イクシルート卿
物語は佳境へと進んで行っている。
この頃には、セイクリット公国でも影の尖兵の被害
が多発してきていた。
「もうすぐお茶会ですね…」
「そうね、ルシア、ちょっと聞きたいのだけれど、
もしセイクリット公国で……」
「ティターニア様!私はもう、国を捨てたのです。
もう未練などありません」
「そう……だったわね。もし、近くまで行くとし
たら一緒に来るかしら?って聞きたかったのよ。
変な言い方をしてごめんさないね」
「いえ、どこまでも一緒にお供しますわ」
ルシアの答えに、ティターニアは嬉しくなった。
「さて、ちょっと行ってくるわね」
「はい、いってらっしゃいませ。ガゼル様でしたら
今日は外の街の警護で出掛けてらっしゃいます。
あと数時間でお帰りになると言っておられました
よ?」
ニコニコとしながらルシアがいう。
最近では魅了を上手く使えるようになったおかげか、
周りの者に練習としてティターニアから教わった魔
法の活用法で情報だけ聞いて来てくれるようになっ
たのだった。
それも、ガゼルに関係している情報をだ。
実に、いい子だ。
「そう、ありがとう。ルシア。」
「はい。なんでもお申し付けください」
料理長に頼んで差し入れを作ってもらっているう
ちに庭園を散歩する。
きっとできあがればここまで持ってきてくれる。
時間潰しにはもってこいの場所だった。
しかし、今日は先客がいるようだった。
こっそり影に隠れると、見守るように覗き込むと
シグルドとマリアが話をしているところだった。
「あら、主人公補正って便利よね…」
話終わるのを待っ出て行こうとすると、丁度通路
を歩いていたイクシルート・フルール卿と目が合
ってしまった。
「皇女様、どうしてこのようなところに?」
「しぃ!静かになさい」
「あ……あれはシグルド卿と……マリア嬢ですか」
「わかったなら立ち去りなさい」
少し強めに叱責すると、イクシルート卿も側に
腰を下ろしたのだった。
「皇女様は…何も言わないのですか?」
「何もって何の事かしら?」
「いえ……なんでもないです」
少し驚いた顔をしたが、ただ黙って労わるよう
笑みを浮かべてきた。
ちょっと、同情された気がして、ムッとしたが
彼はあのフルール伯爵夫人の息子だった。
女にだらしなく、あまりいい噂はないが。
それでも、血の繋がらないフルール伯爵が他所
で作った子供だと聞いている。
実の子供に先立たれ、消沈していたところに旦那
がいきなり連れてきて、最初は揉めていたと聞い
ていた。
まるでガゼル卿のところと似ている。
ガゼル卿はあまり歓迎されなかったらしいが、彼
はどうだったのだろう。
「イクシルート卿、フルール伯爵夫人はお元気で
すか?」
「気にかけていただいて、嬉しく思います。最近
ではあまり領土から出ていないと聞きますね」
「そう……ですか…」
「母になにか?」
「いえ、ちょっとフルール伯爵夫人の事業がとて
も魅力的だったもので、投資をと思いまして」
「そうですか、では、そのように伝えておきます」
紳士的な態度に、やっぱり女慣れしていると勘繰
ってしまう。
仕方ない。そう設定資料に書かれていたのだから。




