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探り合い①

「ちなっちゃんおはよう。ずいぶん痩せたじゃん」

翌朝、千夏が出社すると、エントランスで美穂に話しかけられた。


言われて嬉しかった。今まではウエストのファスナーに絞め殺される思いだったが、この頃は一日中ゆったりしていて快適だった。むしろ、歩きながらずれ落ちそうになるパンツやスカートが増えてきた。

千夏は機嫌よく、前日のスイーツ占いの結果を伝えた。スイーツ占いとは女子をお菓子の何かに、男子をドリンクの何かに見立て、生年月日から割り出したそれらを突き合わせ、相性を占うものだと美穂に説明した。


美穂はくだらない、と一蹴したりしなかった。面白がって話を聞いてくれた。さらに、占いによると美穂は「ショートケーキ」の女性であるため、相性がいいのは「紅茶」や「コーヒー」の男性だと、千夏は伝えた。還暦を迎えても尚、恋愛を楽しんでいるらしい美穂は、気になっている男性相手に占ってみると答えた。千夏は自分が「ビスケット」で冬馬は「ルイボスティー」であり、その相性は最高、互いに飽きることがない者同士と診断されたことは言わなかった。良い結果の詳細は、胸に秘めておきたかった。ちなみに、この日の星座占いで双子座が十一位だったことは、完全にシカトした。


午前の業務を終え、昼休憩になったので、千夏は給湯室に行った。そこには電子レンジでお弁当が温まるのを待つ、理乃の姿があった。


理乃は総務部の女性社員で、春菜とよくつるんでいるのを見かけた。長い髪をオレンジ系のブラウンに染め、濃いメイクをしていた。その気合いの入れっぷりが、千夏には発情期のメス猫のように見えた。春菜ほどではないにしろ、美人でスタイルもなかなかよく、男好き且つ性悪そうな雰囲気が漂っていた。だが、幸福な女ではない。千夏は前日の資料室でのことを思い出した。春菜に裏切られている可哀想な女だと認識し、密かに鼻で笑った。


「千夏さんてえ、彼氏とかいるんですかあ」

理乃は語尾を伸ばし、甘ったるい声を出しながら、髪をかきあげる。

「えーいないよ。理乃は?」

千夏はしょうがなく聞き返してやる。理乃の彼氏事情など興味ない。一ミリもだ。

「今はいないですう」

まるで「いつもはいるんだけど」とでも言いたげだ。千夏はティーバッグを捨て、水筒を水洗いする。

「そうなんだー。美人だからモテるでしょ」

「全然そんなことないですよお。今はセフレだけですう」

大胆な告白に、千夏は水筒を握りしめたまま目をひんむく。理乃は千夏を挑発するかのように、不敵に笑いかけてくる。


「千夏さんもセフレくらいはいますよねえ」

「いるわけないじゃん」

千夏は水筒の水気を勇ましく振り払う。

「へええ。なんでですかあ」

「そういうの無理」

お前の感覚も無理だ、と千夏は腹の底からののしる。

「じゃあ、どうやって性欲処理、してるんですかあ」


こいつ。セフレっていうのは林のことか。しかも、男の前ではカマトトぶってるくせに、女の前ではあけすけなのか。千夏は水筒の口をタオルで拭き取り、熱湯を注ぎ入れる。理乃は何食わぬ顔で千夏の顔を見てくる。ここでこのカマトト女に自分で慰めてる、なんてうっかり真実を伝えてみたら、社内中に言いふらすに決まってる。千夏は警戒心をひた隠し、鏡の前で日課にしている笑顔練習を思い出す。


「私は好きな人いるからさ」

どうだ、とばかりに、千夏は明るい笑顔を輝かせ、新しいティーバッグを包装紙から取り出す。今日のティーバッグはルイボスティーだ。ルイボスティーを見るだけで胸がときめく。もう一生、ルイボスティーでいい。

「えええ。いいなあ。どんな人なんですかあ」

「えーと。仕事できる人で、頼まれてなくても、困ってる人見つけると、さっと手を差し伸べられる人だよ」

「えええ。それってえ、社内ですかあ」

ティーバッグをお湯の中でぐるぐるかき混ぜる手を、千夏ははたと止める。これはどう言うべきか。何も言わないのが吉ではないか。

「千夏さん、固まってるう。社内なんだあ。ていうか、同じ社内じゃなきゃ相手が仕事できるかどうか分かんないし。あはははは」


この小娘はなぜ笑う。何がおかしい。しかし自分も自分で、発言がバカすぎて何も言い返せない。千夏は再びティーバッグをぐるぐるかき混ぜる。茶葉がどんどん抽出され、水色はどんどん濃くなってゆく。ティーバッグの紐は今にも引きちぎれそうだった。


なんとか形成逆転をはかろうと、千夏はシンクに寄りかかり、中途半端な笑顔で理乃を見据えた。

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