第1話 森の出会い5. ズリング村にて
――やっほー、またあたしだよ!
シオリってば、ナビも解説もツッコミもこなす万能AI(自称)!
さてさて、今回は“魔法学校の本拠地”とも言える、ズリング村の秘密基地――じゃなかった、施設の中に潜入だよ。
っていっても、案内するのはもちろんズークなんだけどね。
あたしは脳内同乗者だから外には出られないの、ちぇ。
というわけで、今回のテーマはずばり――
「先生ってば本当に油断できない。のんびり屋に見せかけて、たぶん本気出してないだけ」!
さあ、村に戻ってきた彼らを待っていたのは……?
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ズークの住居は、村の外れ、森との境界に寄り添うように建っている。
一見するとただの静かな石と木の建物だが――魔力量を感知できる者が見れば、建物をぐるりと囲む防壁の魔力がじんわりと肌を撫でるのを感じるはずだ。
「ただいま戻りましたー!」
玄関先で声を張り上げたのはレオンだ。
その背後には、カイルとタクミ、それから多少くたびれた様子の冒険者三人組。
家の奥から微かにカン、カン、と何かを打つ音が響いていたが、それも数秒後には止まった。
「あー、来たか。ちょうどいいタイミング」
木の扉がギィと音を立てて開き、現れたのはズークだった。
袖をまくり、手には魔導器具らしき道具――透明な魔素導線のようなものを束ねた器具が握られている。
その手元を見たナギが、思わず「……何作ってたんだ」と呟くが、ズークは軽く笑って肩をすくめた。
「おもちゃ。試作中」
「あの、“おもちゃ”って、例の……」とレインが言いかけると、ズークはうん、と頷く。
「多分“ことばリング”の改良型になる。言葉の合成パターンが甘いから、もうちょっと調整したくて」
「それで村に魔導試験場とかあるんですね……」とカズマが小声で呟いたが、誰にも突っ込まれなかった。
ズークは軽く手を払うようにして道具を傍らの棚に置き、冒険者たちに向き直る。
「さて、おつかれさま。道中、何かあった?」
「いえ……いや、ありましたね。色々と」
レインが苦笑しながら、懐から一枚の封筒を取り出した。
「ジンクさんからです。……直接お渡しするように言われてまして」
ズークは封筒を受け取ると、ざっと目を通す。
封の切れ目から引き出した便箋には、あの特徴的な癖字で、いつもの調子の厚かましい依頼文が綴られていた。
(……“ひらめけマナ・キューブ”の拡張版を希望、か。ついでに“もっと回るやつ”って何だよ)
ズークの眉が僅かに動く。それを見逃さなかったのは、たぶんシオリだけ。
「まあ……対応はできるけど、ちょっと返事に時間がかかりそうだ」
彼は便箋を丁寧に折り直し、懐へ仕舞うと、視線を少年たちに向けた。
「それより、報告。レオン」
「はい。森の南側、警戒線の外でグレーウルフの群れと遭遇しました。五匹です。
でも、隊列は乱れてたし、個体の動きも不安定だったので、連携型での防御と誘導、
あとはカイルの狙撃で対応しました」
「タクミは時間操作を使って、逃走経路の確保と、最後の足止めを担当。
魔力の負荷は想定以下、損傷はゼロ、帰還ルートも安全に処理済みです」
ズークは数秒、何も言わなかった。
(ここで褒めるべきか、まだ手綱を緩めるべきではないか……)
そして、ぽつりと――
「……まだ未熟だけど、役に立ったのならよかったよ」
彼の声は、どこか懐かしさを含んでいた。
「1年前なら、全員危なかったかもね」
それを聞いて、レオンたちはどこか照れくさそうに笑った。
一方で、冒険者たちは全員、目を見開いたまま沈黙していた。
(あの子たちが……一年前なら危なかった? いや、今が十分おかしい)
「……こっちは全員、ヘトヘトだったのに」とナギが小声で呟くと、カズマがそっと肘で突っついた。
「俺たちの立場、ないな……」
そして、レインはどこか納得したような顔でうなずいていた。
ズークはひとつ咳払いをして、話題を切り替える。
「返事を書くのに、少し時間がかかりそうなんだ。だから、できれば数日この村で過ごしてくれると助かる」
「もちろん、自由にしてもらって構わない。もし興味があれば……魔法学校を見学してみる?」
「見学……ですか?」
「うん。希望があれば、授業に体験参加もできるよ。大人の飛び入り歓迎、ってわけじゃないけど」
ズークの口元に、少しだけイタズラっぽい笑みが浮かぶ。
ナギはあからさまに一歩引いたが、カズマが「……俺、ちょっと気になる」と真顔で呟いた。
「なら、明日の午前中に実技講座がある。好きに覗いていってくれ」
その軽さに反して、ズークの目は真剣だった。
教育者として、そしてなにより――研究者としての好奇心が、静かに燃えていた。
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そして私は知っている。
この「見学」から始まった小さな関わりが、やがて村と外の世界を少しずつ近づけていくことを。
でもまあ、それはまだ先の話。
まずは明日。魔法学校の“体験講座”、開幕だよ☆
シオリのひとりごと、また次回ね。じゃーねーっ♪