第2話 暴発少年ズーク4. 7歳
支点に、力点に、作用点――。
ああ、物理ってロマンだよねぇ。
……って、え? 七歳で?
……そう。ズークだから、ね。
◇◇◇
その日、ズークはリビングのど真ん中で正座していた。
手には、そこらで拾った細い棒きれ。
隣にはリリア。
やたらワクワクした顔で、まるで“これから世界初の大発明が起きる”みたいなテンションで見守っている。
「よし……じゃあ、やってみるよ。圧力集中……支点再現……いける、いけるはず……!」
ズークの脳内には、すでに鮮明な構造図が描かれていた。
てこの原理。
支点(柱)。
力点(魔力)。
作用点(対象)。
これを、魔力操作で再現できれば――
\*\*「魔力てこ力学魔法」\*\*が、成立する。はず。
「まず、魔力流を点収束……圧力一定で……」
魔力を狭く、細く、一直線に。
いわば“魔力の棒”。
それを、家の柱に――コツン、と軽く当てた。
ほんのちょっとだけ。ほんの、指先でつつく程度。
……の、はずだったのに。
ミシィィ……パキッ。
「……え」
柱が、鳴いた。
微かに、でも確実に――きしんだ音。
次の瞬間、小さなヒビがパキパキッと、音を立てて走った。
「――あ゛あああああああ!!!」
ズークは反射的に、その場で土下座。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! ぼくはただ!! 力学の応用をですね!!!」
がばっ、とリリアが立ち上がり、ダッシュで座布団を抱えて戻ってきた。
「よーし、リリア工務店! 緊急補修入りまーす!!」
「えっ、今このタイミングで!?」
ずるっ、と座布団が柱に巻かれる。
ヒビをぴったり隠すように、ぐるぐる三重巻き。
布の端を、柱の出っ張りにひっかけ、きゅっ、と結ぶ。
「はい、完成!」
「いや、いやいやいやいや。これ隠してるだけでしょ!? 補修じゃなくて隠蔽だよね!?」
「大丈夫、バレなきゃセーフ」
その笑顔は、妙にキラキラしていた。
そこへ、台所から父がゆるゆると登場。
「……支点とか言ってたな? なに? 力学やってんの?」
「はい……すみませんでした……」
「うーん、まぁ……“支点”はまだ早いんじゃないかなー?」
「……はい……」
つづいて、母も手に何かを持ってやってきた。
「これ。ほらズーク、次からは紙で作って試そう? 厚紙とハサミ」
渡されたのは、切りやすい厚紙と、安全仕様の丸い刃のハサミ。
「……あれ? これ、幼児工作セット……?」
「だって、まだ七歳でしょ?」
「……うん……そうだった……」
◇◇◇
ちなみに今回の魔力暴発、技術的な分類で言うと――「圧力一点集中型・局所破壊事故」。
本来なら、魔力流は目的に合わせて面分散または点誘導でコントロールするべきところ、
ズークは出力強度を高めるあまり、魔力を極端に一点に集中させすぎた。
その結果――柱という、局所負荷にめちゃくちゃ弱い構造体へ、想定外の圧力が直撃。
……で、\*\*「ミシッ」\*\*である。
◇◇◇
知識ってさ――身につけると、すぐ使いたくなるじゃん?
特に子どもって。
で、ズークの場合、それがすぐ魔力で物理化されるんだから……困るよね〜。
でも、大丈夫。
隣には、座布団抱えた現場監督がいるからさ。




