第7話 芽吹いた4. 個人発表3
魔法学校の広場に、ざわざわとした期待の波が再び広がっていく。
次に呼ばれたのは、リク。
短髪をピンと逆立てた少年が、ズカズカと舞台中央まで歩いてきた。
「おれ、リク! 今日は、超すっげー爆発を見せるからな!!」
叫んだ瞬間、彼の足元から魔力の波が〈バチン!〉と弾けた。
――ただし、“爆発”とはいっても、これは演出だ。
ズークは舞台袖で、裏に張った防御結界をちらりと確認する。
(暴走の兆候は……よし、問題なし。魔力流も安定してる)
リクが両手を突き出す。その掌に、微細に震える光球が現れる。
そこから、ぎゅっと圧縮された熱気が集まり始める。
「いくぞー! 『ブレイク・チャージ』!!」
**ドン!!**
とんでもない音が、空気を震わせた。
……が、風も、熱も、衝撃も、観客席には一切届かない。
それは、まるで“映像だけの爆発”。
空に広がったのは、金色の花火のような光の奔流だった。
「うわああああああっ!!」
子どもたちが一斉に叫ぶ。歓声と悲鳴が交じり、椅子から転げ落ちる子も。
けれど、誰もケガはしていない。
舞台の中央で、リクは両手を腰に当て、どや顔で仁王立ち。
「すげーだろ! 爆発ってのは……ロマンなんだよ!」
(ロマンだけで突っ走られると困るが……まあ、今回は花マルだな)
ズークは小さく笑い、裏で調整していた空間圧をそっと解除した。
* * *
次に登場したのは、サラ。
ぴしりと背筋を伸ばし、丁寧に一礼する。
観客の何人かが「え? サラちゃんもやるの?」と目を見張った。
彼女は、舞台横に控えていた白髪の老人へ、そっと手を差し出す。
「では……こちらへどうぞ」
老人は村の木工職人のひとり。
かつて魔法の腕もあったが、数年前、手の震えによりその道を諦めた人物だった。
サラは、その手を包み込むように握る。
瞳を閉じ、静かに集中を深めていく。
(……入ったな。完全な“深接続”だ)
ズークは、鋭く研がれた感覚でそれを見抜く。
サラの指先から、きわめて細い魔力糸が流れ出す。
それは目に見えるか見えないかの繊細さで、老人の体内へと染み渡っていく。
〈マナ・フィラメント〉。
魔力回路の微細な接続・修復を行う、極限まで練られた術式。
やがて、老人がそっと杖を握り直すと――
「……お、おお……!? こ、これは……!」
ふわりと杖が浮いた。震えていない。
「力が……戻った……! サラちゃん、これは……わしは……!」
肩を震わせながら、老人は目頭を押さえた。
サラは何も言わず、ただ静かに微笑み、ぺこりと一礼する。
拍手が、ぽつり、ぽつりと広がっていった。
やがてそれは、穏やかで確かな“感謝の音”へと変わっていく。
(……ああ、こういう時間だよな)
ズークは目を細め、胸の奥で深く頷いた。
魔法は、戦うためだけのものじゃない。
それは、誰かの日常を支える力にもなれるんだ。
* * *
そして、最後に登場したのは――タクミ。
だらしなくシャツを出したまま、ふらふらと舞台に現れる。
片手には、小さな鉢植え。
「えーっと……花、咲かせます。どーんと」
投げやりな口調。
だが、ズークは微笑むだけ。知っているのだ。
タクミの集中力は、力が抜けた直後にこそピークを迎える。
少年はスコップで種をまき、土をかぶせる。
指を二本だけ立てて、ぽつりと唱えた。
「『クロック・ブレイク』」
その瞬間、空気が〈ピキッ〉と軋むように歪んだ。
鉢の中から、芽がぐんぐん伸びていく。
つぼみがふくらみ、そして――
**パッ!**
五輪の黄花が、一気に咲き誇った。
まるで早送り映像のように、ほんの数秒の出来事。
「……わあ」
前列にいた小さな女の子が、ぽつりと漏らしたその感嘆。
ズークの胸が、ふっと温かくなった。
(時間操作の応用としては完璧。制御範囲も対象限定も、成長したな)
タクミは開いた花を一瞥して、肩をすくめる。
「ま、こんなもんでしょ。お疲れっした~」
ぺこっと投げやりに頭を下げると、観客席から笑いが起こる。
だがその笑いには、確かに「感心」の色が混ざっていた。
* * *
こうして、個人発表会の全演目が終わった。
ズークはゆっくりと息を吐く。
みんな、よくやった。
才能は、確かに芽吹いていた。
その小さな芽を育てていくのが、これからの一年だ。
そしてきっと――
次の扉は、もっと広く、もっと高く開かれるだろう。
未来は、もうそこまで来ている。




