街へ
セイクリット公国の使節団が帰って、しばらくは
平和な日々が続いていた。
ラシウスの妹ルシアは今もティターニアの側で毎
日を過ごしている。
「ティターニア様、来週の夜会でのドレスはいか
がなさいますか?」
「そろそろ秋の新作が出る頃ですわ。街の職人を
呼びつけてみてはどうですか?」
「そうですわね。では今日中に来るように言って
起きますわ」
デボラとラジーナはいつものようにテキパキと、
職人達を呼びつける準備を整える。
「待ちなさい。久しぶりに私が街に行くわ」
ティターニア皇女らしからぬ言葉に、二人はとて
も驚いていた。
それもそうだろう。
ティターニア皇女が街になど考えられなかったか
らだ。いつもなら、行くのも面倒だと、呼びつけ
ていたのだから。
街に行くとあってかルシアが目を輝かせていた。
デボラもラジーナも子爵の娘だ。
それに比べ、ルシアは公国の皇女なのだ。
身分的に一緒の馬車に乗って行くのは憚られた。
したがって、騎士が付きはするが、実際はティタ
ーニアと一緒に行けるのはルシアだけとなる。
後から出てきた割に、身分が高いせいでデボラ達
は自由にできなくなったのは事実だった。
ドレスを注文すれば一緒に買ってもらえる。
そう思っていただけに、少しばかり残念でならな
かった。
「ごめんなさいね。今回はちょっと自分で見に行
きたいの」
「いえ、ティターニア様が謝るような事ではござ
いませんわ」
「そうですわ。いつもの夜会ですもの」
平気なフリをする二人にティターニアは少し笑い
を含む。
「今回の夜会は行きませんわ。私が探しに行くの
はお茶会へ着て行くドレスですわ」
「お茶会……ですか?」
「えぇ、久しぶりにお茶会でもと思いまして」
子爵の二人にはお茶会のお誘いなど沢山来ている
だろう。
だが、ティターニアには1通も来ていないのだっ
た。
それは、これまでの態度のせいだろう。
ご婦人方の注目の的であるシグルドを独り占めす
るかのような態度に、誰もが嫌気がさしていたの
だ。
どう考えても行き過ぎた行いばかりが目立ってし
まって、実際はどうだったかのかは、今では分か
らない。
ただ、ゲーム時でも主人公へと過度な嫌がらせは
あったので、実際にやっていた事には変わりはな
いのだろうと推察できた。
「はぁ〜」
「ティターニア皇女様?」
心配気に声をかけてくるルシアにティターニアは
首を横に振る。
「なんでもないわ。それと、皇女様なんて呼ばな
で、ティターニアと呼んでちょうだい」
「そのような……では、ティターニア様と呼んで
もよろしいですか?」
「えぇ、それでいいわ。お茶会へはルシア様も行
きますか?」
「ティターニア様、ルシアとお呼びください。そ
もそも、あのまま国に帰っていたら私はどうな
っていた事か……ここに残れた事が行幸なので
すから」
それもそうだろう。
誰も誘惑できず、気に入られる事もましてや逆に
命を賭して戦争の引き金になる事もできなかった
とあれば、帰ったとしてもどこにも居場所はなか
っただろう。
ゲームでも、ここまでしか出てきていないキャラ
なのだから、知り用もないのだった。




