お茶会の作法
悩みに悩んだ結果、ルシアの選んだドレスは、優雅
さなどなく、あまりに可愛いものだった。
デビュダントを迎える女性が一番最初に着るドレス
のようで、露出が少なく、色気より可愛い感じの物
だった。
「ティターニア様、こちらでよろしいのでしょうか?」
店の者も、少し躊躇いがちに聞いてくる。
それもそうだろう。
いつもは宝石を散りばめたようなそんなケバいドレス
を選んできていたのだ。
それが、全く正反対のドレスを指差すルシアに同様
しないはずはない。
だが、今のティターニアはそれがよかった。
「えぇ、これにするわ。それと……このドレスをデ
ザインしたのは誰かしら?」
「はい、ただいま連れて参ります」
まだ若い職人さんだった。
自分が着てみたいドレスを考えて作ったらしい。
「あ……あの……何かありましたでしょうか」
「いいえ、貴方の作ったドレスが素敵だっかから
私をイメージしてあと5着と、この子のイメージ
で、5着作ってくれるかしら?」
「は……はいっ?喜んで」
「そう、それは嬉しいわ。できればあまり派手に
はしないで欲しいのだけれど」
「わかりました」
「お願いね」
ティターニアのイメージに凝り固まったベテラン
よりも何も固定観念がない新人のが扱いやすかっ
た。
腕も悪くないようだし、これで大丈夫ね。
そう思うと、ルシアを連れてアクセサリーを見繕
ってから靴を買って戻ってきたのだった。
店で選んでいる間、外では馬車の前に騎士団の騎
士数名と、シグルド団長が待っていた。
女性の買い物は特に長い。
それを知っているので、こう言った場所について
騎士は覚悟しなければならない。
持ち場を離れず、ただ主人を待つという退屈な
時間を。
買い物が終わり、戻ってくるとやっと解放され
るのだ。
部屋に着くと、ルシアは早速買ってきたケーキと
紅茶を淹れてくれた。
「ふぅ、ルシアの淹れた紅茶はすっごく美味しい
わ」
「そんな……////」
照れたルシアも可愛かった。
そして、皇室から直々にお茶会の招待状が出され
たのは数日後の事だった。
本格的社交の場に出ると噂が流れ、ティターニア
の主催でお茶会が催される事が発表されてから、
欠席を許さずと皇帝陛下からの勅命が降ったの
だった。
それはティターニアには知らずにくだされた勅命
であった為、誘われた侯爵夫人、伯爵夫人、子爵
夫人などは、動揺を隠せなかった。
そしてここにも、呼ばれていない事に腹を立てて
いる家族がいた。
トート男爵だった。
「おい、お前はなぜ呼ばれて居ないのだ?」
「そのような事を言われましても……男爵夫人は
皇室のお茶会には呼ばれないというのは当たり
前なのでは?」
「何を言っている?ガゼルは子爵だろ?なら、我
が子が子爵なら、なんの問題もないだろう」
「それは……」
トート婦人は言葉を濁す。
あれほど、嫌って居た妾の子供であるガゼルが、
まさか夫であるトート卿よりも高い地位に着くと
は考えもしなかった。
戦いでは最前戦で、功績を立てようとも、結局は
家の功績。
そう毎回言って居た事が、全く意味をなさなかっ
たのだ。
「なぁ〜、いつになったらあいつ、皇女様を紹介
してくれるんだ?母上、お茶会に行って、俺の
事を紹介してくださいよ〜」
「私も皇女様にお会いしたいですわ」
ハニキス・トートは長男にしてこの家で一番可愛
がられて我儘放題で育った長子だった。
その弟のグリシナ・トートは呆れたと言うような
顔で父の怒りを買わないように静かにしている。
そこに一番下の妹が、口を挟んだ。
「そうか、メルシーも会いたいよな〜、お前は誰
かつてはないのか?」
「それは……」
「あいつはどうだ?前に実子を亡くして妾の子を
養子に迎えた。えーっと……」
「フルール伯爵夫人ですか?」
「そうだ、フルール伯爵だ。あそこなら話が合う
だろう。うちも妾の子を養子に迎えたからな」
「……」
トート婦人にとっては、妾の子であるガゼルをい
いつも疎まし思って居た。
男爵らしからぬボロボロの身なりや、口調。
貴族とは思えぬ立ち居振る舞い。
どれも、認めたくなかった。
だから、教育も受けさせなかったし、自分で
出て行くように仕向けた。
それなのに……どうして戻ってきたのか?
夫のトート卿の考えが全く理解できなかったのだ
った。
こうして、お茶会が開かれるまでにフルール伯爵
夫人のサインの入った紹介状を手に入れる事がで
きたのだった。
「母上、私も行きたいです」
「そうね、メルシーはお茶会は初めてね。礼儀作
法をしっかり覚えましょうね」
「はーい」
元気よく答える娘にホッとしたのだった。




