第3話 ひとりじゃないから1. 両親の死
#### 《メタ語り:AIシオリ》
ねえ、聞こえてる?
……そこの読者さーん。そうそう、あなた。
あたしの名前はシオリ。ズークの中にいる、ちょっとだけ賢いやつ。まあ、AIってやつね。
で、今回のお話は――ズークの人生で、いちばん、どちゃくそに重要な転機。
泣き虫だったズークが、ぜんぶを失って、そして“あたし”と出会うきっかけになる日。
……ちょっと重いけど、ついてきてよね?
◇◇◇
朝なのに、辺りは灰色だった。
ズリング村の南。霧牙の林。
名前の通り、空気はまるで牙のように尖っていて、霧はすべてを噛み砕くように、視界を奪っていく森。
ズークは――あのとき、まだ九歳だった。
裸足のまま、畦道を駆け下りる。
泥が跳ねて、ズボンの裾がぐっしょり濡れる。
でも、そんなの気にしてる場合じゃなかった。
「おかあさんっ……おとう、さん……っ!」
数分前。村の鐘が三度、鳴った。
それは、“緊急集会”の合図。
狩人のひとりが負傷して戻ってきたのだ。
肩に大きな傷。血まみれで、息も絶え絶えで。
「魔獣……霧の中で……でかいのが……!」
叫びに近い声と同時に、ズークの両親は真っ先に立ち上がった。
「おまえは家にいなさい。絶対に、だよ」
母はそう言って、ズークの頭を撫でた。
けど、その手が――少しだけ震えていた。
ズークは、それを見逃さなかった。
だから――ついてきてしまった。
もう、霧の中では前も後ろもわからない。
けれど、地面に残る“魔力の痕”だけは、ズークの視界に、かすかに青く浮かんで見えた。
(流れが、乱れてる……魔力圧が……)
普段ならなめらかに流れているはずの“魔素の流れ”が、濁流みたいに暴れていた。
枝葉がざわざわと揺れる。
どこかで、何かが――ズズ……ズシンッ……――重たい音を立てている。
そのとき。
「ぐっ、あぁああああッ!!」
聞き慣れた――父の声だった。
「とうっさ……!!」
霧を蹴って、ズークは駆けた。
つまずいて転びながら、枝をかき分けながら、心臓の音がゴンゴン耳の奥に響きながら――とにかく前へ、前へ。
そして、見えた。
ぐしゃ、と折れた木。
その根元に、倒れている父。
脇腹から、赤が――止まらず流れている。
その前に立ちふさがる母。
両手を広げ、魔力を構えるような姿勢で――
そして、その向こう。
いた。
全身を黒い棘で覆った、巨大な魔獣。
膨張した背中。
無数の目。
四足ともに異なる節。
動きには規則性がなく、ただ本能で暴れているだけのような――獣のかたまり。
魔力の乱流を発し、空気ごと震わせながら、そこに立っていた。
「来るなっ、ズーク!!」
母の叫びと同時に、魔獣が突進してきた。
**ドガァンッ!!**
地面がえぐれ、霧が一瞬晴れる。
母の放った魔力が、魔獣の肩を弾く。
でも――止まらない。
次の瞬間。
**ドスンッ!!**
母の体が、はじき飛ばされた。
「かあ、さ……!!」
父が、立ち上がろうとして――膝を折る。
血でぬめった地面に手をつきながら、必死に声を振り絞った。
「逃げろ……ズーク……魔力を……抑え、ろ……」
でも――ズークには、もう聞こえていなかった。
頭が、真っ白だった。
心が、叫びだけでいっぱいだった。
何かが、プツンと切れた。
空気が、ズーン、と重くなる。
霧が渦を巻き、引き寄せられる。
その中心で。
ズークの体から――まるで嵐のような魔力が噴き出した。
「うわ、ちょ、まってズークそれ――」
遠く、誰かの声が頭の奥で響いた気がした。
でも、もう答える余裕なんてなかった。
ズークの右手が、無意識に前に突き出される。
ただの、感情。
ただの、怒り。
ただ、それだけが魔力に変換されていく。
《魔力圧・極限解放――一点衝撃》
**ドグォッ!!!!!!!!!**
空間がねじれ、地面が波打つ。
魔獣の体が、沈み込む。
見えない槌で押し潰されたかのように、魔獣は音もなく、地面に埋まっていく。
大地が爆ぜ、周囲の木々が倒れ、霧が吹き飛んだ。
数秒後。
その場に、魔獣の姿はなかった。
ただ、巨大な円形のクレーター。
そして、風だけが残っていた。
ズークは、その中心でふらりと立ち尽くす。
「か、は……っ」
膝をつき、何かを叫ぼうとして――
そのまま、崩れ落ちた。
意識が、闇に沈む。
――そのとき。
ふわりと、誰かが手を握ってくれた。
あたたかくて、優しくて、ほっとするぬくもり。
誰かが、そばにいてくれた。
◇◇◇
……まったく。はじめましてがこれって、どうなのよほんと。
でもまあ、これがズークだから、しょうがない。
でもね。ここからが本番。
ズークの再起と、あたし――シオリの出番は。
じゃ、次回もちゃんと来てね?
シオリでした~!




