一目惚れ
よく言えば、天真爛漫。
悪く言えば、自己中、傍若無人。
ある意味、ティターニア皇女に当てはまる言葉だ
った。
だが、今はマリアにピッタリな言葉になった。
場をわきまえず、自由に振る舞う。
誰も咎める人は居ない。
いや。聖女が他所の国へと行くと困るので、誰も
強くは言えないのだ。
困ったような顔を向けるシグルドへ近づくとラシ
ウスはマリアへと声をかけた。
「聖女様、私と一曲踊っていただけませんか?」
「私と?……喜んで」
紳士的なラシウスにマリアの表情がぱぁっと明る
くなった。
一瞬出遅れた貴族の子息たちの焦ったような顔に
してやったりと内心思っていた。
だが、問題はそこではなかった。
平民出身のマリアがダンスを踊れるはずがなかっ
たのだ。
曲のテンポは遅れるし、ラシウスの足は踏むし、
それも外を走ってきた靴でだ。
普通、ダンスパーティーは新品の靴を履く。
城のふかふかの絨毯を歩くので汚れなどつく事は
滅多にないのだ。
だが、マリアは違っていた。
いつも履いている靴のままなので勿論汚れもある
し、ヒールもなくぺったんこだった。
ダンスはヒールの靴が主流で、踊る時のステップ
によって細いヒールを軸に回る事がある。
それを、今のマリアでやろうにも少し難儀だった。
楽しそうに踊るマリアとは対照的に苦笑いを浮か
べるラシウスの表情は見ものだった。
マリアはこのゲームの主人公的立ち位置にいるキ
ャラクターだ。
体力もあり、自由奔放な性格から誰からも好かれ
るとあった。
が、見ている限りそうは思えない。
なぜなら、今一緒に踊っているラシウスの顔が引
きつっているからだった。
シグルドでさえ、マリアを見ながら苦笑いを浮か
べていた。
ラシウスが声をかけた時には、ホッと胸を撫で下
ろしていたのを見てしまった。
「主人公も楽じゃないわね…攻略対象にお任せし
ても良さそうね」
ティターニアはそっとドレスを翻すと会場をひっ
そりと出ていく。
今、会場の注目はマリアに集まっている。
この気を逃すてはない。
彼女の行動のおかげで抜け出すのが楽になったの
だった。
「はぁ〜、本当にもう肩が凝るわ」
「お待ちください。皇女様っ!」
腕を伸ばすと背筋が伸びて気持ちがいい。
人前では決してできない事だった。
そして、会場を出た瞬間、後ろから声が聞こえて
きたのだった。
それは聞き馴染みのない声だった。
振り向くと、慌ててかけてくるドレス姿の女性が
いた。
セイクリット公国のルシア皇女だった。
「あら…ルシア様、どう致しましたの?」
「ティターニア皇女様……お願いがあるのです」
息を切らすようにティターニアの前まで来ると、
息を整え、背を正した。
「あの…不躾ですいませんが、私……」
「……?」
「先ほどの会談の時のティターニア皇女様のお姿
を見て、すっごく素敵でしたの。ですから……」
恥ずかしがりながら何か言おうとしては、口篭っ
ていた。
それでも意を決したように口から出た言葉を聞い
て、笑いそうになったのだった。
「私の……私の、お姉様になってくれませんか?」
「……!?」
確か、セイクリット公国には皇子が2人と皇女が
4人いたはずだった。
妾の子も入れれば、もっと多い。
大国でありながら軍事に力を入れており、作戦参謀
がおらず、力で捩じ伏せるのが当たり前のせいか、
どうにも国民からの信頼はあまりないと聞く。
そして、その末席にいるのがこのルシア皇女という
わけだ。
「御兄姉は多いと伺っておりますが?」
「はい…ですが、面識もなく……末席の私などは目
もかけられておりません。ですから…」
「それは、アルベルトお兄様と婚約してと言う意味
かしら?」
「それは………」
多分、そう言う意味だろうと考えると、少し厳しい
口調で言ってみる。
ルシアは口籠ると、涙を浮かべる。
え、嘘でしょ?
ここで泣くんじゃないわよね?
兄姉に揉まれて生きてきたならもっとメンタル強い
わよね?
一瞬焦ると、少し悩むと、ハンカチを差し出した。
「少し落ち着ける場所へ行きましょうか?」
「ティターニア皇女…さま……」
ルシアは本当に一目惚れだった。
彼女は今まで誰かを好きになった事などなかった。
が、ティターニアの美しさに完全に惚れ込んでし
まったと言う意味だと知ったのはすぐ後の事だっ
た。




