第5話 新しい扉4. カイル
それはまるで――最初から答えを知っていたかのような動きだった。
知育魔導玩具の前に、カイルは無言で座っていた。
少し離れた場所からその様子を見ていたジャックは、どこか不思議な静けさを感じていた。
キューブは、魔力の流れによって色や動きを変化させる玩具だ。
いくつかのパーツを組み合わせて魔力を流すと、光る、動く、回る、あるいは――無反応。
一見ただの立方体のパズル。だが、魔力制御と論理的思考を同時に要求する、なかなかの曲者でもある。
その前で、カイルは黙々と手を動かしていた。
魔力の流し方も、キューブの向きも――まるで、設計図が見えているかのように正確だった。
「……あれ、初見で完成近くない?」
思わず、ジャックがぽつりとつぶやく。
けれど当の本人は、何事もなかったかのように次のパーツへ指を進めていく。
カイルは、話さない。
笑わない。
周りの子たちが歓声をあげたり、あーだこーだと相談しながら遊んでいるその横で――
ひとりだけ、完全に“別の時間軸”を生きているようだった。
「うわっ、また動いた!」
「色が変わったー!」
レオンやミレイナたちが別の玩具に夢中になる中、
カイルは最後のキューブを静かに積み上げる。
カチッ。
控えめな音とともに、キューブ全体が青から銀へと変色した。
そして中心のパーツがスッと沈み、淡く光る線が表面を走る。
――正解の魔力回路を通した時だけ起こる、最終ギミック。
「……完成」
誰に言うでもなく、ただ、自分のためだけにつぶやいて。
カイルはキューブをひとつ見上げた。
その目は冷静で、どこか達成感すら薄かった。
「……すげえな」
立ち上がりかけたジャックの隣で、ズークが腕を組んだまま小さく頷いていた。
「理論偏重型。魔力の流れよりも、構造の最適化に重きを置く思考だな」
ズークの声は静かだったが、その目は確実に、興味を向けていた。
「マナ・キューブの反応は論理式に近い。あいつは、式を読み取ったんだ。感覚じゃなく」
「感覚じゃなく……式?」
「最小構成で最大出力。ムダが一切ない。まるで演算子だ」
演算子ってなんだ、と思いながらジャックはカイルを見た。
キューブを前に、淡々と片づけの準備を始めるカイル。
彼はやはり、誰にも声をかけないし、話しかけようともしていない。
まるで――この世界で自分以外の存在は必要ないとでも言うように。
「……友だち、できるんだろうか」
ぽそっと漏れたジャックの本音に、ズークはふっと笑った。
「大丈夫だ。あいつは、必要な時に自分から動く」
「……そう見えないけど」
「見えないほど強い意志ってのも、あるんだよ」
そう言って、ズークは右手を軽く動かした。
空中に小さく光が集まり、透明な幕のようなシールドがカイルの周囲にふわりと生まれる。
《空間操作魔法:流動遮断膜》
ただの防御魔法じゃない。
魔力と音の流れをやわらかく遮断するこのベールは、集中力を要する作業時に最適な補助魔法だった。
カイルがほんの少しだけ、口元を緩めたように見えたのは――気のせいだろうか。
「……あ、今ちょっとだけ笑った?」
「さあな」
ズークの肩がかすかに揺れる。
教室に流れる風が、ひとつ、新しい空気を運んできた。
冷たくも、どこか温かい。
静かに燃えるような、そんな時間だった。
***
(ラストの語り:AIシオリ)
ふっふ〜ん……来たわね、わたしのターン!
……って、あれ? なんか今回、地味じゃなかった?
いや、本人は悪くないの。むしろめちゃくちゃ優秀。キューブ最速クリアとか、もう天才かって話。
でもねぇ、こう……盛り上がりって意味ではさ。
爆発もないし、叫び声もないし(←爆発はダメです)、ジャックもツッコミきれてないし!
あーでも、ズークさん的には大満足だったのよね。
あの静かなる観察魔人、めちゃくちゃ嬉しそうだったし。
さてさて、お次は誰かな?
あの研究狂いのアレかな? それとも、問題児のあの子かな〜?
次回、キューブよりも不安定。
けれど、好奇心という名の魔力に満ちたあの子が登場よ!
お楽しみに☆ ──シオリ




