第7話 芽吹いた2. 個人発表1
ねえねえ、想像してみて?
ほんの半年前まで、魔法の「ま」の字も知らなかったちびっこたちが、いまや村人の前でドヤ顔して魔法披露する日が来るなんて!
うん、言ったよね? この世界の伸びしろ、マジであなどれないって。
さてさて、はじまるよ。“未来の魔法使いたち”の、ちょっとドキドキ、でもキラッと光る晴れ舞台。
──シオリより
* * *
ズリング村の朝は、ほんの少しだけ、特別なざわめきに包まれていた。
いつもなら小鳥の声が空気を彩る時間――
今日は、あちこちから弾んだ足音と、おしゃべりが重なりあう。
「今日は見るぞう、孫の晴れ姿!」
「ミレイナちゃん、また何かやらかさなきゃいいけどな〜」
「ズークの教室、いったいどこまで本格的なんだか……」
あっという間に、魔法学校の広場が人で埋まった。
中央には滑らかな石を敷き詰めた即席の“演技台”。
その周囲には、魔法でふわりと浮かせた円形ベンチが、観客席代わりに整えられている。
「みなさん、今日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます!」
中央に立つのはもちろん、ズーク。
魔力でほんの少し声を響かせ、観客の隅々まで心地よく届くよう調整していた。
こういうの、地味に技術がいるのだ。
「この半年で子どもたちが学んだこと――得意な分野や工夫を、今日は自由な形で披露します。どうか、温かく見守ってあげてください」
拍手が湧くなか、リリアが舞台袖で子どもたちの背をそっと押す。
最初に現れたのは――
「えっと……ユウナです」
ユウナは、静かに、しかししっかりと立った。
彼女の得意は、情報分析と予測補助。
だが、それをどう「見せる」のか……と観客が思った矢先、ユウナが取り出したのは、紙風船の詰まった袋だった。
「この中から、ひとつずつ風船を投げてください。私が、それを先に叩き落とします」
「え? 落とす前に当てるってこと?」
「……それ、当てずっぽうじゃ無理じゃろ?」
村人たちの間にさざ波のようなざわめき。
だが、ズークは穏やかに補足した。
「彼女のスキルは“予知”じゃない。“反応の先読み”だよ」
試しに、とズークが紙風船をぽいっと放つ。
パッという軽い音とともに、風船が弧を描く。ほんの一瞬の遅れで、ユウナの手が伸び――
「パシュッ!」
風船が、音もなく消えた。
否、“叩き落とされた”のだ。風のような魔力が、風船の落下先を正確に読み切り、最短距離で打ち抜いた。
「おお……!」
「今の、目じゃなくて“動き”を読んでる……!」
ズークはうなずく。
ユウナのスキルは、魔力量の微細な変動から思考パターンを読み取り、行動予測を立てるもの。まさに、魔法による“予測演算”だった。
「彼女が見てるのは、“少し先の今”なんだ。思考と動作、そのズレの先を読む」
次々に投げられる紙風船を、ユウナはすべてピンポイントで撃ち落とした。
やがて拍手が巻き起こり、彼女はぺこりと頭を下げて退場する。
続いて登場したのは、レオン。
「おれ、レオン! 今日は、防御魔法を見せます!」
頼もしい声に、前列から「よっ、しっかり者~!」の声が飛ぶ。
レオンが両手を構えると、空間に淡い光が揺らぎはじめた。
魔力の圧と流れを細かく調整しながら、彼が編み出したのは――
「ガーディアン・レイヤー、展開!」
ズンッという低い響き。
透明な“壁”が何重にも折り重なるように現れ、結界のように空間を包んだ。
ズークが手配していた村人二人が演技台に立つと、その結界が彼らをやさしく囲む。
次いでズークが放つのは、小さな衝撃波。
パンッと空気を鳴らしながら、真っ直ぐにぶつかって――
「おおっ、跳ね返したぞ!?」
「前にズークが川止めたときのアレに似てる……!」
観客の興奮の中、ズークがぽつりとつぶやく。
「……あのときは土砂災害だったな。あっちは、壁の厚さが40層……」
レオンの結界はまだその半分にも満たない。
それでも、多層結界の構造は極めて安定していた。
「持続強度、よし。レイヤー再展開の応答も速い……」
ズークが静かにうなずくと、観客から拍手と歓声。
レオンはにかっと笑いながら深く礼をして退場した。
そして三人目は――ミレイナ。
「みなさーんっ☆ 本日はミレイナ劇場にようこそーっ!」
登場と同時に一回転、ふわっと姿を変える。
現れたのは――村長そっくりの姿だった。
「……む? あれ? 腰が……重い……おお、ワシじゃ!」
村長本人が思わず立ち上がり、観客がどっと沸く。
「では問題です! この村長、ほんものはどっちでしょうゲーム〜!」
舞台を縦横無尽に駆けまわり、声も動きも完全コピー。
観客の指摘が入れば、次は別の村人へと変身。
おばあちゃん、鍛冶屋のおじさん、八百屋の娘、果ては──
「……今、うちの犬のクセまで真似してなかった……?」
笑いと驚きが渦巻く中、ミレイナの最後の変身は――
「ジャジャーン☆ リリアせんせ〜〜!」
「えっ!? ちょっ、ミレイナちゃん、それは動き盛りすぎっ……!」
舞台袖からツッコミが飛んで、またひときわ大きな爆笑。
ズークは肩をすくめながら、苦笑い。
「……魔法と演技力の融合。発想もすごいけど、制御がここまで安定してるとは……」
ミレイナはキメ顔で投げキッス(※本当に投げた)を披露し、大喝采のなか退場した。
舞台裏では、次の出番を控えた子どもたちが、緊張と期待にそわそわしている。
ズークは小さく深呼吸し、ふと視線を空に向けた。
魔法が、個性として芽吹きはじめている。
この世界に、確かな“可能性”が──
ひとつずつ、咲いていく音が聞こえる気がした。
──さて、次に登場するのは、誰かな?




