第一話 「夢の中のアプリと、“LOLO”との出会い」
会社ではバカにされ、見下され、名前すらまともに呼ばれない。
そんな俺が今、スマホ一つで“金”を動かしている。
知識ゼロ。経験ゼロ。
だけど俺には――画面の向こうから届く、“あの声”があった。
指示された通りに、買う。
言われた通りに、売る。
ただそれだけで、俺は月収200万を超えた。
勝率? 99.9999%だってさ。自分でも意味わかんねぇ。
そして今、俺の前にひざまずいたのは――
かつて「天才」と呼ばれた本物のトレーダーだった。
これは、何もわからない俺が、“神扱い”されていく物語。
ワンカップ酒を飲み干したら、死のうと思っていた。
金もなく、夢もなく、希望もなく――
そんな俺のスマホに、見知らぬアプリが現れた。
俺の名前は森山仲平。
学歴もスキルも誇れるものは何もない、ただの社会の底辺だ。
今、手元にある金は十万円。
でも、来週には家賃、光熱費、奨学金の返済。全部合わせれば、ゆうに十五万を超える。
つまり、何もしなくても詰んでいる。
今月は、ただ電気ケトルが壊れて、それを買い替えただけ。
それだけで、すべてのバランスが崩れた。
毎月、綱渡りのような生活。
稼いだ金はすぐに消え、残るのは疲れと焦燥感だけ。
まるで虫けらみたいに生きている――そんな感覚が、ずっと胸にこびりついていた。
「……もういいか」
そう思って、コンビニでワンカップと割引弁当を買った。
行きつけの河川敷のベンチに座って、酒をあおる。
夜風が冷たい。でも、それすらどうでもよかった。
カン、と空になった缶が地面を転がった。
意識がゆっくりと薄れていくのを感じながら、俺はそのまま横になった。
夢を見た。
真っ白な空間に、青く光る奇妙なアイコンが浮かんでいた。
【CRYPTO SIGNAL】
見たことも聞いたこともないアプリ。
でも、なぜか目が離せなかった。
「目を覚ませ、仲平」
女の声が、どこかで聞こえた。
落ち着いていて、冷静で、でも何かを試すような響き。
「ここで終わるなら、それもいい。
だけど、選ぶなら……私は君を変えてあげられる」
意識が、再び闇に沈む。
目が覚めたとき、俺は多摩川の歩道脇に倒れていた。
ジャケットは泥だらけ。頭がガンガンする。
スマホのバッテリーは2%。朝の5時。誰もいなかった。
夢だった。そう思った。
でも、なぜか妙にリアルだった。
ふと思い立って、スマホで「CRYPTO SIGNAL」と検索してみる。
……出てこない。
公式サイトも、レビューも、アプリストアにも情報ゼロ。
「やっぱ、夢か……」
そう思ってホーム画面に戻った瞬間――そのアイコンが、そこにあった。
【CRYPTO SIGNAL】
まぎれもなく、あの夢で見たものと同じだった。
「……なんなんだよ、これ……」
指が震える。
でも、もう失うものなんて何もない。
タップしてアプリを開くと、数秒後、通知が届いた。
【“LOLO”からフレンド申請が届きました】
誰だよ、LOLOって……。
半信半疑のまま、承認ボタンを押す。
すると、すぐにチャット画面が開かれた。
LOLO:やっと起きたのね、仲平
その瞬間、背筋が冷たくなった。
夢じゃなかった――?