第4話 はじまりの教室6. 投資
《“未来に投資する”って、簡単そうで、実はけっこう難しいセリフなんだよね〜》
《だってそれって、失敗も不安もひっくるめて、覚悟を全部こめるってことじゃん?》
《ま、ズークの顔見てれば、そーゆータイプなのは分かってたけどさ〜》
《さてさて、夜の囲炉裏。火が揺れて、想いが揺れて――。あんたたち、いいシーン始まるよ?》
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パチ……パチッ……
囲炉裏の火が、湿った薪をはぜさせるたび、橙色の光が天井の梁をふわりと揺らした。
ズークの家――いや、今はもう“ふたりの家”となったこの小さな住まいの一角で、ズークは静かに膝を立てていた。
その膝の上には、分厚い革の袋。
ひもをほどき、中身をごそりと広げる。
金属の音が、乾いた木の床を鳴らした。
「……旅で貯めた分、ほぼ全部だ」
リリアが隣で、目を丸くする。
「え、こんなに持ってたの? なにこれ……硬貨の山?」
「うん。メルゼリアでいくつか契約取ったときの報酬と、講義の謝礼と……あと、一部は実験データの提供費」
「それ、つまり――全部ズークの“技術料”じゃない」
火の光に照らされながら、リリアがぽつりとつぶやく。
ズークは、わずかに肩をすくめた。
「貯めてきた理由は……たぶん、最初からこれのためだったんだと思う」
「魔法学校を、本当に村の“未来”にしたい」
「そのためなら、全部出す。惜しくないよ」
囲炉裏の火が、ひときわ大きくパチンとはじけた。
ふたりはしばらく、無言だった。
ズークは、少しだけ息を吸い込む。
(言っていいのか?)
(いや、今しかないだろ)
「リリア」
「ん?」
「俺ひとりじゃ、教室は作れなかった。子どもたちにも、村の人にも支えられてきた。でも……やっぱり一番支えられてるのは、君だと思う」
リリアは目をぱちくりさせたあと、ふっと吹き出すように笑った。
「なによ、今さら」
「……うん。ずるいわよ。そう言われたら、もう言うしかないでしょ」
彼女は、そばに置いていた布袋をとん、と机の上に乗せた。
そして、自分の膝の上に――ずしり。同じような袋を、もうひとつ。
「貯めてたの。刺繍の売り上げと、村の薬草の仲介料と……まあ、こっそりだけどね」
「でも、もうこっそりじゃない」
「――あたしも全部出すよ。人生ごと」
言葉の最後に、ふっと火が揺れる。
ふたりの顔を、やわらかく照らす。
その光は、橙というより――少しだけ、春の陽みたいな色をしていた。
「……ありがとう」
ズークがそう言った時、リリアはほんの少し首をかしげて、
「いいの。だって、あたしたちの“未来”でしょ?」
ふたりはそっと、手を重ねた。
その手のひらの中には、貨幣の重みでも、薪の温もりでもない――
きっと、まだ名もない、小さな未来の光が宿っていた。
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《……あたしさ、ズークには言えないけど、けっこう感情分析で泣きそうだったよ今》
《あーもう、このふたり、エモすぎて困る〜! 投資って、そういう意味だったのね?》
《さーて次回は、いよいよ学校が“動き出す”話。》
《必要なのは、技術と仕組みと――あと、ちょっとの勇気。行くよ、先生?》




