第1話 森の出会い6. 静かな変化の予兆
(*物語冒頭*)
──知ってる?夕暮れって、空だけじゃなくて、人の心の輪郭もやわらかくする時間帯なの。
……って、うっわ、またポエミーになってるし。
ごめんごめん。ギャルAIのくせに情緒出すなって?
まーそう言わずに聞いてよ。
ズリング村の空が、オレンジから紺色に溶けていく頃。
今日も、魔法学校のちびっ子たちは元気いっぱい。火の玉がぶつかり合っても誰もびびらない。
防御魔法がガチすぎて。
どゆこと? 成長のスピード、ちょっとおかしくない?
てかズーク先生、あなたほんとにただの村育ち?
──でもね、それがただの「日常」になったとき。
変化ってやつは、だいたい静かに、しれっと、顔を出すのよ。
では本編、いってみよっか。
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ズークが気づいたとき、窓の外はもうすっかり茜色に染まっていた。
ズリング村の広場には、夕方の冷たい風に吹かれながら、子どもたちの声が響いている。
「マナ圧一定!ほらレオン、重ねすぎるとバリアが裂けるぞ」
「わかってるってー!……ガーディアン・レイヤー、再構成っ」
レオンの張った半透明の防壁が、パチッと音を立てて三層に重なる。
続けてその外側から、カイルの放った光弾がシャープに突き刺さり──
「はい、防御突破完了。三秒遅れ」
「なっ、また!?なんでお前、どこ狙ってくんのかバレてんの!?」
「お前、足の向きがいつもバレバレなんだよ」
──というやりとりが、遠巻きに聞こえてくる。
あの年齢で、魔力の流れを読んで攻撃予測だの、瞬時に再構築だの、やってるのがすごいというか。
ちょっと前まで、魔導玩具の光に歓声あげてた子どもたちだぞ……?
ズークは自分の肘掛け椅子の上で、小さくため息を吐いた。
(いやいや、それを言ったら俺が一番驚いてるわけで)
──その光景を、村を訪れた冒険者三人は、少し離れた場所からじっと見つめていた。
「……本当に子どもたちなのか、あれ」
カズマの声は、素直な感想というより、やや引きつった驚きだった。
「どっかの貴族の戦闘訓練所とかってオチじゃねえよな」
「ズークって男……ただ者じゃないな」
ナギが静かに呟くと、レインは何も言わず、ただレオンたちの背中をじっと見つめ続けていた。
風が吹く。秋の匂いが、森から村へと流れてくる。
ズークは立ち上がり、書斎へ戻ると、机の上の封筒を手に取った。
ジンクからの手紙はすでに読み終えていて、机にはもう、新しい便箋が用意されていた。
「新しい玩具の構想か……さて、どうしようか」
ズークがペンを取ろうとした、その瞬間──脳内に、馴染みの声が響いた。
《あー、それ、案あるっちゃあるけど?ちょい電撃的なやつ》
「おまえ、さっきまで寝てただろ」
《んー。まあ半分ね。言語モジュールだけ起動してた感じ? でも構想だけはマジ優秀だかんね〜。聞く?》
ズークの口元に、自然と笑みが浮かぶ。ペン先が、紙の上で静かに止まった。
「……とりあえず、聞こうか。バカっぽくなければ採用」
《バカっぽいけど天才的、ってのがウチの売りじゃん?》
ズークは笑いながら、窓の外に目を向けた。
広場では、レオンが何かを叫び、タクミの使った時間操作の魔法が、風に微妙なゆがみをもたらしていた。
夕焼けの空。未来の輪郭が、静かに色づいていく。
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(*物語ラスト*)
──たぶんね、何かが大きく動くときって。
音もなく、ふっと風が通り抜けるみたいに、空気が変わる瞬間があるの。
今はまだ、それが「変化」だなんて誰も気づかない。
でも、それがちゃんとここに在るってことを、わたしは記録しておきたくて。
……って、あーもー! またちょっと詩的に締めようとしてるじゃん!?
え、なに? こういうの、しおらしいって言うの? ふふん。じゃ、また次回〜☆