兄と、妹の思惑
アルベルト皇子には何の変化もない。
妹のルシアは何をしているのだろう。
これでは夜が更けていってしまう。
目的である、アルベルト皇子の籠絡が全く進まない。
それどころか、どこへいったのかさえわからない。
ラシウスは焦りが募るばかりだった。
ルシアがもし一人で、彼女の魔法属性がバレてしまえ
ば、大変な外交問題になる。
それだけは避けなければならない。
その時はこの手で……。
セイクリット公国の意向は完遂させねばならない。
それにはラシウスの命さえもかける必要があった。
この任務、成功させれれば王位継承権を持つ兄に
並び立つ事ができる。
失敗すれば……、あとはない。
ルシアとて同じ事だった。
ダンスホールを苛立ちながら探すしかなかった。
その頃、神秘的な光に包まれている庭園ではルシア
はティターニアの話に耳を傾けていた。
「ルシア様、私に魅了の魔法をかけてくださる?」
「えぇ!それは……」
「まずはやってみてからよ」
そう言われて最初は戸惑っていたが、意を決して
魔法を使った。
彼女の瞳が紫に光り、少しクラッときた。
だが、それだけだった。
「ルシア様?」
「あれ?……何か…」
戸惑うルシアを見つめるとティターニアはフッと
笑みを見せる。
「これが魔法の相性のせいよ?私とお兄様は光属
性なので魅了は効かないのよ?」
「そ……そんな…あ!」
「大丈夫よ。咎めたりしないわ」
もし、ルシアが何もできずに帰れば命すら危うい
だろう。
このあと国に帰ってからの音沙汰はない。
ゲームで出てくるのはそこまでのキャラと言う事
なのだろうか?
それとも…。
そもそも、これは恋愛シュミレーションゲームで
戦闘あり気だったはずだ。
どんな裏ストーリーがあってもおかしくはない。
だって、推しが最期死ぬようなストーリーなのだ。
「ルシア様、考えてくれないかしら?このまま
国へ帰るのと、私に仕えるのと…どちらを選
ぶのかを…」
ルシアは目を見開くと、ティターニアの手を握
りしめてきた。
「私は……ティターニア皇女様のお側に居たい
です!ぜひ、色々教えてください」
「そう、それは嬉しいわ。では、今から言う通
りにしてくれるかしら?」
「はいっ!」
二人は手を取り合うと、小声でこれからの計画
を話したのだった。
パーティー会場へと戻って来た時には、ダンス
も終わり仲のいい貴族派閥同士で談笑していた。
そこへ、ルシアを伴ってティターニア皇女が姿
を表したのだから、一斉に注目を浴びる事とな
った。
すぐに駆け寄ってきたラシウスはルシアの手を
取ろうとして、一歩下がる。
「これはティターニア皇女様、妹のルシアの姿
がなく、探しておりました。」
「えぇ、そうでしょう。ですが、妹君を少しか
りますわ。よろしくて?」
「はぃ?」
一瞬呆けた顔になったが、すぐに取り繕う。
「はい、妹も本望でしょう」
「そう?ならよかったわ」
そう言うと、父親と兄のいる場所へと真っ直ぐ
に歩みを進めた。
「おぉ、我が愛しい娘ティターニア。何をして
いたんだい?」
「いったいどこに居たんだ?」
父と兄の言葉ににっこりと微笑むと、後ろに控
えていたルシアへと視線を向けた。
「ルシアを…、私彼女を側に置きたいのです」
「「…!?」」
その言葉に、一番驚いていたのは後ろにいたラ
シウスだっただろう。
本当なら、アルベルト皇子を籠絡してこいと言
ったはずが、まさかのティターニア皇女の方を
操るとは思ってもみなかっただろう。
問題も多い皇女だし、難しいと思われたが実際
は気に入られるように魔法を使ったのだろう。
と思ったに違いない。
結局はこの国にスパイを送り込めれば上々。
王妃の座につければ、尚よしと考えていたに違
いなかった。
「ティターニア、それはどうしてだい?彼女が
誰かわかっていて言ってるのかい?」
「えぇ、存じてますわ。彼女といるととても落
ち着くのですわ。でしたら、ずっと側にいて
欲しいと思うには当然ではなくて?」
そして振り向くと、ルシアの腕を取ると引き寄
せてみる。
「ラスシス様はどう思われますか?」
「それは……妹がいいのなら構わないが……」
「はい、ぜひここに残りたいですわ」
笑顔で答えるルシアに違和感覚えながらもラシ
ウスは了承したのだった。




