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身内の失態

お茶会当日。

今までこれほど大勢の来客を招いた事のない庭園

に今日は大勢のご婦人方が集まっていた。


広い温室からアーチ状に作られた花のトンネルを

抜けると、テラスには白いテーブルクロスがかけ

られた机が並べられており、上には色とりどりの

お菓子が所狭しと並び、横には高価なティーカッ

プにお茶が注がれてゆく。


「さぁ、皆様、お好きな席へどうぞ」


ティターニア皇女の言葉に、全員の視線が集まっ

た。

誰もティターニアの側に座ろうとはしない。


そのおかげか、すぐにルシアが隣に座った。

嬉しそうにニコニコしながら、話かける。


公国の皇女だった彼女が全く警戒すらなく話す姿は

人の心を動かす力になったらしい。


「今日はお招きありがとうございます、皇女殿下」

「私も。こんな素敵な庭園でお茶会が出来るなんて

 夢のようですわ」


取り巻きのデボラとラジーナが言うと、周りに座り

出したのだった。


「ありがとう、ルシア。それとデボラとラジーナも

 助かったわ」

「いえ、こんな美しい皇女様に失礼な奴らですわ」

「えぇ、えぇ、そうですとも。なんて無礼な」

「怒らないで、お二人とも。今日は楽しんでいって」

「「はい、皇女様」」


少し離れた席に座っていたフルール伯爵夫人へ目を

向けると、横には何か気になる婦人が座ってきた。



「本日は紹介していただいてありがとうございます。

 フルール伯爵夫人もお心がお広いですわね」

「昔の夫の付き合いで呼んだだけですわ。これから

 はご自分で用意するのね」

「もちろんですわ。メルシー挨拶なさい」

「今日はありがとうございます、フルール伯爵夫人。

 いつもお綺麗で素敵ですわ」


子供に言わせると、少しその場の空気が和む。


そこにゆっくり近づくティターニアにはまだ気づいて

いないようだった。



「息子さんは、イクシルート卿でしたわね?うちもな

 んですよ?妾の子を引き取ると言うのもお互い苦労

 しますわね。薄汚い平民の子など育てるこっちの苦

 労を旦那は分かってくれないですし……」

「……お黙りになって…」

「フルール伯爵夫人のご苦労は私ならわかりますわ。

 だって、同じなんですもの。あの薄汚い平民を息子

 とするなんて……」

「黙ってって聞こえないんですの!」


一瞬、声を荒げたことに、トート男爵夫人は言葉を止

めた。


同じ境遇で、同情を引こうと考えていた。

が、何か言ってはいけない言葉を言ったらしい。


「子供の事は今は関係ないでしょ?どうして、そのよ

 うな事を言われなければならないの?」

「それは……お互い苦労していると…思って」

「一緒にしないでくださいませ」

「でも……」


そこのテーブルだけ騒がしいせいか、その場の空気が

重くなる。

そこへ、予想外な声が降ってきたのだった。


「何を話していらっしゃるのかしら?お話なら楽しく

 しなくちゃせっかくのお茶が冷めてしまいますわ」


「「皇女様!」」


周りも巻き込まれるのは嫌とばかりに視線を外した。


当事者二人は少し気まずそうに下を見つめる。


「フルール伯爵夫人。今日は来てくれてありがとう。

 ぜひ話してみたかったの。イクシルート卿から何

 か伺ってるかしら?」

「はい、息子から事業の話は聞いております。私ど

 もも、興味を持ってもらえた事は大変光栄に思っ

 ておりました」

「そうですか、では後日訪問してもいいかしら?」

「はい、構いません。夫、息子ともども歓迎いたし

 ます」


彼女は出来た婦人だった。

女好きに育ってしまったが、礼儀作法は婦人自ら教

え込んだという。


それも実子が死んでから、連れてこられた妾の子供

にだ。


最初は厳しくしていたが、一緒にいるうちに自分の

子供のように思うようになっていった。


だが、そのせいで死んだ息子を思い出す時間が減っ

ていって、たまに塞ぎ込むようになったと聞いてい

る。


横でフルール伯爵夫人を怒らせた原因の婦人が頭を

深々と下げて声を発した。


「ティターニア皇女様、この度お目にかかれて光栄

 に思っております。うちの息子のハニキスは実に

 優秀で、見目も……」

「息子?ガゼル卿はどうなのですか?」

「えっ……えーっと、あれは礼儀作法もままならな

 い出来の悪い愚息でして……それに比べ、ハニキ

 スは……」

「私はガゼル卿の事を聞いているのですよ?黒の騎

 士団長の今は子爵でしたわね?親なら礼儀作法を

 しっかり教えておくのではないのですか?そうそ

 う、この前イクシルート・フルール卿に会った時

 は実に紳士的な振る舞いでしたわ」


この場で、褒め称えられると言う事は、名誉な事だ

った。


妾の子供とて、しっかり育てあげたフルール伯爵夫

人の素晴らしさは、今の会話だけで十分伝わっただ

ろう。


トート男爵夫人はプルプルと身を震わせると顔を真

っ赤にしていた。


すると、横でケーキを食べていた娘のメルシーが席

を立った。


「美しい皇女様、私トート卿が娘、メルシーと…」

「メルシー!口を閉じなさい」

「お母様?」


突然の荒げた声に、驚き言葉をつぐんだ。


「聞かれてもいないのに、身分をわきまえずに話

 かけるとは、誰が躾けたのかしら?」


ティターニアの言葉に、周りは整然となった。


「今この場にいる人は。ここで聞いた事を口外する

 事を一切禁じます。もし、家族にでも話したら…

 この国で生きる場所は無くなってしまうわね」


釘を刺すと、その場を離れた。

ここでティターニアが去らなければ、収集がつかな

かったのだ。


あの付近にいた令嬢や婦人は帰っていっただろう。


だが、今日あった事は口にはしないだろう。

これでいい。


皇女がガゼル卿を気にいていることも、トート男爵

夫人の失態も、全部なかった事にしてあげる。


これ以上ガゼル卿の足を引っ張るのは許さない。


さっきの事が陛下の耳に入っていれば、大事になっ

ていた事だろう。

あさはかな身内に、足を引っ張らせる事など、絶対

にさせるつもりはなかった。



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