第5話 新しい扉3. レオン
──AIシオリですけど、ちょっと一言。
あたしの観測によれば、この教室に最初に「秩序」を生み出したのは、この少年でした。
名前はレオン。9歳。
特筆すべきは、誰よりも早く“遊びの中にルールがある”ってことを理解し、
それをまるで空気みたいに、自然に、周囲に浸透させたこと。
つまり……はい、しれっとリーダーシップ発動です。
──というわけで、本編スタート!
***
フリップボード――それは、魔石の白と黒で構成された知育型リバーシゲーム。
魔力の強さや流し方で石の色がひっくり返る仕組みになっていて、
ちゃんとルールを覚えなきゃ、勝負にすらならない。
ズークは棚からそれを手に取った少年に、ちらりと視線を送った。
「レオン、やってみるか?」
「はい!」
まっすぐな声だった。
勢いじゃなく、芯がある。
レオンは小さく息を吸い、フリップボードの盤面をていねいに机に置いた。
パチ、パチ。
白と黒の魔石を並べながら、彼は周囲を見回す。
「ねえ、これ知ってる人いる? リバーシっていうゲームなんだけど……」
ミレイナが小さく首をかしげる。
タクミとカイルは棚の奥を物色中。
ジンは例によって黙ってこちらを見てるけど──たぶんルールは知らない。
そこでレオンが、すっと立ち上がった。
「よし、じゃあ説明するね」
彼の声は少しも威圧的じゃなかった。
なのに、教室には自然と「聞こう」という空気が生まれる。
「白と黒の石があって、交互に置いていくの。
でも、相手の石をはさめる場所にしか置けない。
たとえば――こう」
パチン。
レオンが白い魔石を置くと、両脇の黒石がくるん、と反転して白になる。
その動きに、ユウナとサラが小さく「おおっ」と声をもらした。
「これが“挟んだら裏返る”ってこと」
「じゃあ……囲んでいくゲーム?」とミレイナ。
「うん、そう!」
説明しながらも、レオンは机の前に座っていたリクの腕を引いた。
「リク、やろうよ。最初はやってみたほうがわかると思う」
「え、オレ? ……あ、ああ、いいけど」
不意をつかれたようにリクが立ち上がる。
その横で、ズークはそっと立ち、脳内でシオリと交信していた。
《ほぉ~。空気の読み取り方、レベル高いじゃん》
──だな。ちゃんと全員の反応見ながら話してた。
《うん、今のレオン、めっちゃ“先生ポジ”だよ》
盤面に向き合ったふたり。
リクは最初ぎこちなかったが、しばらくすると本気モードに入ったらしい。
「よし、次はここだ! おら、ひっくり返せ~!」
「いや、そこはオレが先に狙ってたって……ほら、ここに置いたら四つまとめて取れたのに!」
「うっそ、マジ!?」
「うそじゃないって! マジマジ!」
横で見ていたナナがくすっと笑い、ジンは無言のまま、手元の石をいじり始める。
何となく、周囲にじんわりと熱が伝播していく。
リリアがぽつりとつぶやいた。
「……楽しそう。勝ち負けじゃなくて、ほんとに“やってみたい”が伝わってくるね」
ズークは静かにうなずく。
フリップボードは、勝ち負けだけが目的じゃない。
ルールを覚える力。
選択肢を見極める思考力。
そして何より、“誰かと向き合う”ことの練習になる。
でも、それを最初に形にして見せてくれたのは――間違いなく、レオンだった。
《……ふむ。チームの精神的支柱候補ってとこかね》
──今の年齢でここまで空気を読んで、人を巻き込んで、前に出られる子は少ない。
──この子はきっと、大人になるころには誰かの「心の盾」になれる。
魔石がひっくり返る音が、軽やかに響いた。
リクが勝った瞬間、両手を上げてガッツポーズ。
だけどレオンは、まるで悔しがらない。
「よっしゃ、強いじゃん! 次の相手、誰にする?」
その言葉に、タクミとサラが同時に歩み出た。
「あ、それ僕が次に」
「順番、じゃんけんで決めましょう」
ちょっとした笑い声と、静かな拍手の音が、教室に広がった。
フリップボードの盤面よりも、もっと鮮やかに。
子どもたちの笑顔が、そこに並んでいた。
***
──というわけで、今回のハイライトは、
「先に言っとくけど勝ち負けじゃないから!」って空気を作っちゃった男、レオンくん。
フリップボード? うん、ただの知育玩具です。
だけど、ここに“遊びの場をつくる力”があるってこと。
それに気づかせてくれたのは、彼の笑顔だったのかも。
次は……ちょっとクールな現実主義者が登場?
いや、それとも……天然ピアニスト?
おたのしみに♡ ──シオリ




