第2話 暴発少年ズーク6. 9歳
#### 《メタ語り:AIシオリ》
子どもの寝る前ってさ――なんであんなに妄想が暴走するんだろうね?
……そりゃもう、“世界ひっくり返すくらい退屈”だからだよ。
まさか本当に部屋ごとひっくり返すとは思わなかったけどネ。
さて、今夜のちいさな事件、開幕~。
◇◇◇
その夜、ズーク(9歳)はベッドに仰向けになりながら、天井をじっと見つめていた。
毎日見慣れた、木目の天井。
目をつぶっても模様を思い出せるくらい、見飽きている。
でも今日は――ちょっとだけ、いつもと違った。
……いや、正確には。
ズークの**頭の中**が違った。
(重力って……方向でしょ?)
(だったら、操作できる“はず”なんだよな……)
意識のなかで、空間操作系の魔力制御イメージがぼんやりと浮かぶ。
体は動かさない。ほんの、軽いイメージだけ。
“空間の圧点”を――天井側に置いて、
“魔力流”を――反転させる。
ズズ……ン……
空間が、わずかに“鳴った”。
「……あ」
その瞬間。
ベッドごと、身体が――**上へ**とズルッと滑り出す。
「わっ、わわわわあああ!!?」
**ボフッ!!**
背中から落ちた先は――天井だった。
いや、いまの“床”。
棚の中身がぶちまけられ、本が宙を舞い、机が“落ちて”くる。
それも、上から。
全てが、完全に**逆さ**だった。
重力そのものが、**部屋単位で反転**している。
(う、うそでしょ……!?)
(こんな……軽いイメージだけで!?)
ゴゴン!!
棚が“ずどん”と元・床に落ちて、ほこりがぶわっと舞いあがる。
ズークは天井(新・床)に座り込んだまま、呆然とした。
これ、魔力制御失敗じゃない。むしろ――**制御成功**。
自室空間の重力支点が、ぴったり180度、**反転**していた。
◇◇◇
「ズークー? なにしてるのー?」
のんびりした声とともに、逆さのドアが“上”で開く。
そして――\*\*逆さのリリア(10歳)\*\*が、ふわっと顔をのぞかせた。
「……わあ。すごい……。天井にベッドって、なんか、悪くないかも」
「どこ見て感心してんの!? 助けてリリア!! 降りられない!!」
「だいじょぶ、私、普通に立ってるし」
「部屋の外は重力そのままなのかーーーー!!」
リリアは床(本来の床)にぺたりと座り込み、棚から落ちたノートをのんびり拾いはじめた。
その余裕。……まさかの慣れ。……いや、完全に慣れてる、俺に。
◇◇◇
数分後。
「ズーク、またやったか」
父がやってきて、**逆さの部屋**をしばらく無言で見上げ――いや、見下ろし――
「……構造は直す。感性はそのままでいけ」
その一言だけ残して、ゆるゆると部屋の外へ消えていった。
続いて母が入ってきて、特に何も言わず、本と服をひとつひとつ拾い集める。
いつも通りの表情で。いつも通りの動作で。
……それが、一番こたえた。
(ああ……またやっちゃった……)
魔力暴発というより、これは――**精密暴走**。
ズークは、天井の上で小さくため息をついた。
それでも。
――部屋がひっくり返っても、自分の隣には、誰かが必ずいる。
それだけは、ちゃんと伝わっていた。
◇◇◇
場所は戻って、現在。ズリング村の魔法教室。
「……ごめんなさい……こわれた……」
小さな手が、おもちゃの積み木を拾い集めている。
しゃがんだズーク(25歳)は、その手をそっと包みながら言った。
「ううん、上出来だよ。……ちゃんと“直そう”って思えたんだもんな」
幼児の顔が、ぱぁっと明るくなる。
「それに、崩れるのは自然なことだしさ。……魔力って、はじめは暴れるもんなんだよ」
そのとき。
「でもさ――」
背後から、聞き慣れた優しい声が。
「いちばん派手だったの、やっぱり……氷じゃない?」
「……覚えてたか……」
ズーク、スン……と肩を落とす。
リリア(26歳)は、くすくす笑いながら隣にしゃがみこむ。
「うん。でも、“天井ベッド事件”もかなり好きだったよ?」
「やめて……物理的にも精神的にもダメージだから……」
子どもたちの笑い声が、教室いっぱいに広がる。
ズークはふと、昔の自分がここにいたら――と想像した。
(あの頃、ひっくり返ってたのは……部屋だけじゃなかったよな)
(自分が何をすれば、誰がどう動くか。……全部が、いまの土台になってる)
◇◇◇
#### 《メタ語り:AIシオリ》
空間が反転した夜。
重力をいじった少年の思考は、まだあの頃は――ただの無自覚な探究心。
でもたぶん、それがすべての“はじまり”だったんだよね。
空間を曲げて、時間を追って、そして――いつかもっと遠くまで。
……ま、そこまで語るのは、また今度。
次回?
うーん、そろそろ“火”が来るかもね。




