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二人の男①

数日後の朝、千夏は定刻通り出社した。制作部の部屋に入ってタイムカードを通し、自席でダイエットスリッパに履き替えた。パソコンを立ち上げている間、水筒の蓋を開け、温かい麦茶を飲んだ。それから社内メールをチェックし始めた。


何やらまたしても正秋が新規案件を獲得したらしかった。今度は化粧品メーカーのウェブサイト制作の依頼がきたらしく、隣のウェブチームが少し騒がしくしていた。係長になって早々、どんどん仕事をとってくる正秋を、千夏は頼もしく感じた。


さらに、正秋のすごいところは業界を広げているところだった。去年まではこれまで通りというか、教育機関や医療系、金融系といった、従来のクライアントから新たな仕事を獲ってくる、というスタイルだった。ところが今年度に入ってから沢井モーターに代表されるバイク業界、飲食業界、美容業界、家電メーカーなど、さまざまな業界を開拓していた。営業成績の正確な数字こそ知らないが、課長の林よりも実績を上げているのは間違いないと、千夏は睨んだ。


社内メールを見ていると、正秋の教育熱心ぶりも伺えた。若い部下達がどうすれば案件獲得できるかを丁寧に指導しているらしく、社内教育のための時間をつくったり、実際に営業先に同行したりと、あっちこっちによく動いているのが見てとれた。


本人の話し方や立ち振る舞いは控えめで、ガツガツしていない分、客の心の隙間に入り込むのが上手いのだろう。ミーティングルームでクライアントと打ち合わせしているのをたまたま見たとき、千夏はその腰の低さ、傾聴する姿勢、かつ会話の手綱を決して離さないところにひどく感心した。部下達から「マサさん」と慕われているのが、微笑ましく、誇らしくもあった。


一方、冬馬もなかなか活躍していた。以前にトラブルがあったものの、春菜の獲った私立大学の案内パンフレットを制作し、大学側からイメージを刷新できたと、高評価を得た。その功績を認められ、大学の一部ウェブサイトも更新したいと、新たな仕事が舞い込んだ。規模の大きい総合大学で、予算も大きいらしく、営業部長の田中が冬馬の肩をばんばん叩いていった。


ウェブサイト更新は基本的にはヒロイン・デザインのウェブデザイン課が担当するものの、デザインの方向性はデザイン課の冬馬に委ねられた。

冬馬はウェブの仕事にも抵抗がないようで、ウェブデザイナー自身が冬馬にデザインの相談にきたり、そのまま仕事を依頼してくることが増えた。


千夏はデザイナーが使っているパソコンやアプリケーションの知識なんてないし、まったく分からなかったが、冬馬のキーボードのタッチぶりは黒岩や白井のそれとは明らかに違った。ショートカットキーを完全に頭に叩き込んでいるらしく、無駄な動きがなく、無音に近いほど静かで、とてもスピーディだった。


冬馬本人はチームワークを大切にしているらしいことも分かった。他の二人が煮詰まっているのを察知すると、違う切り口の案を横からさらりと見せて助けたり、アドバイスしていた。なんだかんだ言いつつも、黒岩や白井が手一杯だと、急ぎの修正対応などは素早く片づけていった。冬馬はデザインの踏襲にも長け、黒岩のテイストを踏襲してイラスト制作を手伝ったり、白井の作った名刺のイメージに合う紙選びを手伝ったりして、進行を助けた。おかげですっかり、他の二人の笑顔が増えた。黒岩の愚痴も減った。デザイナー三人組の組織力は俄然、向上した。


興味深いのは、冬馬と正秋が少し仲良くなっているらしいところだった。正秋が他に用事があって制作部の部屋にきたとき、冬馬の方から話しかけた。ハウスメーカーのパンフとか作ってみたいんで、仕事取ってきてくださいよと、いけしゃあしゃあと注文つけているのを千夏は見た。意外にも正秋は、今度そっち方面も開拓してみるよと素直に請け負った。二人の男は話が合うのか、それ以外でも何やら話をして盛り上がっていて、いい関係ができつつあるようだった。千夏は、なんだかこの二人だけでも十分、仕事が成り立つようにすら思えた。


昼休みになった。たまには休憩室で昼食でもとろうと思い、千夏は休憩室へ向かった。空いている隅の、壁際のテーブル席に座り、弁当を開いた。スマートフォンを手に取ると、正秋からメッセージが届いていた。

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