変わりゆく景色
護衛しながらもガゼルが悶々としている中、皇女
とイクシルートは仲良さそうに話していた。
街の案内も日が暮れると皆、屋敷へと戻る。
護衛も屋敷に戻ってしまえば各自あてがわれた
部屋へと戻っていく。
いつもなら、静かなエミールやビオーナ、オルフ
ェンさえもが、ガゼルに苦言を呈していた。
「ガゼル団長!このままでいいのですか?」
「そうですよ!皇女様が奪われちゃいますよ〜」
「あんなチャラチャラした男をパートナーって…
それなら団長が行けば……」
「やめなさい。………身分が………もうこの話は終
わりだ。」
「ですが……」
ガゼルの言葉に食い下がろうとしている騎士団員
を見ながら少し口元が緩む。
きっと、ガゼルの想いを知っているからだろう。
だが、身分が違う。
それだけはどうにもならないのだ。
「これ以上言う元気があるなら、今から訓練メニュ
ーを組むがいいか?」
「いえ、部屋に戻ります」
「あー、今日は街の中の警護で疲れたな〜」
みんなの視線が一気に霧散したのだった。
食事の時間まで自由になった。
ラフな服に着替えると外に出た。
潮の匂いが混じった風がそよそよと吹いている。
「ガゼル様……こちらにいたのですね」
「ティターニア……様……」
偶然なのか、外に出るとバルコニーから声がして
見上げるとそこには薄手の部屋着をきた皇女の姿
があった。
「今降りて行くからそのまま居てもらえるかしら?」
「それは……はい……」
つい、返事をしてしまった。
透き通った金糸の髪が夕日に照らされて美しいと感
じてしまった。
最近では、嫌悪感もなくなっていた。
前までは顔を見るだけで、汚物を見るような目で見
下していたのだが、誕生日パーティー以来、それも
なくなった。
好感さえ持てるようになった。
そして何より平民への態度が変わったのだ。
降りて来ると、そばにいるだけで爽やかな花の香り
がした。
「どこかへお出かけになりますか?」
「いえ、少し風に当たりたいだけよ。一緒にいいか
しら?」
「はい……俺は護衛として……」
「違うわ。今は騎士としてじゃなくて……ガゼル様
と……もう、いいわ。」
何か言いたげだったが、最後まで言わずに歩き出し
たのだった。
庭は後宮ほど立派な庭園ではなかったが、それなり
に季節の花が咲き乱れていた。
ぽつりとこぼす言葉があまりにも小さくて、ガゼル
は聞き逃すまいとそばに寄った。
「悪かったわ。男爵とはいえパーティーに出る権利
はあるわ。平民とか関係ないの。踊れないなら習
えばいいわ……だから…パーティーには出席して
欲しいわ」
あまりに予想外な言葉に、聞き間違いかと思った。
『平民のくせに、パーティーに出るなんて身の程を
わきまえなさい』
あの時、吐かれた言葉とは真逆のものだったからだ。
それに………今はまるで別人のように思えた。
ガゼルを見る視線が、行動が、同じ人物とは思えない
ほど柔らかく思えたのだ。
「貴方は一体誰なのですか……」
「……」
つい、口から出た言葉に、ハッとなる。
「申し訳ありません……」
ガゼル自身何を言っているのだろう。
見ればわかるのに……。
彼女はカストラール帝国、第一皇女ティターニア・
ルーウィン。
欲しいものを欲しいままにできる女性だった。
片膝を付くと深々と頭を下げる。
今は彼女の表情は見えない。
一抹の不安を感じながら目を瞑った。
「ガゼル様には……私がどう映りましたか?」
「それは……」
「私は生まれ変わりたいと思いました。だから変わ
ろうと思います。いつか皆が認めるような…そん
な人になりたいのです」
「……」
「顔をあげてください。私は、いい意味で変われて
いますか?」
「はい……とても、魅力的です……いえ、あの…」
咄嗟に出た言葉に、焦るガゼル見て、皇女は声を
あげて笑ったのだった。
こんな顔もできるのかと思うほど、幼く見えた。




