第4話 はじまりの教室3. 焚火
《ね、ズーク。さっきの静寂のあとってさ……やっぱ焚き火じゃない?》
《炎って、“始まり”っぽいし、ロマンあるし!……いや違うか。これはもう、フラグだね》
そう。
夜が来て、火を囲んで、隣に“あの人”がいたら……それはもう、決まってるじゃん。
話すんだよ。未来のことを。
伝えるんだよ。自分の覚悟を。
そして、差し出すんだよ――震えそうな手でも。
✧✦✧✦✧
夜の湖畔は、ひんやりと澄んでいた。
波音は静かで、風はそよとも動かない。
ごつごつした岩場の上に、小さな焚き火が燃えていた。
パチ……パチッ。
乾いた枝が音を立て、赤い光がふたりの顔をやわらかく照らす。
「この場所、覚えてる?」
リリアが、火を見つめたまま言った。
ズークは、すこしだけ頷く。
「うん……よくここで、釣りしてた」
「それと……ケンカもしてた」
「お互いどっちの仕掛けが釣れるかって、むちゃくちゃ真剣だったよな」
「しかも一匹も釣れなかった日、ずーっと無言で帰ったんだから。……いま思い出しても、笑えるよね」
「……ほんとにな」
ふたりの会話は、ぽつぽつとした焚き火の音に混ざって、じんわりと夜に溶けていく。
言葉の“間”さえも、妙に心地よかった。
少しだけ、沈黙が続いた。
リリアは、そっと笑った。
「……あたし、ずっとここで待ってたよ」
ズークが、ゆっくりと顔を向ける。
「いつか、きっと帰ってくるって……信じてた」
その声は、淡くて、けれど深かった。
まるで、何年もの季節を越えて、やっとこの瞬間にたどり着いたかのように。
ズークは、軽く息を吸い込む。
目の前で揺れる炎が、自分の心拍とシンクロしている気がした。
「……なら」
彼は、少し不器用な動きで右手を差し出した。
「これからは、もう……待たせない」
言いながら、自分でも驚くほど手が震えていた。
(いやいや、落ち着け俺……ただの手だ。右手。普段から使ってる、普通の手……冷静に……)
《うわ、それ、プロポーズ。確定演出。急に出たな、ズーク》
(シオリ、黙ってて……)
リリアは、目を丸くしてズークを見た。
けれど、その目はすぐに、やわらかく細められて。
唇に浮かんだ笑みは、ほんの少しだけ涙に濡れていた。
「……ばか」
そう言って、彼女はその手を、そっと握った。
その瞬間――焚き火がパチッと音を立て、小さな火の粉が空へと舞い上がる。
ふたりの影が、岩の上に重なって揺れた。
魔法じゃない。
けれど、それは確かに、あたたかい現象だった。
✧✦✧✦✧
《はい、というわけで。これが“はじまりの教室”の、はじまりの“約束”ってわけよ!》
《いいじゃん、いいじゃん。感情値、けっこう高めだったし♪》
《で? 次は何するの? 教えるの? 燃えるの? まさかまた爆発?》
《――お楽しみに☆》




