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冬馬の友人

冬馬と付き合いだして二週間が経った。付き合っていることは社内では秘密だったが、当然ながら正秋と春菜はそれを知っている。二人以外にはバレないよう、千夏も冬馬も以前より互いの接触を避けた。


二人は仕事が終わると大抵、冬馬の家で過ごした。残業であまり時間が取れないこともあったとはいえ、することは食事か睡眠かセックスだった。だけどやはり、冬馬は千夏が果てるとそれ以上求めてこなかった。変だ。普通、男が果てるまで続くものではないのか。千夏はもっと求められたくてモヤモヤしていたが、それを言えずにいた。


冬馬の様子は変わりないが、二人で話していても、いつの間にか会話から離脱し、一人で考え込んでいるようなときがちらほらあった。何か無理をさせているようだと、千夏は感じていた。


そのくせ、エクスタはよくやっていた。千夏は美穂のアドバイスにしたがい、他の女の子とやり取りして欲しくないと冬馬に伝えた。美穂のように可愛らしくは言えなかったものの、冷静に言うことはできた。だが、冬馬はキツネにつままれたような顔をして、千夏は千夏、これはこれと言い、素直に聞き入れてくれなかった。千夏はもっと食らいついて言及したかったが、それ以上は機嫌を損なうのが怖くて、ここでも口をつぐんだ。

千夏の食欲は日に日に落ちていった。


千夏は美穂が自宅に泊まりにきた日のことを思い出した。朝起きたら、ビーグル犬のストラップを手に握りしめていた。隣で寝ていたはずの美穂は先に出勤してしまったらしく、代わりにテーブルに置き手紙があった。

『おはよう。先行くね。頑張って恋してるちなっちゃんのこと大好きだよ! ミホ』


週末になり、冬馬が友達に会わせたいと言いだした。本当なら二人の時間をたっぷりつくりたかったが、そうとは言わずにオーケーした。


集まった場所は表参道のオシャレなカフェテラスだった。テラス席のそばには美しいビオトープが設けられ、心地よい水音が響いていた。少し曇っていて気温も比較的低い日だったので、屋内の席ではなく、一行はテラス席を陣取った。


「初めましてー。レオでーす。証券会社勤務っす」

「こんにちは、ミナです。冬馬と同じ帝国芸大卒。店舗空間デザイナーです」

「マヤです。二十三です。歯科衛生士やってます。エクスタで顔以外は見ちゃいました」


冬馬の友人達はかわるがわる、千夏に挨拶してきた。十人以上が集まり、そのほとんどが陽キャだと千夏は思った。さらに、日頃からエクスタで冬馬とやりとりのあるメンバーなんだなとも、千夏は理解した。彼らの雰囲気に圧倒されながら、自分も精一杯、丁寧に受け答えした。


だけど、場違い感が半端なかった。みんな冬馬とタメか、それより若い子が多かった。明らかに千夏自身が年長だし、どうやって会話をすればいいのか戸惑った。自分のしている仕事の話をしても、それ以上深掘りしてこようとする者はいなかった。仕方がないので、それぞれにたくさん質問を振ることにした。返ってきた言葉の若さ、幼さ、その青臭さに辟易しながらも、頑張って笑い、耳を傾けることにした。


「何飲む?」

冬馬に聞かれ、千夏はメニュー表を手に取る。ドリンクはどれも一杯七百円以上する。普段から節約している千夏にしてみれば高価だ。冬馬の女友達の一人が、スムージーらしきものを飲んでいるのが目に留まる。それをメニュー表の中から探す。何種類かあり、どれも九百円以上だ。

そのスムージーに飽きたのか、彼女はそれを飲みかけのまま放置し、今度は違うドリンクをオーダーしている。千夏は思わず声をかけてしまう。


「あの。それ、飲まないの」

「あー。なんか、美味しくないんで」

彼女はこともなげに言う。

「あ、そう」

それ以上、何が言える。千夏は笑顔を消して頷く。

「えーと、イナツさんは何、飲んでるんですか」

「あの、私、チナツだから…」

千夏は気まずくなりながらも訂正する。

「あー、すいません、なんかそう聞こえちゃって。ねーみんな、チナツさんだって。ほら」

名前を間違って覚えていたその彼女は、他の友達に大声で言い、デリカシーなく笑い飛ばす。千夏は顔を引きつらせつつ、曖昧に笑う。

「あのコゲコゲの料理、最高でしたね」

一人がかた焼きそばの件を持ち出すと、皆は一斉に笑う。千夏には一ミリも面白くない。冬馬が何か言ってくれるかと期待してみるも、冬馬は他の友達との会話に夢中だ。


「それで彼女ちゃんは、冬馬のどこが好きになったわけ」

いきなり、坊主頭の男が声をかけてくる。もう、名前ですら呼ばれないらしい。

「えっと、カッコよくて、優しくて。賢いところかな」

「はー。賢くはねーだろ。なー、冬馬」

彼は冬馬の元へすたすた歩いていき、首を腕で締めつける。冬馬はグエッといいながらも楽しそうに笑う。

「で、何。歳下が好きなの」

「いえ。歳下だからってわけじゃないんだけど」

千夏は気圧されて、しどろもどろになる。

「何歳?」

「私は三十三だけど…」

そんなの、言いたくもない。だけど言わなきゃいけない空気に飲まれてしまう。


「うわー。冬馬、また歳上かよー」

また、とは何か。千夏は坊主頭を真顔で見る。

「むーり無理無理無理。俺には無理だわ。で、どう? 彼女ちゃんから見た歳下彼氏は」

突然、彼は大笑いし始める。他の友達にも笑いが伝染する。

「おい。そういうのよせ」

冬馬が怒って制するが、坊主頭は笑うのをやめない。

「すっごくいいよ。歳下彼氏。あなたにも私の友達、紹介しようか」

そう言う千夏の声は、千夏自身が思う以上に大きく響き渡る。急にシーンとして、そばにいた他の客までこちらを見る。千夏は少し気まずくなり、曖昧に笑う。

「って、興味ないかー。あなたのタイプはどんな女の子?」

千夏は、フリーズしている坊主頭に嘘くさい笑みを投げかけ、話の続きを促した。

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