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ボウリング

二人ともボールを選び終わったので、指定されたレーンのソファへと歩いていった。


「千夏、先でいいよ」

そう言って冬馬はソファに座り、目の前にある小さなディスプレイを覗き込む。

「ありがと」

千夏はソファに座らず、アプローチに立つ。ボールを右手で持ちながら少し前屈みで歩き、ボールを後方に振り上げる。ファウルラインの手前でボールで半円を描き、放つ。ボールはレーンを疾走し、カコーンと音を立ててピンに当たる。倒れたのは左手前の三本だけだ。


「あーあ」

千夏は残念に思いながらノロノロと歩き、ソファの前に戻る。

「はい、ドンマーイ」

そう言いながら冬馬はまだ小さなディスプレイを見ていて、何やら操作している。千夏はリターンされてきたボールを手に取ろうとしたとき、天井にぶら下がっている大きなディスプレイを見て目を見開く。

「何。ビジョとテンサイって」

千夏が画面のスコアボードを指さす。

「はよ、投げろ」

冬馬はなんでもなさそうに手を振り払う。千夏は急に笑えて、少し手が震えてしまう。ボールを手にとり、レーンに向き直る。正面奥で倒れたピンが片づけられ、七本のピンだけが整列する。千夏は言いたいことを飲み込み、先程と同様に投げる。ボールの軌道は大きく中央からそれ、ガターに転がり落ちてしまう。ディスプレイにはあえなく「G」と表示される。


「あー、ほら。美女とか、バカにするからガターになっちゃったじゃん」

千夏は言い訳しながら肩を落として歩き、ソファにどかっと座る。

「言い訳すんなよ、美女。天才が投げるから見てろ」


冬馬は得意げに笑ってジャケットをソファに放り、ワイシャツを腕まくりする。千夏よりも重そうな青いボールを手に取り、アプローチに立つ。千夏はその後ろ姿をなにげなく見た。背が高くて細身、というだけでかなり高得点を稼いでいるのに、着てる服までカッコいい。腕まくりしたせいで見える前腕がまた、すごくいい。冬馬の外見はスペアどころか、どストライクだ。千夏は自分だけが見られるこの贅沢な眺め、この恩恵を、ありがたく享受する。


冬馬は背筋を伸ばし、長い腕で千夏よりも大きく振り、勢いよくボールを放つ。ボールは轟音を立てながらピンに突っ込む。ドキャッと強烈な音が響く。倒れたピンは九本だ。


「惜しい」

千夏は目をハートにしたまま、両手で握り拳をつくり、励ます。冬馬は気に食わなそうに顔をしかめ、ソファの元へ戻ってくる。

「ぜってースペア、とる」

冬馬はリターンされてきたボールを手にとり、再びアプローチへ戻る。残されたピンは一本、右端にポツンと立っている。千夏がやや前傾姿勢で見守っていると、ボールは右端に吸い込まれていき、ピンを倒した。


「すごーい。スペアだ」

「だろー」

「だろーって言われるとなんか腹たつ」

千夏が笑うと、冬馬も笑った。実際に冬馬はカッコいいと、千夏は本気で思う。周りが幼い中高生やくたびれたオッサンばかりなので、なおさらいい男に見えてしまうというのもある。


その後は千夏も少しだけ奮闘して、一ゲームが終わる頃には百三十二点だった。冬馬はスペアだけでなくストライクも数回叩き出し、百七十九点だった。


「なんか悔しい。二ゲーム目は美女が天才に勝つ」

千夏は大げさにふてくされてみせ、勝利宣言する。

「望むところだ」

千夏が顔を挙げると、いつの間にか冬馬は近くの自販機で炭酸飲料を買い、がぶ飲みしている。二人は二ゲーム目も気合を入れてボールを投げ続けた。


二ゲーム目が終わり、二人はボウリング場を後にした。勝利宣言も虚しく、千夏は二ゲームとも負けてしまったものの、なかなか爽快な気持ちだった。冬馬の表情もイキイキしているようだった。それぞれ駅に向かうものの、千夏は急に気持ちが沈んだ。自分は私鉄だが、冬馬をJRを利用していた。これでもうお別れするのは寂しかった。

ふと、冬馬が改札前で足を止めた。


「腹、減らねえ?」

千夏が背の高い冬馬を見上げると、冬馬は明るい笑顔を向けてきた。千夏は首をブンブン、縦に振りまくった。

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