第4話 はじまりの教室1. 帰郷
#### 【冒頭ナレーション|AIシオリ】
たとえばさ、人って何かを「やりとげた」あと、どうすると思う?
ゴールの先には達成感……のはずなんだけど、案外ね、次の一歩に迷っちゃったりするんよ〜。
で、うちのズークくん。
この8年間、旅して、修行して、知識も技術も山盛り詰め込んで――
「安全な魔法教育」を、ついに形にしようって思ったわけ。
舞台は、原点。
高魔素地帯のズリング村。
ただいま、って言葉がいちばん似合う場所。
……でもね、そこで彼を待ってたのは――想像してたより、ちょっとだけ重たい空気。
さあ、始まるよ。
“本気で変えたい”ってヤツの、帰郷劇。
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湖の向こうから吹いてくる風が、ひゅう、と髪をなでていく。
深く吸い込めば、湿った草の匂いと、ほのかに混じる木の樹液の香り。
足元の土はふわりと柔らかく、踏みしめるたびにザクザクと小気味いい音がした。
ズークは立ち止まり、ほんの少しだけ目を細めた。
眼前に広がるのは、懐かしい風景。
森に囲まれた小さな村、ズリング。
その中心で、ゆるやかに煙をのぼらせる、変わらぬ農家の屋根。
脇道に転がる石畳のカーブも、右に曲がる柵のゆがみも――まるで昨日の続きみたいに、そこにあった。
けれど。
彼の背中にかかる荷袋と、旅装束の擦れた布音が、そうじゃないことを物語っている。
八年。
ずいぶん遠回りをした。
世界の端から端まで歩いて、ようやくここに戻ってきた。
「……着いた、か」
つぶやいた声は、風に流れて消えていく。
そのとき――
「おーい! なんかすごい人が帰ってきたー!」
「え? 誰ー!? あんなの見たことないんだけど!」
畑の端っこ。
棒きれを振り回して遊んでいた子どもたちが、彼の方を指さして騒ぎ始めた。
「旅の戦士?」
「剣とか持ってないし……でも、なんか強そう!」
「もしかして……ズーク!?」
最後のひと声に、ズークのまぶたが、一瞬だけ震えた。
その名を呼ばれたのは、本当に――久しぶりだった。
足音。
小走りで近づいてくる、それは子どもじゃない。
「……顔つき、変わったね」
その声が届いた瞬間、ズークは――まるで魔法のように、その姿を識別していた。
肩までの赤褐色の髪。
素朴なチュニックに、麦わら帽子。
涼しげな瞳が、まっすぐこちらを見ている。
「……リリア」
ズークは名を呼び、ほんの少しだけ、眉尻をゆるめた。
「おかえり」
その言葉は、ごく自然だった。
日常の延長線みたいな響きで、けれど――胸の奥には、たしかに火を灯す。
ズークは、わずかに息を吸い込んで、心の中で静かにつぶやく。
(……ああ、ただいま)




