第2話 暴発少年ズーク5. 8歳
冷えるって――すごいことだよね。
熱を奪って、動きを止めて、空気すら凍りつかせる。
でもさ。
ズーク、最初はそこまでやるつもり――なかったんだよね。
◇◇◇
ズリング村の坂道は、春でもわりと急だ。
しかも今日みたいに、朝露で石畳がしっとり濡れてたりすると、大人でも普通に転ぶ。
……で、そこに冷却魔法を流したらどうなるか――
「なるほど。魔力密度を地表粒子層に沿って拡散……で、冷却効果が……」
ズーク(8歳)は、坂道の途中でしゃがみこんでいた。
真剣な顔で、地面に指先を当てている。
横にはリリア。
もはや慣れた様子で、すぐ横で膝を抱えて見守っていた。
「つまりね、冷やしたい範囲にだけ魔力を流す。でも、冷却は空間に拡散しやすいから……」
ズークは、指先にふっと魔力を集める。
無詠唱で、静かに地面に流す。
ピンポイントで、ほんの一部だけ温度を下げるつもりで。
パァァァ……ッ
魔力が地表に広がる。空気が一瞬、ピンと張りつめた。
「……よし。ひんやり成功」
「えらいえらい。でも、坂の上まで行くのはやめとこ?」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと範囲は下だけに――」
――その瞬間。
ズザァァァァッ!!
足元の感触が、一気に変わった。
“濡れた石畳”から、\*\*“氷の滑走路”\*\*へ。
「うわ、やば――うわぁぁぁああ!!!」
ドサッ! ゴロンッ! ガシャァン!!
ズーク、まさかの大転倒。
しかも、リリアごと。
「きゃあっ!? ちょ、ズーク、そっち引っ張らないで――わあああっ!!」
二人まとめて、氷坂ダッシュコースをノンストップ滑走。
回転しながら、跳ねながら、時にはドリフトしながら――最下段まで大暴走。
「だ、誰か止めてぇぇぇ!!」
「ぐるぐるするぅぅぅ!!!」
そしてついに――
ドガーン!!!
坂下にあった村の荷車(中身:にんじん)に直撃。
野菜が舞い、氷と悲鳴がぶつかり合い、坂道は一瞬で地獄絵図に。
その直後。
「わっ、すべるすべるすべる! うわあああ!」
「わたしの野菜があああ!!」
「おい誰だ!? 坂が氷になってるぞ!? ズークか!?」
中腰の農夫、袋抱えたおばあちゃん、木箱ごと飛んでった子ども。
連鎖転倒祭り。
もはや村全体が、氷のトラップエリア。
「ズークゥゥゥゥ……またあああ……」
「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ!!!」
◇◇◇
騒動のあと。
ズークは、家の縁側で毛布に包まれていた。
濡れたズボンがパリパリと音を立て、体はまだ小刻みに震えている。
「お茶でも飲んで、落ち着きなさーい」
母が湯気の立つカップをそっと差し出す。
やけに優しい声で。
「……ありがとう……」
父は頭をかきながら、窓の外でまだ転んでる村人を眺めてつぶやく。
「……そういや昔、氷用の靴あったな。どこ行ったっけ」
「それ、使う機会あります……?」
「いや、なんか……懐かしくなってさ」
そしてリリアが、毛布をもう一枚。
ぺたりとズークにかけてくれる。
顔にはまだ葉っぱがついてたけど、笑ってた。
「……氷の坂道って、スリルあるね」
「まさか……自分で作って……自分で滑るとは……」
「でもさ、ズークが魔法で実験するの、あたし好きだよ?」
「……うぅ……。もう……冷却魔法は……しばらく封印する……」
◇◇◇
子どもって、やらかす生き物。
でも、やらかしたあとで――ちゃんと笑ってくれる人がいること。
たぶんそれが、安全の正体ってやつなんだろうね。
さて、次回は……うん、火はまだ早いから、圧力再分散の練習だねズークくん。




