マリアの攻略対象
最近、ガゼルは極力皇女を避けていた。
その原因は前の夜会での事がきっかけだった。
最近、悪い噂も消え本当は見直したばかりだった。
遠征でも活躍して、そのおかげで子爵の位も得た。
これで、もう父に頭を下げる必要がなくなった。
もう男爵位にしがみつく理由がなくなったのだ。
もう一人でもやっていける。
そう確信できたのだ。
そしてあろう事か、最近ではよからぬ想いさえも
抱き始めていた。
それは、いつも熱い視線を送ってくるティターニ
ア皇女が原因だった。
「はぁ〜………」
今日はまだ皇女は来ていない。
だが、午後の休憩前には来るだろう。
最近では訓練場を始め宿舎も綺麗に改築され、使い
やすくなった。
武器も有名な職人の物が買い与えられ、戦闘力も向
上したと言える。
それも、これも全部皇女の計らいだった。
『団長、愛されてますね〜』
部下に言われた言葉が忘れられない。
「愛されている……だと?」
自分の様な者を一体誰が好きになるというのだろう。
傭兵上がりだと蔑まれ、騎士団という大きな組織に
入ったとしても、やはり汚れ仕事が多く危険な任務
ばかり与えられた。
それなのに、最近は皇女の護衛が主な任務になって
いた。
そして、皇女のたっての希望でフルール領への視察
の護衛までも頼まれる事となったのだった。
陛下直々の勅命に断るという選択肢はない。
むしろ、役得とも言える。
戦場に送られるよりは断然安全だからだ。
「一体俺はどうしたというんだ……」
皇女の顔を見ると顔が熱くなってまっすぐ見れない。
あの時のキスの感触が今も記憶から消えなかった。
お酒に酔って、誰かと間違えただけ……
そう心に言い聞かせるが、実際は気になって仕方が
なかった。
傍若無人に振る舞っていた時と違って、淑やかだと
その美しさに目を奪われるのだった。
ガゼルは頭を振ると、邪念を消し去る様に訓練に集
中したのだった。
午後から来た皇女の前でも、全く顔色を変える事な
く無表情を貫いたのだった。
その頃、マリアを家に招いたシグルドの父親はため
息を吐きながら、渋々マリアとの婚約を認めたのだ
った。
マリアが聖女として認められたからこその決断だっ
た。
聖女は国の宝とも言われ、王族との結婚が通例だ。
だが、今マリアはシグルド・ヴォルフ卿と、セル
シオ・ホエール卿。
それにペニー・スペンサー卿、テオバルド・ペリ
ドット卿との婚約を決めていた。
それを陛下が知ると、すぐにアルベルト殿下を呼
びつけたのだった。
「アルベルトよ、其方マリア嬢を娶り聖女を我が
国に留め置くのだ。いいな?」
「しかし父上、私は…」
「反論は認めん。妾なら何人でも持てばいい。今
は急いで縁談を申し込むのだ」
マリアが聖女と分かってから、アルベルトに課せ
られた初めての試練だった。




