第4話 はじまりの教室2. 静寂
《ねぇ、ズーク。これって……静けさ?》
《……それとも、なんか……重たいの、来てる?》
ふふ、どっちも正解。
いま広がってるのは、ただの静寂じゃない。
止まってるのは、音じゃなくて――流れそのもの。
魔法の、流れ。
さて。
静かになりすぎた場所に、何を持ち込むべきか。
力? 言葉? それとも、教室?
彼はもう、決めていた。
“禁じられた魔法”を、もう一度、子どもたちに届けるって。
理由?――未来のために決まってるじゃん。
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ぽかぽかとした陽射しが、広場の石畳をゆるやかに温めていた。
風が草をなでる音と、遠くで響く鶏の鳴き声。
その中に――子どもたちの声が、かすかに混じっていた。
「くらえーっ! “めがみのけん”っ!」
「ぬわー! おれの“ふしぎバリア”がー!」
棒きれと落ち葉で盛り上がる戦いごっこ。
叫んでる技名は、やたら魔法っぽいけど……見た目は完全に、ただの木製チャンバラ。
――でも、それでも彼らなりに必死だった。
剣の振り方とか、構え方とか、やけに本気。
けれど。
ズークは、静かに眉をひそめる。
(……魔力の流れが、ない)
どんなに大きな声で技名を叫んでも、魔素の波紋がまるで起きない。
まるでそこに、“魔法”という文化そのものが失われたかのようだった。
ズリング村は、大地の鼓動域――。
魔素が豊富すぎて、くしゃみ一つで火花が散る子も珍しくない土地。
なのに今は……完全なるゼロ。スン……とした、無反応。
なんというか、魔法の気配だけ抜かれた広場は、妙に静かで。
……うん、ちょっと怖いくらいだった。
「最近ね……」
ふいに、隣からリリアの声。
「魔力、暴走しちゃった子が何人かいたの」
ズークは視線を彼女に向ける。
リリアは笑ってはいたけど、その目は――どこか曇っていた。
「最初は、小さな火だったの。でも、そのあとで……音がして。ドン、って。
ほら、あの、パーンってなる実験。ズーク、よくやってたじゃない? あれっぽい感じで……」
――ああ、それはたぶん、魔力圧が急激に跳ねた状態だ。
「それから、村のみんな……怖がっちゃって」
リリアは、広場を走り回る子どもたちを見つめながら、小さく続けた。
「“もう魔法は禁止にしよう”って。すぐ決まっちゃったの。村の集会で」
ズークは、ほんの少しだけ口角を引き下げた。
“魔法禁止”
それは、何かが起きたときの、典型的な反応だった。
原因の追究も、対策も――全部置いといて、とりあえず止めとけ、っていう。
(……“禁止”で済むなら、簡単だけど)
(それじゃ、何も変わらない)
恐怖は、静寂を呼ぶ。
静寂は、理解を止める。
理解のない場所に、次の解決は生まれない。
ズークは、足元の土をそっと見下ろした。
ただの広場。
でも――この場所が、未来を変える起点になるかもしれない。
そんな考えを巡らせていた、そのとき。
「ズーク……来てくれたんだな」
聞き覚えのある声が、背後から届いた。
振り返る。
そこに立っていたのは――村長だった。
小柄で細身の体に、麻布の上着を重ねた、変わらぬ姿。
柔らかな笑み。
けれどその目の奥には――はっきりと、迷いがあった。
決して表には出さないけど。
けれどズークには、見える。
村を守る責任と、変わることへの不安。
押し寄せる“怖さ”に蓋をしたまま、答えを探している目。
ズークは、ほんの一歩だけ前に出た。
広場の風が、ふっとやんだ気がした。
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《さあ――この静けさの先で、彼が何を始めるか、楽しみにしててよね?》
《次回、はじまりの“提案”》
《……てかさー、アンタ、静寂ってだけでカッコつけすぎじゃない?》
《ま、いいけど。どうせやるなら、とことん変えてやんな、先生♪》




