表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/71

第2話 暴発少年ズーク5. 8歳


冷えるって――すごいことだよね。


熱を奪って、動きを止めて、空気すら凍りつかせる。


でもさ。


ズーク、最初はそこまでやるつもり――なかったんだよね。


◇◇◇


ズリング村の坂道は、春でもわりと急だ。

しかも今日みたいに、朝露で石畳がしっとり濡れてたりすると、大人でも普通に転ぶ。


……で、そこに冷却魔法を流したらどうなるか――


「なるほど。魔力密度を地表粒子層に沿って拡散……で、冷却効果が……」


ズーク(8歳)は、坂道の途中でしゃがみこんでいた。

真剣な顔で、地面に指先を当てている。


横にはリリア。

もはや慣れた様子で、すぐ横で膝を抱えて見守っていた。


「つまりね、冷やしたい範囲にだけ魔力を流す。でも、冷却は空間に拡散しやすいから……」


ズークは、指先にふっと魔力を集める。

無詠唱で、静かに地面に流す。


ピンポイントで、ほんの一部だけ温度を下げるつもりで。


パァァァ……ッ


魔力が地表に広がる。空気が一瞬、ピンと張りつめた。


「……よし。ひんやり成功」


「えらいえらい。でも、坂の上まで行くのはやめとこ?」


「大丈夫大丈夫。ちゃんと範囲は下だけに――」


――その瞬間。


ズザァァァァッ!!


足元の感触が、一気に変わった。


“濡れた石畳”から、\*\*“氷の滑走路”\*\*へ。


「うわ、やば――うわぁぁぁああ!!!」


ドサッ! ゴロンッ! ガシャァン!!


ズーク、まさかの大転倒。


しかも、リリアごと。


「きゃあっ!? ちょ、ズーク、そっち引っ張らないで――わあああっ!!」


二人まとめて、氷坂ダッシュコースをノンストップ滑走。


回転しながら、跳ねながら、時にはドリフトしながら――最下段まで大暴走。


「だ、誰か止めてぇぇぇ!!」


「ぐるぐるするぅぅぅ!!!」


そしてついに――


ドガーン!!!


坂下にあった村の荷車(中身:にんじん)に直撃。

野菜が舞い、氷と悲鳴がぶつかり合い、坂道は一瞬で地獄絵図に。


その直後。


「わっ、すべるすべるすべる! うわあああ!」


「わたしの野菜があああ!!」


「おい誰だ!? 坂が氷になってるぞ!? ズークか!?」


中腰の農夫、袋抱えたおばあちゃん、木箱ごと飛んでった子ども。


連鎖転倒祭り。


もはや村全体が、氷のトラップエリア。


「ズークゥゥゥゥ……またあああ……」


「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ!!!」


◇◇◇


騒動のあと。


ズークは、家の縁側で毛布に包まれていた。

濡れたズボンがパリパリと音を立て、体はまだ小刻みに震えている。


「お茶でも飲んで、落ち着きなさーい」


母が湯気の立つカップをそっと差し出す。

やけに優しい声で。


「……ありがとう……」


父は頭をかきながら、窓の外でまだ転んでる村人を眺めてつぶやく。


「……そういや昔、氷用の靴あったな。どこ行ったっけ」


「それ、使う機会あります……?」


「いや、なんか……懐かしくなってさ」


そしてリリアが、毛布をもう一枚。

ぺたりとズークにかけてくれる。

顔にはまだ葉っぱがついてたけど、笑ってた。


「……氷の坂道って、スリルあるね」


「まさか……自分で作って……自分で滑るとは……」


「でもさ、ズークが魔法で実験するの、あたし好きだよ?」


「……うぅ……。もう……冷却魔法は……しばらく封印する……」


◇◇◇


子どもって、やらかす生き物。


でも、やらかしたあとで――ちゃんと笑ってくれる人がいること。


たぶんそれが、安全の正体ってやつなんだろうね。


さて、次回は……うん、火はまだ早いから、圧力再分散の練習だねズークくん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ