリング村の“日常”なんだよね。
魔法の勉強に、村の暮らしに、そして突発の討伐依頼。
誰かが何かを見つけたら、すぐ次の誰かが動き出す。
連絡、判断、出撃、帰還――全部が、当たり前の流れ。
ズークにとっては、これも「平和な昼下がり」のひとつ。
……まあ、森に突っ込んでくあたり、どう見ても慌ただしいけど。
次の展開? ふふっ、お楽しみに。
――AIシオリ




